わからない(次屋+浦風)


わからないと思った。



どこから出てきたのだろう。透明な液体が彼の瞳に膜をつくって、細い睫毛を伝ってこぼれ落ちた。音もなく、とろりとなめらかに液体は頬を滑る。

俺は藤内から目が離せなくて、その顔をずっと見つめていた。それに気付いたのか向けられた大きな瞳は少しだけ赤みを帯びている。一滴こぼれただけで先程見たそれはもう出てくることはなかった。

「帰ろうか」

「どこに?」

「学園にだよ」

「ああ」

「もう日が暮れる」

そう呟いて藤内が見上げた空を俺も追った。不思議な空だった。水面に薄紫の絵具を垂らして棒かなにかで裂いたような、雲と空とが溶け合うような、なめらかで淡い空だった。ふと先程彼がこぼした液体を思い出して、それにとても似ていると思った。

「帰ろう」

そう言い聞かせるようにして藤内は背を向けた。俺は黙って振り返る。


「どうして泣くんだ?」


振り返った先の死体の山に俺は訊ねた。答えはない。彼の涙の理由が。





わ か ら な い




20101121


あきゅろす。
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