憂鬱な夜 ザア、と生温い夜風が私たちの間を吹き抜けていった。地面に広がる血溜まりが波紋を立てて揺れた。 「次屋」 今夜の相棒とも呼べる名前を呼べば次屋は夜空に向けていた視線を私に移した。頬にべったり着いた赤黒い血に私は内心眉を寄せる。 「帰る前にその血を落とせ」 そう言ってやれば「…ああ」と思い出したように袖でその血を拭った。そのさも気にしていないような仕草に私は微かに嫌悪感を覚えた。 「…初任務はどうだった」 見渡す限りの死体の山を眺めて次屋は目を細めた。 「特になにも」 「…そうか」 素っ気なくそう答えた次屋に私は二年前のあの日を思い出した。次屋は自分に似すぎている。返り血を浴びてもなにも感じかなかった自分に。 (…ああ、くそ) 先程感じた嫌悪感の正体を確信し、私は静かに息を吸った。生温く、加えて血の匂いが充満した空気を肺に流し込む。気持ち悪さに吐き気がした。 (…まったく、嫌な夜だ) 可哀想な子供がふたり。 20101008 |