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05.


「私達、ほとんど仕事で家にいないことが多いの。だから好きに使ってね。」
「は、はい」



昴さんとコナン君との話の後、有希子さんに連れられて私は空き部屋へと案内された。
誰も使ってない部屋があるとは聞いていたけど、すごく綺麗に整理されていて、私には勿体ないくらい広い部屋だった。少しだけそわそわしてしまう。
そんな様子を見かねた有希子さんは、私の肩に手を置く。



「そんなにかしこまらなくていいのよ。どうせ使ってない部屋なんだから。何か分からないことがあったら、新ちゃんか赤井さんに聞いてね。」
「、?」



有希子さんの口から出た新しい人の名前に疑問に思っていると、それに気づいてまた有希子さんは口を開いた。





「ああ、ごめんなさいね。私の息子の本名よ。コナン君の本当の名前は工藤新一。沖矢昴さんの本名は赤井秀一。他の人はあまり知らないから内緒よ」
「、そう、なんですね。」



そうか。コナン君は薬を飲んで小さくなってるだけで、本当は高校生なんだとさっき聞いたんだった。名前も変わってるんだ。
だけど、昴さんも名前違うんだ……。
なんとなく理解したようで、まだ状況を全てわかってないからか、いまいちうまく反応できない私。
そんな中、有希子さんは部屋の中を整える。




「よし、こんなもんね」
「ありがとうございます」
「新ちゃんと昴さんは少しでかけるみたい。だからゆっくりしてて。私は明日朝早く出ちゃうけど、今日はここにいるつもりだから」



そう言って有希子さんは部屋を出ていく。
私はとりあえずベッドに座り、ほっと息を吐いた。
色々な話を聞いて少し疲れた気がする。これからうまくやっていけるんだろうか。
そもそもずっとあの部屋で過ごしてきた私は、どうやって生活したらいいのかもよくわからない。
自分はどうやって過ごしていたんだろう。そもそもなぜ自分はその黒の組織のところにいたんだろう。私がいる意味はあったんだろうか。



そんなことを考えては答えが出ずに俯く。すると、部屋のドアをノックする音が聞こえ、私は返事をした。
有希子さんがまたきたのだろうか。そう思ってドアを開けると、そこにはコナン君ともう一人の女の子が立っていた。



「疲れてるとこ悪いな。お前に合わせておこうと思ってさ。」
「、私に?」
「ああ。俺達と同じ服用者なんだ。しかも俺よりもその薬については詳しく知ってる。開発に関わった側の人間だ」
「ちょっと、工藤君。何でもかんでも話さないで。」



コナン君が私に話していると、その女の子は強気でコナン君を制し、私の方へと近づく。そしてじっと私の顔を見つめた。不思議そうに思っていると、ふっと緊迫していた空気が消えたように、彼女の疑いの目がなくなるのを感じる。



「……たしかに、貴方からはあいつらと同じ匂いはしないわ」
「、どういうこと?」
「言ったでしょ?私はその薬の開発に関わっていたって。元、組織の人間よ。貴方と同じね」
「っ、」



その言葉にドクンと、自分の心臓が高鳴る。
私のその変化に気付いたのか、すぐにコナン君は私に口を開いた。




「安心しろよ。元ってだけで、今は俺達の協力者だ。な、灰原。」
「ま、そうね。貴方に何か危害を加える気はないわ。それより、貴方の持ってる薬を見せてもらってもいいかしら」
「……分かった」



灰原さんの言葉に、私はゆっくりと返事を返し、二人を部屋の中へと入れる。そして、私の持っている小さな箱を開け、灰原さんへと渡した。



「、これです」



灰原さんはそれを受け取り、じっと薬を見つめる。手に取り、形や文字など見ているようだ。
それからすぐ、彼女は薬を箱の中へと戻す。



「、確かに同じように見えるけど、少し違うわね。成分まではちゃんとみないと分からないけど。」
「、そうか」
「この薬、少し預からせてもらってもいいかしら。博士の家に戻ったら詳しく調べられると思うの」
「う、うん……」



灰原さんはそう言って、箱をもう一度見る。すると、そこに入っている紙が見えたのか、次の瞬間、表情を一変させた。



「この字……」
「、どうした」
「……」
「あ、あの……」
「貴方、これは誰かからもらったもの、なのよね?」
「うん、」
「それが誰だったのかは覚えてない?」
「……分からない。私にとって大切な人だったことしか……。だけど、その人は私に生きてほしいと言ってくれたことだけは覚えてる。優しい人だった。」
「っ、」



灰原さんはぎゅっと手を握り俯いている。
何か傷つくことを言ってしまったのだろうかと思い、顔を覗こうとすると、灰原さんはそのまま私に背を向けて部屋を出て行ってしまった。
それを追いかけるようにコナン君も走り出す。



「悪いな、後で俺からも言っとくから。あ、あと、箱はすぐ返すようにする」
「う、うん」



私は二人を見送り、部屋の中へと戻っていく。
何故だか分からないが、灰原さんのあの表情を見たとき、何かを思いだしそうになった気がした。



ーーーーーー











side k


「おい、灰原。どうしたんだよ」
「……何が」
「何がじゃねえよ。お前があの紙を見たとき何か様子がおかしいかったことは分かってんだ。何か分かったなら俺にも話せ」
「……」



博士の家に戻り、作業に取り掛かろうとする灰原を引き留める俺。灰原とはこれでも長い付きあいになる。あいつに引き合わせたのは、記憶を取り戻す力になってくれると考えたのもあるが、組織にいた頃の何かを思い出す可能性もあると踏んだんだ。
そして、この様子からして俺の予感は的中している。




「何か分かったんだろ」
「……私は直接関わっていないから、よくは知らないわ。けど、あの紙に書いてある字。間違いなく私のお姉ちゃんの字だった」
「、宮野明美の字!?」
「お姉ちゃんに聞いた話だけど……。組織にはあのラムのお気に入りの猫がいて、組織の中でも何人かしか知らない事実なんだって。お姉ちゃん、その話をしている時すごく楽しそうにしていて、私もそんなに聞いてなかったんだけど……」
「まさか……。それが彼女だっていうのか?」
「あくまで可能性の話よ。その時は本当にラムが動物の猫でも飼ってるのかとかしか思ってなかったし。でも、よくよく考えたら、何でそんな動物の猫を組織でも数人しか知らないのか。それって組織の中でも内密にしたい何かがあったってことでしょ。」
「……その猫が重要な情報を握っている可能性は高いな。」
「貴方が言ってたあの子から聞いた情報。ずっと白い部屋の中で閉じ込められてた、周りから飼い猫って言われてた。なんとなく、あてはまる気がしない?」
「、確かにな……。その話が本当だとすると、これから彼女を殺すために、奴等が接触してくる可能性があるってことか」
「……本当にあの子を匿うの?ラムの気に入られてた、重要な情報を持ってる子。何をしてくるか分からないわよ」
「……なるほどな。お前がなんとなく怯えてたのはそれか」




俺は灰原を引き留めていた手を離す。そのまま、背を向けて博士の家のドアの方へ足を向けた。




「その薬を調べてくれたら、あとは手を引いてもいいぜ。お前まで巻き込んでやるつもりはねえよ」
「工藤君!!」
「だけど、宮野明美がその紙に生きてほしいと書いてあいつに渡した、その想いは本物なんだろ?それを無碍にはできねえんじゃねえか」
「っ、それは……わかってるけど」
「じゃ、薬について分かったら教えてくれ」




そのまま灰原の言葉を待たずに俺は博士の家を出る。確かに危険は伴うが、これでかなり奴等に近づくことはできる。
問題はこの事実を赤井さんが気付いているのか……




「(まあ、あの人のことだからもう既に気付いているのかもしれないな)」



昨日の雨の日。赤井さんに電話した時、俺はとある事件について相談していた。
それは、なんの証拠もなく、同じような見た目の女の人が殺されている事件が多発していたこと。どこか自殺したようにも見えることもあれば、事故に巻き込まれて死んだようにも見える。だけど、決定的な証拠が何もないことに疑問を持っていた。
この証拠を残さないやり方に、奴等の影を感じていたのだ。
その死んでいった人は全て女性、そしてその見た目が何となく彼女に似ている。

きっと、奴等は誰かを探しているのではないか。




「(奴等はきっと動く)」




必ず追いついてやる。俺はそう決意し、帰路についていった。


ーーーーーー









コナン君達と別れてから、結局一人でいるのも辛くなり、私は有希子さんのいる下の階へと足を進めていった。
そっと広いリビングを覗くと、そこには有希子さんの姿はなく、違う部屋から規則正しい音が聞こえてくる。
私はその音の方へとさらに足を進めていくと、そこには何かを作っている有希子さんの姿があった。



「あ、あの……」
「あら、理名ちゃん。どうしたの」




勇気を出して声をかけ、私は有希子さんに近寄る。




「お部屋にいても落ち着かなくて……。私にできることはないですか……?」
「あら、本当?それじゃあ一緒にご飯作りましょっか」
「っ、」



有希子さんはそう言って、私を招き入れ、一つ一つ教えてくれた。
包丁、まな板、鍋、フライパン、全て初めて聞くものばかりで、触れたこともないもの。緊張した手つきで野菜を切っていく姿をずっと見守ってくれる。




「ふふっ。本当に娘ができたみたいだわ。」




なんだか有希子さんも嬉しそうで、私もそれが嬉しかった。有希子さんは本当に温かい人。
それは今日接しただけで、私にも分かった。



「(あの人も、そうだったのかな)」
「それにしても、初めてとは思えないくらい覚えが早いわね。お料理得意なのかもしれないわ。」
「そ、そうですか?」
「ええ。昴さんが帰ってきたら一緒に食べましょ。きっとびっくりするわよ」



そう言われて、あれから昴さんはまだ帰ってきてないことに気が付く。どこかに行っていると言っていたから、きっとお仕事なんだろうか。
その瞬間、脳裏にうかんだあの人が大切な仕事にいくと言った瞬間を思い出し、少しだけ怖くなる。
ちゃんと帰ってくるだろうか。そんなことを思ってしまう。




「、どうしたの。理名ちゃん」
「、な、なんでもないです。明日から、昴さんに迷惑かけないでやっていけるかなって思って……」
「あら、大丈夫よ。彼、見た目よりも優しいし、強くて頼りになるもの。何よりイケメンだしね〜。私もずっとここにいたいくらいだわ!」
「い、けめん?」
「とってもかっこいいってこと!!そう思うでしょ?」
「は、はい」




その気迫に押されて頷いてしまう私。でも嘘は言っていないし、かっこいいとか分からないけど、有希子さんがそういうならきっとそうなんだろうからという考えで、私は笑顔を作る。
すると、近くから誰かの気配を感じ、咄嗟に後ろを振り向いた。
そこには呆れた表情で立っているコナン君と、いつの間にか帰ってきた昴さんの姿があった。




「母さん。変な事こいつに吹き込むなよ」
「あら、新ちゃん。いつの間に帰ってきてたの?」
「さっき。昴さんも近くに来てたから一緒に来てみたら、でかい声が玄関まで響いてたぞ」
「ふふ、ごめんなさい。女の子同士盛り上がっちゃったのよ。ねっ、理名ちゃん」
「何おばさんが……」



コナン君がその言葉を続けようとすると、有希子さんがすぐさまコナン君の頭を覆うように力強く掴みあげる。
その表情はとても怖い。




「何か言ったかしら?」
「いでででっ!!」
「さすがの坊やもこれには手があがらないな」



その二人の姿を面白そうに見ている昴さん。そう言えば、まだ帰ってきてから話しかけてなかった。
昴さんをじっと見る。どこも怪我をしてないみたいだ。




「どうした、そんなに俺を見て」
「、な、なんでもないですっ」
「こんな素敵な男性がいたら、そりゃ見とれちゃうわよね」
「あ、いえ、その」
「母さん、いい加減にしとけって」
「その……なんとなく、怪我がなく帰ってきてくれたのにほっとして……」




その言葉に、三人は不思議そうに私を見つめる。おかしな発言をしてしまったのかもしれないと思い、慌てて私は何かを言わないとと口を開いた。




「あ、えっと……コナン君も昴さんも、おかえりなさい」
「……ああ、ただいま」
「ただいま」



優しく微笑み、言葉を返してくれる二人。たったそれだけなのに、私の心が温かくなるのを感じる。
その後、有希子さんと私が一緒に作ったご飯を四人で食べた。
そのご飯はおいしくて、楽しくて、私にとって忘れられない味だった。




(家族)

(今度帰ってきたときは一緒にお菓子作りましょ。きっと楽しいわよ)
(はい、ありがとうございます)
(もー、そんな敬語なんて使わなくていいわよ!!これから私の隠し子として説明しとくから!!私のことは、お母さんって呼んでいいからね!!)
(で、でも)
(帰ってくるときうんと可愛い服買って帰ってくるから楽しみにしてて!!どんな服が好きかしら?)
(……もうこれは止めようにもないな)
(よかったじゃないか、家族が増えて)
(いや、隠し子は無理があるだろ)


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