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笑うかのこ様〜恋だの愛だの
ふわふわあまい

道行く先であまりにも頻繁に声をかけられるものだから、せっかく苗床と二人きりだというのにろくに会話もできやしない。
浴衣姿の華やかな装いも、こうも集団になってうるさく騒がれたらもはや煩わしいものでしかなかった。
苗床は苗床で感心したように見物を決め込んでいるし、当然のごとくヤキモチのヤの字も期待できない。

「悪いけど、連れがいるから」

相当自分に自信があるのか、本格的に道を塞いできた二人組のギャルに溜息を吐きつつそう言えば「連れなんていないじゃないですかぁ」なんて言葉が返ってくる。

「は?」

苗床がいる斜め後ろを振り返ると、今さっきまで俺の服を掴んでいた筈の姿がない。
……苗床、お前って奴は本当に……。
辺りを見渡してみても、この人ごみの中ではとてもじゃないが直ぐには見つけられそうもない。
「ねぇー、連れがいないなら一緒に――」
「断る。俺にも一緒に回る人間を選ぶ権利あるから」
こっちの空気も読まないで尚もいい募るギャル達には目もくれずスパッと返事を返せば、ようやくすごすご引き下がる。
すぐにでも探しに行こうかとも思ったが、ここで下手に動きまわるよりも少しだけ待機した方が良いような気がして、同じようなやり取りを数回繰り返した。
そろそろ待つのも限界だと感じ始めた時、自分を呼ぶ声が聞こえた気がして辺りを見渡した。

「椿君!!」

喧騒の中でもはっきりと通る苗床の声が聞こえたかと思うと、振り向く前に背中に強い衝撃を受ける。
どん!

「っっ!?」
「うぐッ!!……ごめん、コケた」

背中に張り付いたまま申し訳なさそうに顔を上げる苗床を見て、怒るよりも先に身体中から力が抜けた。
勝手にふらふらと居なくなるのは今に始まったことじゃないにしても、場所が場所なだけに何か事件に巻き込まれる可能性もないとは言い切れないのだ。

「お前な、どっか行くなら行くってせめてひと声くらいかけてから――」
「だからごめんてば!!はい、これ」

まったく悪びれた様子もなく軽く謝罪の言葉を口にした苗床は、俺の顔面に向けて思いきり何かを突き出してきた。
「?」
片手でそれを掴み裏返してみると、それは狐の面だった。

「おい、これ」
「見れば分かるでしょ?狐のお面。あっちのお面屋さんで買ってきたんだ」
「……何で?」
「それ被ってれば少しはマシでしょ?私も一々嫉妬や妬みの視線を向けられたくないからね。……まぁ、気休め程度にしかならないと思うけど、ないよりはマシかなって思ってさ」
「ああ、成程。……サンキュ」
「どういたしまして。次、綿飴!!」

……意外だ。意外すぎる。
正直、苗床がちゃんとこの場所に戻って来ることも半信半疑だったし、まさか自分の為にこんな物を用意してくれるとは思ってもみなかった。それが例え苗床自身の為であったとしても、いつもより5割増しの笑顔の大盤振る舞いに、嘘は無い筈だ。
先程と同じように服を掴んでずんずん歩く苗床の小さな背中がとても愛しく思えて、それが何故か酷く悔しい。
多分少し紅くなっているだろう顔を隠すために、貰った狐面を深く被った。
……くそ。
いいとこ見せるつもりが、逆に益々深みに嵌ってるじゃねーか。
この複雑な男心を誰に理解して貰おうとも思わないが、せめて少しくらいは男として意識して貰いたい。
自分で言うのもなんだけど、思春期ってのはホント面倒臭ぇな。

「やー、今まであんまりお祭り行事に参加したことなかったから、なんか新鮮だよ。綿飴なんて小学校以来だし」

こっちの気など知る由もなく機嫌良さ気に綿菓子を齧る苗床を見てそっと溜息を吐くと、目ざとくそれに気付いた苗床はキョトンとこちらを見上げてきた。

「何だよ?」
「んー、いや。良く似合ってるなぁと思ってさ。……でも、やっぱ表情が分かんないと話しずらいね。これ、椿君も食べる?」
「!!/////」

……何だこいつ。
今日可愛すぎなんですけど!
別に浴衣で可愛く着飾っているわけでもなく、いつもの色気のないごく普通の私服姿なのに。
その腕にでかいクマのぬいぐるみを大事そうに抱えて、おまけに手首にヨーヨーまでぶら下げて俺に食べかけの綿菓子を差し出してくる苗床の姿はハッキリ言って……。

「俺、実は幼女趣味があったのか……?」
「……はい?」

お面を着けた図体のでかい男が、見かけ中学生の少女に綿菓子を差し出されている図ってのは、周りから見たらさぞや奇異な光景に映るに違いない。
しかし、例え周りにどう思われたとしても、今このレアな状況を逃すわけにはいかなかった。

「いや、なんでもねー。……一口貰う」

少しだけ面を上にずらし、綿菓子を持つ苗床の手を上から握ってそのまま少しだけ齧る。

「っっ!!」
「……甘いな」

口の中であっという間に溶けてなくなってしまうふわふわの砂糖菓子。
随分久しぶりに食べたそれは、今まで食べたどの綿菓子よりも甘く感じた。

「……あのさ、椿君。もっと普通に食べてよ!」
「はぁ?俺は別に普通に食べたつもりだけど?」

少しだけ慌てた様子の苗床に意地悪くそう言えば、何とも言えない悔しそうな顔を少しだけ紅く染めてそっぽを向いてしまった。
かくいう俺はというと、苗床に貰った狐面の下で、きっと周囲がドン引きするくらいニヤけまくっていた。

END

あとがき
遅まきながらやっと更新。
また長くなっちゃったよ!!
かのこが、少しデレた??
『ふわふわあまい』感じになっているか不安。







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