「先輩の髪って何色なんですか」 黙って本を読んでいたと思ったらいきなり何を言い出すのだ。私は驚いてぱちくりと目を瞬いた。 「急にどうした」 そう問えば次屋は目線を本に落としたまま、なんとなくと答えた。他人にあまり興味を示すこともなく、執着もしない彼にしては珍しい質問だ。いつもならこれで終わる会話だが、私は続きを促したく口を開いた(これはただの好奇心だ) 「黒だよ」 今度は次屋がびっくりしたように目を見開いた。ぱちぱちと繰り返される瞬きに私は少し笑った。私も先程はこんな顔をしていたのだろうか。 「目は」 「どちらかと言えばつり目」 「鼻は」 「スッとした感じ」 まじまじと私の顔を見ている次屋はそれはそれは面白い。きっと今の顔と想像の私の顔を見比べているのだろう。 「全然違うっすね」 「そりゃそうだ」 だって今は雷蔵の顔だもの。私と似ている所なんて見つける方が難しい。 「じゃあ、口は」 「唇は薄いかな」 そう言えば、次屋は身を乗り出して私の唇に自分のそれを当てた。ちゅ、と軽く触れただけで次屋の唇はすぐに離れた。 「あんまわかんないっすね」 にやにやと笑う次屋の後頭部を引き寄せて、先程と同じように唇を当てた。そして隙間から舌を捩じ込んで、逃げる舌を捕らえる。呼吸させる暇も与えないでいたら苦しそうに歪む顔。とうとう溢れ落ちた涙に私はやっとその唇を離した。紡がれた銀色の糸がぷつんと途切れる。 「…っは、」 大きく上下する肩に、赤く染まる頬。涙ぐむ瞳が私を睨み付けた。 「どうだ、わかったか?」 「……馬鹿じゃないっすか」 そう言ってそっぽを向いた次屋に、私は軽く笑って目線を手元の本に落とした。 ぶつぶつと文句を垂れるこの子に、私の素顔を見せることは果たしてあるのだろうか。 20100713 |