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笑うかのこ様〜恋だの愛だの
ってどこから入ってきてるんですか

「うわぁあああ!!」

起り得る筈のない不足の事態に、かのこは思わず悲鳴を上げた。
といっても、「女の子の悲鳴」と呼ぶには些か、いや、だいぶ色気の欠けたものだったが……。

女子トイレでいきなり後ろから羽交い絞めに抱きしめられたら誰だってビックリするだろう。
人間の心理的に一番ほっとするような場所だったら尚更だ。

仲の良い友達が一緒だというならば話は別だが、かのこには別段この宝高でとりわけ仲の良い女友達がいるわけでもない。
少なくとも、こんな風に後ろから抱きついて来るようなフレンドリーな友達は、いない。
突然のことに思わず固まってしまったかのこは手洗い場の鏡越しに犯人の姿を見た。

「! あ、あなたは――」

「苗床ーっっ!!無事か!?」

ガラガラガラッ!

かのこがその名を口に出す前に、突如として現れた影がかのこをその背に庇い、立ちはだかった。

ここは一階の女子トイレ。
中庭に面したこの場所の換気窓を開けて颯爽と現れたのは――
もしかしなくても、かのこの親友、椿であった。

「てんめー俺が気安く入れない場所だからって、苗床になにしてんだ!」

ビシィっと人差し指を突き付けて堂々たる糾弾。
しかし、残念ながら今糾弾されるべき人物は紛れも無く……

「あら、気安く入れないだなんてとんだご謙遜ね。ナイトもいいけど、場所を弁えないと大変なことになるわよ?」

そう言ってにっこりと笑う正統派美人。
放送部のアイドル、姫乃さゆりの頬笑みは見る者すべてを魅了する力を持っている……が、今の彼女の頬笑みには絶対零度の蔑みが込められていた。

場所が場所でなかったら、彼は「好きな女の子を守るために颯爽と現れたイケメンナイト」として世間の少女達からの賞賛や羨望の眼差しを一身に受けたであろう。
だがしかし、

「……椿君、いくら王様だからってやっちゃいけないこともあると思う」

守ろうとした少女からそっと肩を叩かれ、呆れとも同情ともつかない顔でふるふると首を振られてしまったら……。

「…………」

もう反論することも出来ず、すごすご引き返すことしか出来ないのであった――



終劇!!

あとがき
何だこのお題。ムズイ!!
椿君、ごめんね。
せっかくかっこよく登場させたのに、とんだピエロになってしまったよ(笑)

12/01/18



●オマケの女子トイレ●

「それにしても、彼、すごいわね」
「はぁ?……普通に女子トイレに侵入できる図太さが、とかですか?」
「あら、ふふ。違うわ、そうじゃなくて――」
「??」
「どんな場所にいても、相手が誰でも、かのこちゃんのピンチには必ず駆けつけて来るじゃない」
「……そんなの、偶然ですよ。偶然たまたまいつも困っている時に傍にいるのが椿君だっていうだけです。っていうか、姫乃さんがいきなりあんなことしなければ椿君だって女子トイレに踏み込む、なんて男子高校生にあるまじき失態を犯すこともなかったんですよ!」
「だってかのこちゃんて小さくて可愛いんだもの。だからつい、ね」
(っていうか、それって聞きようによっては惚気よね〜。自分に何かあったら椿君が来るって無条件に信じてるってことじゃないの)

「あ〜、そりゃどうも〜。じゃ、私はもう戻りますんで」
「椿君のところへ?」
「〜〜〜椿君は、一度へそ曲げると機嫌とるの大変なんで――、もう今日みたいなことしないで下さいね!!」

出会った頃の猫かぶりはどうした?と言いたくなるくらいの、漂う不機嫌さを隠しもせず足早に去っていくかのこの後ろ姿を眺めながら、さゆりもまた呆れた様な素の笑みを浮かべた。

「……まったく脈が無い……ってわけでもないみたいね。まぁ精々頑張りなさいな、ロリコンくん」

情報通の陰謀バカを好きになる苦労や大変さを、それこそ身を持って知っているさゆりは、やる気のないエールをこっそりと椿に送るのであった。


おわり☆

少しだけ報われた・・・か?
椿君とさゆりさんは、恋だの愛だのは割とどうでもいいと思ってる陰謀マニアに惚れる苦労人同士ってことで・・・。

参謀の尻拭い的な役割を負わされるという同じ身の上の二人は、打ち解ければナイスコンビにならなくもなさそうな気がする。

寧ろ、必死に策略を巡らせて火花を散らすかのこと城蘭さんのそれぞれ後ろで「もう、どうしようもねーな(ないんだから)」とかそれぞれウンザリしてるといいよ(笑)







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