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04.


しばらく泣き続けて収まった頃、有希子さんが二人を呼んでくると言ってまた部屋を出ていった。

あまりにも大泣きしてしまったことに恥ずかしさで顔が赤くなる。だけど不思議と来たときよりも、心は軽かった。



有希子さんに着せてもらった服を鏡で見返す。有希子さんは元々女優さんらしい。だから綺麗な服もたくさん持っているんだとか。あと素敵な旦那さんがいて、その人が名探偵やってるとか。泣いてる時に楽しく話してくれたのを思い出す。


すると、ドアをノックする音がして、思わずびくっと肩を揺らす。たぶん、皆がきたんだろう。そう思って返事をすると、そこにいたのは、沖矢さんだけだった。




「コナン君と有希子さんは何か温かいものを持ってくると言っていたよ。」
「は、はい」



まだ少し緊張する気持ちはあるものの、普通に話そうと顔を上げる。すると、沖矢さんは柔らかい表情で私の方を見ていた。




「少し、気持ちが落ち着いたかな?」
「、え……」
「ずっと怯えていた表情が和らいでいる。有希子さんとゆっくり話せたことは正解だったようだ」



そう言って沖矢さんは私の近くに寄る。
もしかして、傷だけじゃなくて、私が怖がっていることも考えて有希子さんと二人にしてくれたということなんだろうか。本当にこの人はすごい人なんだ、と思うと同時に、何もできない自分がもどかしく感じる。




「……あの、」
「ん?」
「……有希子さんが、私のことを助けてくれたのは、沖矢さんだって聞きました。本当に、ありがとうございます。」
「、礼を言われることでもないよ。それに、あの時の君をそのままにできなかったからね」




沖矢さんにそう言ってもらって少しほっとする私。そのままじっと見つめられ、ゆっくりとまた口を開いた。




「……君は、もしかして、記憶がないのかい?」
「っ、え……」



何も言ってないのに、今の状況を言われたことに驚きを隠せない私。だけどその姿に沖矢さんは確信したような表情をしていた。



「ど、して」
「有希子さんに名前を尋ねられた時、まるで言うのをためらっているようだったからね。それに、君のポケットから落ちた箱の中から、君の名前と同じ名前が書かれていた。君はそれを見て名前を思い出したんじゃないか?」
「っ、!!」



箱、と言われて、そういえばその箱をどこに置いたのか分からないことに気が付いた私は、部屋の中を見渡した。すると、近くのテーブルに一緒に置いてあることが分かり、私はすぐにそれを手に取った。沖矢さんはその行動をじっと見つめている。




「……大切なものなのかい?」
「……わかりません。でも、これは絶対に持ってないといけない気がするんです。大切な人から渡されたものだから。」
「大切な人?」
「記憶がない私にも、うっすら覚えているんです。大切な人が、私に渡してくれたこと。生きてほしいって言ってくれたこと。きっともうその人とは会えない気がするから、これだけは忘れずに持ってないといけない気がして……」
「……、そうか」



私はそう言ってぎゅっとその箱を握りしめ、またポケットの中へと入れた。



「じゃあ、君の身体が小さくなった原因も、記憶にないんだね?」
「……はい」
「たしか、君が道端で倒れていたときは、まだ小さくなる前だったはずだ」
「はい……。私も、ここで目が覚めたら身体がいつもより小さくなっているのに気が付いたので……。」
「では、有希子さんに怪我の手当てをしてもらってから、ということになるね」
「……はい」
「それと、もう一つ。聞いてもいいかい。」
「、何ですか?」
「その箱の中に入っていた錠剤。飲んだ記憶はあるかい?」



そう言って沖矢さんに指をさされたのは、先ほどポケットにいれた箱。たしか、箱の中に何個か薬のようなものが入っていた。だけど自分が飲んだかどうかまでは思い出せなかった。
私はゆっくりと首を振る。




「そうか」
「あの、この薬がなんの薬か知ってるんですか」
「ああ。だが、私の知っているものと少しだけ違う形をしているんだが……似ているものだったんでね」
「それは、なんの薬なんですか」
「毒薬だよ」



その時、ドアのところにコナン君と有希子さんが立っており、温かい飲み物が用意されていた。
驚いていると、コナン君はゆっくりと私に近寄ってくる。




「まだ本調子じゃないし、腰かけたほうがいいよ」
「、あ、あの」
「ほら、温かい飲み物も用意したからさ」
「紅茶は好きかしら?甘めにしてみたの」
「昴さんはコーヒーね」
「すみません」



そう言われて、コナン君にカップを渡され、言われるがままベッドに腰かける。有希子さんの入れてくれた紅茶はすごく温かくておいしかった。
コナン君は私の隣にかけ、有希子さんと沖矢さんは近くで立ったまま話を続けた。




「その毒薬のほとんどは、人を死に至らしめるもの。だけど、ごく稀に身体が小さくなる作用がある。」
「、小さくなる……それって私みたいに?」
「うん。だけど理名さんがもし薬を飲んだとしても、小さくなったのは目が覚めた朝の時から。記憶が亡くなる前に飲んでたんなら、もっと早くその効果がでてもおかしくないはずなんだ」
「だから、私達はその薬は似たもの、と考えている。おそらく同じような薬ではあるんだろうが、何か改良されているんだろう。」
「そして、その改良されている薬を君は服用して、今身体が小さくなった。まだ考察の段階だから、何ともいえないけど、可能性は十分になると思う」




コナン君と沖矢さんの言葉に、私は唖然としてしまった。もしそうだとしたら、私はなぜこの薬を服用したのだろう。知らないで飲んだのか、それとも知っていたのか……。




「コナン君は、この薬に詳しいんですか?」
「、ああ。実際にその効果をこの目で見ているからな」




隣にいるコナン君に声をかけると、さっきまでとは違う人のような声で私に話しかける。それに少しだけどきっとした。



「それと、もう一つ。この薬に関わっているならば、君は知っているはずなんだ」
「……な、にを」
「……黒の組織」




"黒の組織"
それを聞いたとき、自分の身体にびりっと電気が走ったような痛みを感じ、思わず自分の頭を抑える。
すると、脳内で何かの風景、人の影がたくさん乱雑に見えてくるのが分かった。
恐怖のあまり、全身から冷や汗が出る。



「あ、ああっ……!!」
「、理名ちゃん!!」
「おい、しっかりしろ!!」
「わ、たしっ……!!!」






"愛しい私の子猫ちゃん。今日も私のためにその力を使いなさい"


"ここから逃げようなんざ思わないことだな。てめえはもう飼い猫なんだよ"


"貴方は私のお気に入りだから、いいこと教えてあげる。もう、あの女はここにはこないのよ"







「はっ……!!!はっ……!!!」



しばらくして、歪んでいた視点がゆっくりと収まり、目の前に心配そうな三人の顔が見えてきた。
ゆっくりと顔を上げて、大丈夫と一言そう告げる。



「少しだけ、思い出したの」
「、記憶が戻ったのか」
「……私は白い部屋にずっと一人だった。ずっと誰もいない部屋で、時折来る黒い人達と、どこからか聞こえる声に、ずっと命令されて生きてた」
「黒い人って……」
「その人達は、私を飼い猫と呼んでた。私は言われたようにしないと、生きていられなくて……。きっともう私の家族は皆……。」
「……そう、」
「その黒い人達の外見は覚えてるか?」
「……何人か。男の人と女の人がいて、どっちも金色の髪の毛が長い人だった。黒いサングラスの人もいて、」




そこまで言えば、もうコナン君達にはわかったんだろう。私の言葉を待たずに、沖矢さんは口を開いた。




「彼女は間違いなく、組織に関わっている」
「、」
「君の相談がある」



沖矢さんはそう言って、私の目を見つめる。その目に見える瞳は、さっきまでの沖矢さんとは別人のようだった。



「君の身柄は俺達が保証する。その代わり、君の持っている組織の情報をこちらに渡してほしい。」
「、え……」
「いいの?昴さん」
「ああ。どうやら彼女は俺が予想した人物、そして坊やが言っていた人物と同じようだ」
「あ、あの……」
「この人、実はこう見えてもFBIの捜査官なのよ」
「え、FBI……?」
「要するに、すごく強いの」
「俺達はその黒の組織を壊滅させるために追っている。そのために君の力をかしてほしい」
「で、でも……。私、この先も記憶を取り戻せるかわからないのに……」
「ここには、君と同じ経験をしているコナン君もいる。彼もその薬の服用者だ。何か力になれるかもしれない。」
「、え……」



その言葉に隣にいるコナン君を見る。確かにさっきから声や雰囲気が変わっているのを不思議に思っていた。それにやけに薬にも詳しい。そういうことだったのか。

沖矢さんはゆっくりと座り込み、私と視線を同じにする。




「どうだろう。悪い話ではないはずだ」
「……」




正直、なんていったらいいのか分からないが、今の私が頼れるのは、ここにいる人達だけ。
だけど、迷惑をかけていいのだろうか。本当に私が何か関わっていて、この人達に何かあってしまったら、




「そんなことはさせない」
「っ、」




その時、まるで私の言葉が聞こえていたかのように沖矢さんが私にそう告げる。
何から何まで先を見越していそうなその瞳。
私はこの人を信じてみたいと思った。




「……お願いします」




そう、ここから私の物語はまた始まる。




(交渉)


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