※転生 日本の夏は昔から暑い。昔とはいつのことか。せいぜい俺が生まれた十四年前か。否、もっともっと昔からのような気がしてならない。そんな昔のことを俺が知っている筈ないのだけれど。 ジージーと蝉が悲鳴を上げる。彼らの声がこの暑さを一層際立てているような気がする。短い命を削って鳴いているのだから悪くは言えないのだけれど。脳裏に昆虫好きな友人の顔が浮かんですぐに消えた。 「蝉が短命なのも昔からだな…」 ふと口をついて出た言葉に、俺はまたかと溜め息を吐いた。 俺は昔から(この昔とは俺が生まれた十四年前のことだ)見たこともない景色に見覚えがあったり、初めて嗅いだ匂いを知っていたり、風が肌を撫でる感覚を懐かしいと感じたりする。まるで昔に一度経験しているかのように。これをデジャブというのだろうか。 「うーん、不思議だ」 いくら考えたって答えが見つかる訳でもなく、いつもここで思考はストップする。俺は諦めて歩き出した。 「おーい、兵助くーん」 何処からか斎藤の声が聞こえた。上を見上げれば、教室の窓から身を乗り出して大袈裟に手を振る斎藤の姿があった。揺れる金髪が眩しい。 「気を付けろよ、斎藤。お前は昔からどんくさいんだから」 ……昔から? そう思ったのも束の間、斎藤が窓から落っこちて来た。 「おまっ、言ったそばから!二階だからって危ねーだろ!」 「えへへー、ごめん」 ナイスキャッチ…とは言えないが、辛うじて斎藤の身体を受け止めた俺はゆっくりと上半身を起こした。俺に跨がるように座る斎藤がへらりと笑う。 「昔からいつも兵助くんが助けてくれるんだから」 ありがとうとにっこり笑った斎藤に俺はなにも言えなかった。 (……昔から?) 20100722 |