What color?(こへ次)



怖いくらい真っ赤な夕焼け空だった。






世界が赤い。俺は空を仰いだ。真っ赤に色付いた夕陽と雲が溶け合う。美しい夕焼け空だといつもなら思うだろう。しかし今だけはそう思えなかった。ゆっくりと視線の先を地上に下ろせば、ここにも赤い世界が広がっていた。

「…やりすぎじゃないっすか」

いくつもの死体の山に立ち尽くす男に声を掛けた。紺色のたてがみが揺れる。向けられた瞳は獣のようだった。

「お前に手を出したのが悪い」

確かに、俺がうっかり迷子になって先輩たちとはぐれさえしなければ、こうして野党に襲われることもなかっただろう。しかしだからといってここまでする必要があるのか、口から出掛けた言葉を咄嗟に飲み込んだ。そんな言葉この人にはきっと意味がない。

「お前は私の所有物なのに」

まさに暴君の名が相応しい。俺は静かに溜め息をついて、怪我をした腕を庇うように歩き出した。

「痛むか?」

急に暗い影が落ちたと思えば、目の前に立ち塞がる七松先輩がいた。相変わらず怪我どころか汚れひとつないようで。全く、恐ろしい人だ。

「平気です」

そう言えば、不機嫌そうに先輩の顔が歪んだ。不意に伸ばされた手が俺の後頭部を引き寄せる。噛み付くように合わさった唇はかさついていて、微かに血の味がした。痛みを感じて気が付けば、口端を噛まれたようだ。文字通り獣かよと内心毒づく。

「お前は私のものだ、三之助」

真っ直ぐ俺を捕らえる両眼に思わず息を飲んだ。

「死ぬまで、ずっとな」

頬を触れていたその大きな手が離れる。夕陽に染まるその手はまるで血を浴びたかのように真っ赤だった。

いつか俺はこの人に殺されるのではないのだろうかと、赤い世界の中でぼんやりとそう思った。



20101018
全てがまっかっか


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