実と虚(斎藤+善法寺)


まだ慣れない校舎の廊下を歩いていたら、目の前で誰かが倒れていた。茶髪の長い髪が覆い被さっていて顔はよく見えない。ひとまず僕は手を差し出してみた。

「あの、大丈夫ですか?」

驚いたようにパッと顔を上げた相手は、六年の制服を着た可愛らしい顔をした人だった。

「あ、どうもすみません」

そう言ってその人はにこやかに笑って僕の手を取った。


出会いは、まあそんな感じ。







「また怪我したの?」

保健室の扉を開けた瞬間、善法寺くんがあからさまに嫌そうな顔をして僕を迎えた。せっかくの可愛い顔が台無しだなと内心呟く。もっともその可愛らしい外見と彼の性格には差がありすぎるのだが。

「ほら、座れば」

善法寺くんは手にしていた調合薬を机の上に置いて、椅子を指差した。僕は素直に彼の前に置かれたその椅子に腰掛ける。

「今日はなに?」

「実習で敵の罠に掛かっちゃって」

笑って言えば、善法寺くんが深い溜め息を吐いた。

「相変わらずだね、斎藤は」

彼の細くて長い指が僕の腕に包帯を巻いていく。きっちりと綺麗に巻かれる包帯を僕はじっと見ていた。

「もう少し危機感持った方がいいんじゃない?」

「うん?」

僕は包帯から目を話して、彼の顔を見た。頬に影を落とすその長い綺麗な睫毛に見とれていると、ぱちりと視線が交わる。

「このままだといつか死ぬよ」

「そうかもね」

素っ気なくそう答えると、善法寺くんは厭らしく笑った。

「これでも心配してあげてるんだよ」

「へえ、それは嬉しいなあ」

「全然嬉しそうじゃないけど」

気持ちが込もってないのはお互い様だろうと思って僕も軽く笑っておいた。そうすれば、善法寺くんは包帯の端を丁寧に留めて終わったよと言った。

礼を言い、それじゃあと僕は椅子から立ち上がって扉に手を掛けた。


「もう来るなよ」


そう聞こえ振り返って見た善法寺くんの顔が、やけに不機嫌そうだったから、もしかしたら本当に心配してくれてたのかなと閉じた扉の先で笑った。



20100711
お互いに毒を吐く
しかし実は似た者同士で仲良し


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