おかえりなさい(綾部+立花)


縁側に座り夕陽に染まる洗濯物を眺めていたら、カアカアと烏が誰かを呼んでいた。親か仲間かわからないけれど、そんな烏は群れを成して山に帰って行く。橙色に燃える山は、美しく世界を彩っていて、視界は橙一色だ。

「おや」

そんな橙色の中で一際目を引く朱色に私は声を漏らした。

「なんだ、喜八郎か」

すぐに私に気付いた我等が作法委員長、立花仙蔵は血まみれの腕を軽く上げて挨拶をしてきた。

「珍しいですね、貴方が怪我をして帰って来るなんて」

いたるところから血を流し、足を引き摺り、息を乱している、そんな無様な立花仙蔵を、私は今まで一度たりとも見たことがない。

「そんなに手強い敵だったんですか」

「いや、これは途中で会ったしんべえと喜三太を庇ったら…」

思い出したように、立花先輩は後輩の名を挙げる。

「そうだ。しんべえと喜三太は帰って来たか?」

「はい、先刻」

立花先輩より一足早く帰って来た二人はびゃあびゃあ泣きながら、立花先輩が自分たちのせいで怪我をしたと先生方に訴えていた。

「怪我はしていませんが保健室にいるはずですよ」

そう言えば立花先輩は安心したように胸を撫で下ろし、微笑んだ。

「そうか。なら顔を見に行ってやらなければな」

べったりと血が付いている色白の肌は、洗濯物や山と同じように橙色に色付いていた。その顔をぼんやりと見ていたら、不意に合った目が細められる。

「なんだ、喜八郎も心配してくれていたのか?」

「まさか」

けろりと答えた私に立花先輩は肩を揺らして笑った。そして重たそうな足を持ち上げて、縁側に足を掛ける。

「ただいま、喜八郎。待っていてくれてありがとうな」

そう擦れ違い様に呟いて、立花先輩は保健室に向かった。彼の歩いた場所に残る血を見て、私は息を吐いた。

「全く、馬鹿な人」

少しずつ夜の濃紺と交わり合う橙色を眺めながら、私は小さく呟いた。








20100727


あきゅろす。
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