「なあ、竹谷」 なんだ、と俺が問うと、鉢屋は窓の外を眺めたまま呟いた。 「私はいきものかな」 「はあ?」 突拍子もない発言に(鉢屋にはよくあることだが)俺が驚いていると、鉢屋はコロコロと顔を変えてみせた。兵助、潮江先輩、孫兵、しんべエ、そしてまた鉢屋というか雷蔵の顔。 「他人に化け続けて、自分の顔なんてとうに忘れてしまった。そんなのまるで人形じゃないか」 それでも私はいきものかな、と鉢屋は続ける。 「俺が生物委員だから聞いてるのか」 「そうだ。お前は生物の世話は最期までみるんだろう?」 「ああ」 「私も最期までみてくれるか?」 なんで俺がお前の世話をしてやらなくてはいけないのか、咄嗟にそう思ったが言わないでおいた。今日の鉢屋はどこかおかしい。否、おかしいのもいつものことなのだが。 「みるよ。死ぬその時まで」 少しだけ驚いたように見開かれた目が雷蔵のものによく似ていた。鉢屋はこんな表情をしないから。 「…私もいきものなのか?」 「ああ。お前は変装好きのちょっとおかしい鉢屋三郎というただの人間だ」 「…そう、か」 嬉しそうにそうかそうかと呟いて鉢屋はまた窓の外を見た。 梅の花に紛れためじろが鳴いた。 と。 20101024 |