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笑うかのこ様〜恋だの愛だの
彼の部屋でベッドの下にエロ本を探してみる

椿君に借りた富中時代のジャージはお姉さんのものらしく、椿君のを借りるよりもぶかぶかになることはない。(それでも大分裾と袖を折り曲げたが……)
椿君にお礼を言って、楽な恰好で寛ぎつつ綺麗に片付いた部屋の窓から未だ止む気配のない空を眺めた。
せめてもう少し雨脚が弱まってくれたら傘を借りて帰ることも出来るのに。
ザァーザァーと激しく道路を打ちつける雨の斜線が恨めしかった。
暇な時間を無駄にしないように二人で広げた明日までの課題もすっかり片付いて、後はただ天気と睨めっこをするだけだ。
とりとめもない会話を繋げながら、ふと視線はベッドの上に無造作に放り投げられたメンズ雑誌に向けられた。

「これ、ちょっと見せて貰ってもいい?」
「ああ、別にいいけど……珍しいな。そんな雑誌に興味持つなんて」
「高校デビューしたNEW苗床は何にでも興味津々なのだよ」
「……あっそ」

許可を貰ってページを捲ると、最近の流行りものがずらりとページを飾っていた。
モテ男子!とか、イケてる古着の着こなし方!とか、およそ椿君には必要ないと思われる情報ばかりが載っていた。「何で買ったの?」と聞けば「暇をつぶせるようなの貸せって言ったら貰った」なんて返事が返ってきて納得。
読者の投稿ページへと進んでページを捲る手を止めた。

「こういう雑誌に書いてある事を実践できたら普通に近づけると思って」
「それ、爽やか少女とやらの参考には――っておい、ちょっと待て!!」
「えー『男子必須アイテム!秘密の本の隠し場所ベスト5』?」

椿君がテーブル越しに慌てて身を乗り出してくるがもう遅い。
っていうか、その慌てっぷりが既に墓穴のような気もするが……。

パタンと雑誌を閉じて椿君に返すと、椿君はバツの悪そうな顔をしていた。

「……おい、その顔ヤメロ」
「いやぁ、椿君もちゃんと男子高校生なんだなと思ってさ。そんな慌てた椿君、初めて見た」
「だぁー!!違ぇっつーの!ニヤニヤすんな。ただ、これ以上お前にろくでもない知識を与えるとやっかいだから止めただけだ。やましいことなんて何もないからな!」

雑誌をゴミ箱に放り投げ、この話は終わりとばかりにお茶を飲み干す椿君に適当にハイハイと相槌を打ちながら、ちらりと視線をベッドの下に向ける。

「別にやましいことの一つや二つあってもいいと思うけどね。普段どんだけクールに生きてたって、椿君も普通に年頃の男子なんだからさ」
「……それ、お前にだけは言われたくねんだけど。つーか一応言っとくけど、今の発言、地雷踏む十歩前くらいだからな。それにこの部屋にその類の本なんてねーよ」
「……ないの?」
「ない。何だったら探してもいいぜ?」
「……なんだ、つまらん。エロ本の1冊や2冊持ってたっていいじゃん!その方がまだ可愛げがあるよ」
「はぁ!?責められる意味がわかんねーんだけど。つかお前、もう少しオブラートに包めよ!」
「ごめん、八つ当たりだから気にしないで」

結果的に言うと、ベッドの下にエロ本は無かった。
他の場所は……親しい友人のプライバシー侵害になるので当然のごとく自重する。
マジか、椿君や。
思春期の男子がそんなことでいいんですか!?
もっとこう、「なんだぁー、椿君にも普通のとこあるじゃーん!」ってフランクなノリを期待していたのに。
自分の恋愛方面への疎さを棚に上げて思う。
この顔で恋愛を楽しまないなんて、男としての人生絶対損してるって!!

溜息と共にこてんと首を傾げた視界に、チラリと白い紙?のようなものが目に入った。ベッドサイドの棚の上から落ちそうになっているそれは、どうやら写真のようだ。
裏返しになっているから何が写ってるのかは分からないけども。

「……ねぇ椿君。あれ、写真?」
「ッッ!?」

ちょうど椿君の後ろを指さして尋ねた瞬間の椿君の動きは、異常なほど素早かった。
シュバッという風を切る音が聞こえるかと思う程に。

「……」
「……」
「あの、椿く―」
「……気にすんな。何でもねーから!」

焦る椿君を見るのは本日でもう二度目だ。
どう考えても何でも無くない疑惑の写真。
そこに何が写っているのかは……聞かない方がいいんだろうな、やっぱ。
じぃーっと椿君を見つめると、ふいっと顔を逸らされてしまった。

成程。椿君には秘密の本は無くとも秘密の写真はあるらしい。
知りたい。けど、聞けない。
ぼんやりと推測を巡らせながら椿君の横顔をガン見していると、急に部屋に光が差した。

「あ。雨、止んだな」

椿君の声を追うように窓に目を向けると、いつの間にか雨雲は去っていて。
夕方の空がオレンジ色に輝いていた。

「なんか、このタイミングが逆に憎い」
「粘ったところで答えねーけどな。ほら、立てよ。乾燥機かけたからお前の服も多分乾いてる筈だ」

あっさりとそう言って、椿君は立ち上がった。
すっと目の前に差し出された手には素直に捕まって自分も立ち上がる。

何だろう、やっぱり謎は解き明かしたくなる。
でも、椿君の秘密は無理に暴いてはいけないものだ。
……だって、こんなにもよくして貰っているのだから。
そうやって一人でぐるぐるしていると、隣で椿君がクスリと笑った。

「……だから、顔にですぎなんだって」
「……ごめん。気になる。だから……いつか、もう時効だっていうくらいに年とったら、その時に教えてね」
「……ああ、いいぜ」

それはずっとずっと未来の約束。
その時かすかに頷いた椿君の横顔が少しだけ赤くなったような気がしたのだけど、多分それは夕陽のせいなのだと、その時は思っていた。


END

あとがき
ううん???
あとで捕捉します!!
10/13






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あきゅろす。
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