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07.


赤井さんの姿を見た次の日の朝。
期待はむなしく、私の身体はまた小さいものへと変わり果てていた。
その姿を見て、赤井さんはむしろ組織から身を隠せると言って笑っていた。とりあえず、朝様子を見に来てくれたコナン君に夜身体が一時的に戻ったことを説明し、再度灰原さんに相談してくれると言ってくれた。


そのままコナン君は学校へと向かい、私は昨日赤井さんと話していたFBIの人と会う事になった。



赤井さんの車に乗り、どこか分からない場所へと向かう。そう言えば、私はここがどこなのかもよくわかっていない。ここは自分がいたところから離れた場所なのだろうか。そもそも自分のいた場所もわかっていないのだから、理解することはできないだろうけど。



変わっていく風景が新鮮で、歩く人達をこうやって見ることも初めてで、少しだけわくわくする自分がいる。




「外の景色がそんなに面白いのか?」



すると、ずっと運転していた赤井さんが私にそう尋ねてきた。今日は昴さんに変装はしていなく、少しだけまだ反応してしまうが、ゆっくり息を吸ってなるべく冷静に話すようにする。




「、こうやって眺めるの、初めてな気がするから」
「そういえば、ずっと白い部屋の中にいたと言っていたな。生まれてから外にでることがなかった、ということか?」
「、たぶん、そんな気がします。だから自分がどこにいたのかも分からないし、ここがどこなのかもさっぱり……。他の人よりも、常識みたいなのもあんまり分かってないと思う」
「だが、昨日の様子ではそこまで不自然には思わなかったが」
「ずっと、お部屋の中で本を読んでたんです。そこでいろんな知識はつけました。あとは、たまに会いに来れくれる人にもちょっとだけ、外の話を聞いたりして、なんとなく知ってることもあります」
「なるほど。それでそれなりに生活できる知識を得たわけか」
「……たぶん、それだけじゃない話もたくさん聞かされた、と思うんですけど」



そう言って、私は下を俯く。外の世界以外にも、きっとその組織の話もされているはずなのに、その肝心なところは何も覚えていないなんて。沈んだ気持ちに赤井さんは気付いているのか、まっすぐ前を見ながら私に声をかけた。



「焦る必要はない。奴等は俺達の前から逃げることはしないだろうしな。ここにお前がいるのなら、尚更さ」
「……そう、でしょうか」
「そのための俺達だ」



赤井さんは一切曇りのない目でそう言い放っている。その自信は一体どこからくるんだろう。そんなことを思っていると、ふと視線が合い、少しだけドキッとした。




「ところで、その敬語はいつまで続くんだ?」
「、え……」
「これから長い付き合いになる。もっと気楽に話してくれていい。まあ、無理にとは言わないがな」
「……ど、努力します」



優しく話しかけてくれる赤井さん。嬉しい気持ちはあるけど、赤井さんがすごく大人びているからなのか、なかなか一緒にいることがなじめない。昴さんの時はそんなことないのにな。そんなことを思いながら前を向く私。
その時、赤井さんの方から、何かが鳴る音が聞こえた。
赤井さんはそれに気づくと、すぐに服の中から携帯を取り出した。どうやら電話が入ってきたようだ。




「はい」
"赤井くん。急で悪いが、集合場所を変えてもいいだろうか"
「構いませんが……何かトラブルでも?」
"近くで一連の事件と似た事件が先ほど起こっている。組織の仕業かもしれない。"
「、殺人ですか?」
"いや。今回は未遂で終わっている。だが、狙われた人物は彼女と同じ見た目だ。証拠も一切残っていない。"
「……わかりました」



赤井さんは誰かとそのまま話してしばらくしてから電話を切った。
その後、車のハンドルを切って、逆方向へと進み始める。
何かあったのだろうか。そう不安そうに見つめると、その視線に気が付き、口を開いた。




「すまないな。目的地を少し変更した。」
「……何かあったんですか?」
「ああ。気になることが起きているようだ。まだ確信はないが……君を狙っている奴等の仕業かもしれない」
「、私を……」



自分を狙っている人がそこにいる。胸のざわつきを必死に抑えながら、私は静かに目的地に向かう。
どうか何も起こりませんように。そう願って。







着いたところは、もうあまり使われていないようなビルの駐車場だった。
そこには既に一台の車が停まっていて、赤井さんもその横に車を停めた。
そして、車から降りるように言われ、言われた通りに外へ出る。



すると、隣の車から三人の人が出てきて私達の方へと近づいてきた。




「二人共、無事なようだね」
「はい」
「その子が例の子かい?」




大人の男の人は、赤井さんと話しながら、視線を私の方へと向ける。その後ろにいる、綺麗な女の人、体格のいい男の人も一緒に私の方を向いた。
そのことに少し怖くなって、私は赤井さんの後ろに隠れる。




「大丈夫だ、敵ではない。全員俺と同じFBIの仲間だ」
「ああ、すまない。怖がらせてしまったようだね」



そう言って、一番前にいた男の人は、私に目線を合わせ、ゆっくりと手を私に差し出した。



「FBIのジェイムズ・ブラックだ。赤井君から君の話は聞いている。君のことを全力で守らせてほしい」



その声はとても穏やかであり、恐怖はない。それが分かり、私はゆっくり赤井さんの後ろからジェイムズさんの手の方へ近づいて、その手をとった。
すると、その後ろにいた綺麗な女の人と男の人が私の近くへ寄ってくる。



「私はジョディ・スターリング。気軽にジョディって呼んで。」
「自分はアンドレ・キャメルといいます。」
「よ、よろしくお願いします」
「秀から話は聞いたわ。ずっと組織にいたなんて、辛い人生を送ってきたのね。何かあったらすぐに私達を頼っていいのよ」



ジョディさんはそう言って、私の頭を優しくなでた。どうやら本当にここにいる皆は、赤井さんの信頼する人達みたいだ。私を見る目が、守ろうとしてくれているものだと実感できる。




「……あの。本当に、私なんかでいいんですか」
「、それは、どういうことだい?」
「私、自分のこと何も分からないから……。自分がその組織の大事なことを知ってるって実感がなくて……。でも、すごく怖い人達に狙われているのは本当だと思うから……。
だから、すごく迷惑かけちゃうと思うんです」



そう言って俯く私を見て、その場にいる皆が同じように微笑み、ジョディさんは私の頬に手をあてた。




「それならそれでいいじゃない」
「、え」
「貴方の記憶が、たとえ組織の重要な情報でなくても、私達が貴方のことを守れたら、それでいいのよ。なんたって、私達はFBIなんだから」
「自分達は、全力で君のことを守ります。だから安心してください。FBIの名は伊達じゃありませんよ」
「それに、君の傍にいる赤井君は、FBIきってのエースだ。だから、君はなんの心配もしなくていい」
「っ、」



三人からのあまりにも優しい言葉に、私は何も言えなかった。こんなにも無関係な人を守ろうとしてくれる人達がいるなんて。ただただ嬉しくて、涙がでそうになるのを必死に抑えて、私は微笑み返した。
後ろで赤井さんが笑ってくれてることに気付きもせずに。




「まあ、腕は確かだけど、秀は不愛想だから。何かあったらすぐ私を呼んでちょうだい」
「あ、それなら自分も話くらい聞きます」
「……おい、お前達」
「どうせ秀のことだから、口数少なくて、この子にも怖がられてるんじゃない?表情からも読み取れにくいもの」
「おや、そうなのかい?」
「え、いや、そんなことなくて……!!」
「怪しーい。」
「そうだ、これに君に渡そう。君も我々と連絡をとれるようにした方がいいと思ってね。用意しておいたんだ」
「、これ……」
「携帯電話よ。もうここにいるメンバーの連絡先は入ってるわ。後は好きに使って」
「何か悩んでいるときは連絡してくれ。もちろん赤井君のことでもいいぞ」
「はあ……」
「しばらくはこのまま赤井君に君の護衛をしてもらう。だが、何かあったときは我々も同行しよう」
「、ありがとうございます」




私はジェイムズさんから受け取った携帯を取り出し、使い方などを教わりつつ、楽しく対談した。
昨日の夜よりも、赤井さんの笑っている表情も見れた気がして、不思議と嬉しい気分だった。



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「すごくいい人達なんですね。FBIって。」



FBIの皆さんと別れ、私はまた赤井さんの車に乗って自宅へと戻っていく。
いつの間にか辺りはオレンジ色に染まっていた。
その綺麗な景色を見つめながら、私は赤井さんにそう呟くと、赤井さんは優しく笑っていた。



「気に入ったか?」
「はいっ。今日会えて良かったです」
「これからもっと会う機会が増えるだろう。必ずお前の力になってくれるはずだ」
「それはすごく安心ですね」



私は今日もらった携帯電話を握りしめる。これで誰かと繋がることができるんだと思うと、何故かすごく嬉しかった。
あの部屋で一人でいることが多かったからなんだろうか。そもそも前の私には友達と言える人もいなかったんだと思う。




「(あの人とも……もっとたくさんお話したかったな、)」




今日会ったFBIの皆のように、笑いあうことができたなら。少しだけそんな後悔を胸に、携帯の画面を開いてみる。
綺麗な花の映った表示画面。
どうやったら連絡できるのか、操作方法が分からない私は適当にボタンを押してみる。だけど、そこに映った画面も書いてある意味が分からない。



「あ、赤井さん……。これどうやったら皆に連絡できるんですか……?」
「、ああ。操作方法について説明していなかったな。後で教えよう」



赤井さんはそう言って、横目で私を見ながら面白そうに笑っている。私が操作できないことが珍しいのだろうか。少し恥ずかしく感じる。
そして、もう一回携帯電話の画面を見たとき。
ふと、頭の中に何かの場面が入ってくるのを感じた。




そう、あの真っ白な部屋だ。




"……お姉ちゃん?"
"っ、"
"お姉ちゃん、どうしたの?泣いてるの?"


そう。その日は珍しく夜遅くにあの人が来てくれた。
いつもより寂しそうな顔をして、私に駆け寄るお姉ちゃんが心配で、私はお部屋にある折り紙で、花を作ってそれをプレゼントした。本物を手にすることもできなくて、それ以上のものをあげることができなくて、それでもお姉ちゃんに笑ってほしかったんだ。

そしたらお姉ちゃんは、綺麗な目から少しずつ涙を流していた。
何故そんなにも悲しい顔をしているのか、私には考えても分からなかった。


"皆にいじめられたの?"
"……ううん。違うの"
"じゃあ、辛いことがあったの?"
"……そう、ね。……ううん、そうとも言い切れないのかも。"


お姉ちゃんはそう言って、少しだけ笑う。


"今が幸せだから、だから余計に悲しくなるの"
"……幸せだから?"
"ごめんね。難しい話しちゃって"
"……お姉ちゃんが悲しいと、私も悲しい"


私はお姉ちゃんが泣き止むように、ぎゅっと身体を抱きしめる。
その身体は冷たくて、震えてて、私もびっくりするくらいだったのを覚えてる。


"……理名は優しい子ね"
"お姉ちゃんが悲しくならないように、私からのおまじない"
"、え"
"私がお姉ちゃんの近くにいなくてもそのお花がお姉ちゃんを守ってくれるよ。


私の大好きな、白いお花が"



あの日のお姉ちゃんは、いつもより元気もなくて、様子もおかしかった。そしてずっとポケットに入ってる何かを気にしていた。
それが、お姉ちゃんの携帯だったと、その時の私は気付きもせずに。




「(あの時私があげた花に似ている)」



携帯に表示された画面に映る白い花。
それに伴って思い出したあの日の記憶。
何故今このことを思い出したのだろう。
あの時あの人が、携帯電話を気にしていた様子。
もし、あの悲しい表情と関係あるのなら、




「(あの人は、誰かに連絡をとりたかったのかな……。大切な誰かに……。)」




今はもう会えないあの人の想い。
そのことも、この記憶を通して思い出すことができるのだろうか。




「、どうした」



静まり返った私の様子を見かねたのか、赤井さんが声をかけてくる。私ははっと我に返り、携帯電話を閉じてしまった。




「う、ううん。何でもないです」
「……もうすぐ家につく。そしたらゆっくり休むといい」
「、はい」




赤井さんはそう言って、私を気遣ってくれる。
最初は怖い人だと思ったのに、ずっと優しくしてくれる赤井さん。今、私の傍にいてくれるこの人がもしいなくなってしまったら……。
それはなんだかすごく寂しく感じた。



「……あ、の」



私は恐る恐る隣にいる赤井さんに口を開く。




「……赤井さんが、お仕事忙しいのは知ってるけど、」
「、」
「……それでも、電話、したくなったら、」



してもいい?
そう聞こうか迷いながら、次の言葉を言い出せずにいる私。
すると、私の言葉よりも先に赤井さんが口を開く。




「……必ず電話に出れる、とは言い切れないが、それでいいならかけてきていい」
「っ、本当?」
「ああ」
「お仕事の邪魔にならない?」
「問題ない。そのくらいどうとでもなるさ。流石に捜査の途中ででることは難しいがな」
「……ありがとうっ!!」


思わず自分でもびっくりするくらい声が大きく出てしまった。はっと我に返り、また下を俯く。
赤井さんは優しく笑っていた。




(繋がり)


あまりにも嬉しそうに君が笑うから
思わず笑みがこぼれ、君の頭を撫でてしまった

こんな優しい気持ちになったのはいつ以来か


彼女の残したこの光を
なんとしても守り抜きたい


その気持ちに嘘偽りはない


俺には彼女を守る責任がある


この時の俺はそう思っていた


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あきゅろす。
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