狐が嘲笑う(鉢屋+斎藤)


「あ、鉢屋くん」

たまたま四年と五年の長屋を繋ぐ廊下を歩いていたら向こうから派手な金髪が歩いてきた。

「不破ですよ」

そう言ってみれば、斎藤は焦ったようにごめんなさいと頭を下げた。ぱさりと落ちた髪が縁側から射してくる日差しによってキラキラと透ける。髪結いなだけあって綺麗な髪だ。

「いいえ、慣れてますから」

私は胡散臭い笑顔を張り付けて、軽く手を振った。ホッとしたように斎藤の顔が緩む。本当に忍には向いていない類いの人間だ。

(…哀れな人)

人懐っこく話し掛けてくる斎藤に笑顔で応えながらそう思った。そういえば私は今まで彼とろくに話しをしたことがない。噂の編入生の話は聞いていたが、実際に面と向かって会話をするのはこれが初めてかもしれない。この世界に自ら足を突っ込んでくる物好きな人間がいるとは、そんな感情しか彼には持っていなかった。愚かにも程がある、あのまま平穏な暮らしをしていれば良かったものを、と。

その感情は彼とこうして話してみても変わることは無さそうだ。その姿にはこの世界はあまりにも似合わない。

一通り話し終わったらしい斎藤は笑顔でそれじゃあと言った。私も笑ってその場を後にしようと足を踏み出した。


「鉢屋くん」


ゆっくりと振り返る。細められた目が私を真っ直ぐに捉えた。

「お話しできてよかった」

またね、と紡ぐその口元から目が離せない。


揺れる金色を見送った後、私は腹を抱えて笑った。







なにがこの世界は似合わないだ。

もうとっくに、似合い過ぎるくらい彼はこの世界に染まっている。



20100709
騙し合い


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