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06.


ご飯を食べ終えた後、コナン君は訳あって今は別のところに住んでいるということで家を出ていった。私は有希子さんに先にお風呂に入るように促され、湯船につかることにした。



小さくなった自分の身体を見つめ、薬のことについて考える。
改良されていると言ってたあの薬。皆が言うには、コナン君達の知っている薬に比べて私は効き目が遅いとかなんとか。他にも何か身体に異変があったら、すぐに知らせるように言われたけど、今のところ戻る様子もない。

このまま幼い姿で過ごさないといけないのだろうかと考えてた時、身体がじわじわと熱くなる違和感を感じ、不思議に思い、自分の身体をまた見つめる。
今湯船につかっているから感じているのだろうか。
よくわからないこの違和感は何だろうと思っていた次の瞬間だった。


身体が元に戻ったのは。




「、えっ……!?」



一瞬のような出来事で自分にもよくわからなかったが、まるで何かの魔法のように身体が大きくなるのを感じた。
さっきまで広かった湯船も、少し広いくらいに感じる。目線も元に戻っている。




「どうなって、っ……!?」




驚きのあまり立ち上がろうとした瞬間、力加減を間違えたのか、足を滑らせ、そのまままた湯船の中へと入っていく。
その大きな音に気付いたのか、外から私に向かって叫んでいる声が聞こえた。




「どうした、何かあったのか」
「す、昴さんっ……!!」



困惑していることが伝わったみたいで、昴さんは浴室の前の扉まで近づいている。さすがにそこから入ろうとはしてないが、何かを察しているようだった。
私は身体にタオルを巻き付け、ゆっくりと扉の方へ近づく。




「あの、身体が今、急に戻って……!!」
「身体が……?では今、君は元の姿なのか?」
「は、はい……」
「わかった、今有希子さんを呼んでくる。それ以外に何か異変はないか?」
「今のところは……」
「ならいい。少し待っていてくれ」



そう言って昴さんはそのまま浴室を離れ、私は有希子さんが来てから用意してもらった服へと着替えを済ませた。


髪を乾かし、リビングへと戻ると、昴さんが待っていてくれている。私の姿を見て、少しだけ驚いていた。




「……本当に元の姿だな」
「はい、」
「一体どういうことなのかしら。新ちゃんや哀ちゃんはそんなことないのに……」
「やはりあの薬とは少し違うんでしょう。考えられるのは、一時的に大人の姿に戻り、明日の朝また子供に戻っている場合か、もしくは薬の効果が短く、このまま元の姿でいられる場合のどちらか。」
「そうよね……。このまま戻っていられるのならいいのだけれど……」
「まあ、幸い、身体に何も症状はない。明日まで様子を見て、また坊やに相談しよう。」
「はい」




結局私はそのまま部屋に戻り、明日コナン君達に相談するということで話が終わった。
ベッドに入り、部屋の電気を消す。だけど一向に来ない眠気と、よくわからない自分の身体に不安が走る。
夜中に自分の身に何かあったら。
そう考えたら止まらなくなり、私はベッドから身体を起こした。




「(……ちょっとだけ、お水飲みにいこうかな)」




そう思い、私は音を立てないようにゆっくりと部屋を出る。階段を下りて、キッチンの方へと向かい、コップに水をくむ。口に含むと、意外にも自分の口が乾いていたことを実感すると共に、少しだけ胸の不安が流されていくようなそんな気分だった。
ゆっくりと深呼吸をし、再度階段を上る。
すると、後ろから光が差し込んでいることに気が付き、振り向いた。その光は昴さんの部屋からだった。



「(まだ昴さんは起きているのかな)」



昼間もどこかに行っていたし、きっと仕事が忙しいんだろうと思う。コナン君から聞いた話だと、FBIは日本でいう警察みたいなもので、悪い人を取り締まっている人達なんだとか。
邪魔をしてはいけないという気持ちの反面、もし昴さんが疲れて眠ってしまっているなら、と思う自分がいる。昨日からずっと昴さんに助けられているし、何か力になりたい。
そっと私は昴さんの部屋のドアに近づき、身体をかがめて中の様子を少しだけ見てみる。もし昴さんが仕事をしているなら、すぐに部屋に戻ろうと決めて。



「(、何かの話し声)」



部屋の中からは、昴さんの声ではない声が聞こえた。それも誰かと話しているようだ。そっと様子を覗くと、後ろ姿が見える。携帯電話を使っているようだ。
そして、その後ろ姿には、私にも見覚えがあった。
あの、雨の日に会った、黒い人の姿だ。



「っ、!?」



心臓がバクバクと音とたて、全身から一気に血の気が引いていく。
何故昴さんの部屋で彼の姿があるのか。
中にいるその黒い人は、電話越しの人と今も話を続けているようだ。




「いえ、彼女が奴等の探している人物であることは間違いないと思います。一連の事件の犠牲者の外見とも特徴が一致している」
"そうか。では、彼女が記憶を取り戻せば、奴等に関する情報も手に入る上、優位にたてる可能性もあるな"
「ええ。予定通り、明日そちらに彼女を連れていきます。」
"今外に出して大丈夫なのかい?奴等に狙われる可能性だって"
「一連の事件からはもう一週間以上経過している。その事件が止まった理由として、奴等は彼女を殺そうとしていたが、上から何らかの命令が入り、手を出せなくなったのでは、と俺は推測しています。でなければ、あの組織が関係者を野放しにしておくとは考えにくい」
"たしかにそうではあるが"
「それに、幸いにも彼女は日中子供と化している。見た目は区別がつきにくい」
"……わかった。くれぐれも慎重にな"
「(彼女って……もしかして、私のことなの?)」



耳に入ってくる話し声は、あまり理解できないが、自分のことを話しているようだ。
そのことにさらに緊張が高まっていく。これからどうするか、と考えるよりもここから離れたい気持ちに駆り立てられ、私はすぐさま立ち上がった。
すると、その時立ち上がった反動で床のきしむ音が廊下に響き渡る。そのことに私は身体をびくっと揺らした。



当然、部屋の中の黒い人にもその音は聞こえている。




「誰だ」
「っ……、」



低い声が私に向かって発せられる。それとともにゆっくり足音が近づいてきて、私は急いで自分の部屋の中へと飛び込んだ。そのまま音を立てないように部屋のドアを閉め、布団に包まり強く目を瞑った。
出来れば夢であってほしい。あの人がここにいるなんて信じたくない。起きたら、昴さんが笑っていてほしい。
そんな強い願いをこめて、しばらくしていると、辺りに音が何もないことに気が付いた。



私はそっと布団から部屋を覗きみる。そこには何も変わらない部屋が見え、ほっと息を吐いた時だった。
上から誰かから思いっきり布団をはがされたのは。




「ひゃあっ……!?」
「覗き見とはいい趣味をしているな」




驚いてみれば、そこにはあの黒い人が私を笑って見下ろしている。どうやら私の見える位置とは違うところに立っていたようだ。
血の気がさっと引いていく。身を隠せるものもなく、泣きそうになるのをこらえて、私は壁まで後ずさった。
その様子を不思議そうに、黒い人は見つめている。



「なぜそんなにも怖がる」
「う……」
「……そうか。まだ君にはこの姿を見せていなかったか」



黒い人はそう言って笑うと、首についている何かに触れた。そしてまた私に口を開く。




「これで、お分かりいただけますか?」
「、え……」




その声は、聞きなれた昴さんの声だった。口調も、初めて話した時と一緒のように丁寧なもの。その変わりように唖然とする姿が面白かったのか、黒い人は面白そうに笑っていた。
そしてもう一度首についているものに触れる。すると、また声が昴さんから黒い人のものへと変わった。




「有希子さんから話は聞いているだろう。沖矢昴は俺の仮の姿。これが俺の本当の姿だ。」
「……変装、してたんですか?」
「ああ。説明が遅くなってすまなかったな。俺がFBIの赤井秀一だ」




赤井秀一。その名前はたしかに有希子さんから聞いた名前だ。まさか名前だけじゃなく、姿も違うなんて考えてなかった。
そしてその時、私はあの日のことを思い出す。あの雨の日のこと。


私はこの赤井さんの姿を見て、怖くなって逃げている途中で気を失っていた。有希子さんの話で言っていた沖矢さんが助けてくれた、というのは、




「……じゃあ、貴方が、」
「そうだ。君が俺の姿を見て逃げていく様子を見て、何かおかしいと思った俺は後を追ったんだ。そして、君が倒れているのを見つけ、そのままここに運んだ」



赤井さんは、私の言いたい事が分かっているかのように、雨の日について説明してくれる。
私が敵だと思っていた人は、私を助けてくれた人だったなんて。しかもあの昴さんに変装していた。その事実がなんだか実感がない。
赤井さんはそのまま私のいるベッドへと座った。少しだけ距離が近くなるだけで、私は反射的に身体をびくっと揺らす。そのことに赤井さんも気が付いているようで、私は申し訳ない気持ちにかられた。




「ご、ごめんなさい」
「いや、気にしてないさ。君が怖がるのも無理はない」
「……でも、赤井さんが、私を助けてくれたのに」
「言っただろう。俺はFBIとして、奴等を追っている。そのために必要だと思ったから君を助けた。それだけだ」



赤井さんはそう言って、私に背を向けたまま話し続ける。その背中はさっきと同じはずなのに、何故だか恐怖はなく、少しだけ寂しそうな背中だった。
何故だろう。昴さんの時とは全然違う。真っ黒で、それでいて冷たい。そんな感じ。




「……俺は以前、組織に潜入していた」
「……え、」
「奴等の中に入ってケリをつけようとしていた時があってな。何年もの間、組織の一員として行動していた。君が俺から感じる恐怖は、きっとその時のものだろう。だから、そんな顔するな」
「……」
「それより、何故俺の部屋の前にいたんだ?」
「……部屋の電気がついてたので、お仕事なのかなとも思ったけど、昴さんが途中で眠ってたらって……。で、でも、お仕事の邪魔をする気もなかったし、それならすぐに部屋に戻ろうとも思ってたから、話を聞くつもりもなかったんですっ……。だからっ……」




ごめんなさい、そう言って私はゆっくり頭を下げた。
赤井さんは何も言うことなく、私の頭にぽんと手をのせる。上を向くと、その目は優しい目をしていた。昴さんと同じものだった。




「聞かれて困るようなものではない。何より、お前に関することだったからな」
「私……?」
「ああ。明日、俺の仲間にお前を会わせたい。これからお前を保護するために必要なことだ。」
「……怖くない?」
「少なくとも、俺よりはな」



その言葉にほっとすると、赤井さんはわしゃわしゃと私の頭をかき乱し、そのまま部屋のドアへと歩いていった。
ドアを閉める直前、私の顔を見る。




「寝れない時は、羊を数えるといいそうだ」
「、羊……?」
「ああ。明日のためにも、身体を休めておけ」



そう言って赤井さんは部屋を出ていった。
私、眠れないなんて赤井さんに言っただろうか……。
そんな疑問もあったけど、私は言われた通りに布団に入り、そのまま羊を数える間もなく、深い眠りへと入っていった。


その夢の中で、大切な彼女が笑っていたような気がした。




(再会)


(おはよ。よく眠れたか?)
(コナン君、おはよ。どうしてここに?)
(母さんが家を出る時、心配だからって言われたんだ。その様子じゃ大丈夫そうだな)
(坊や、来ていたのか)
(ひゃあっ!?)
(……何で俺の背中に隠れるんだ?)
(えっ、あ……!!ご、ごめんなさい、びっくりして……!!)
(……赤井さん。彼女になんかしたのか?)
(いや。これは慣れるのに時間がかかるかもしれないな)


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あきゅろす。
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