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前話 マルコさんと俺



こんにちは、名前です。
今日は俺のご主人様についてお話します。

俺のご主人様はマルコって名前の人間です。
お母さんとお父さん、仲間達を人間に殺され、一人ぼっちだった俺を拾ってくれたとっても優しいご主人様です。
同じ人間でも、マルコさんだけは別です。
あと、マルコさんと仲のいいオヤジ殿って人間もとっても優しいです。

そんな優しい人間、マルコさんに拾ってもらって、生活が一変しました。
今までご飯を求めて旅をしてきた俺達だったけど、マルコさんは大体同じの時間にご飯をくれます。
ご飯の前には「マテ」をしないといけないのですが、ご飯を前にはちょっと苦しいです…。
ご飯とマルコさんを交互に見て、鳴いてみると、肩をプルプルとさせながらマルコさんもちょっとだけ泣いてます。
どこか痛いのかと思ってマルコさんを覗きこむと、「大丈夫だよい」と頭を撫でてくれます。
その手は大きくて、とっても温かいので大好きです。

それからご飯を食べます。
ご飯は隣に住むサッチさんって人間が作ってくれます。
なんでも凄腕の「りょうりにん」らしいです。
でも時々食べ物で変な「じっけん」をしている、不思議な人間でもあります。


「ちゃんと食べたな。偉い偉い」


ご飯を全部食べると、絶対に褒めてくれます。
嬉しくて尻尾を振ると、マルコさんは笑ってくれます。
食べ終えたお皿を下げて、俺には解らないことをするマルコさん。
その間俺は自分の寝床(ケージ)に戻ってお水を飲みます。
飲んだら眠くなるのでちょっとウトウト…。だけど寝ません。だって…。


「きゅーん…」
「うっ…」


マルコさんが黙って家から出て行くからです。
人間の世界には「しごと」というものがあって、それをしないと生きていけないらしい。
よく解んないけど、そのせいでマルコさんは丸一日いない…。
その間俺は一人でこの家にいる。とっても寂しくて、悲しくて、とにかくイヤ。
何で一緒に連れてってくれないの?遊んでくれないの?


「ごめんな名前…」


行かないで。って言うと、マルコさんも悲しそうな顔で頭を撫でてくれる。
何度も、行かないで。って言うと、マルコさんは死ぬほど困ったような顔をするので、あんまり言わないようにします。
だって大好きな人を困らせたくないし、太陽が沈むころには絶対に帰ってきてくれるもん。
だけど「捨てられるかも」って思ってしまって、凄く寂しいんだ。


「今日はすぐに帰ってくるよい」


そう笑って出て行ったマルコさん…。
頭を撫でてもらえて嬉しかったから、尻尾を左右に振っていたけど、その手が離れた瞬間、止まった。
耳を下げながら寝床に戻って身体を丸める。

寂しいよう。楽しくないよう。早く帰ってきてほしい。

目を瞑っていると、いつの間にか寝ていて、マルコさんと散歩に出かける夢を見ました。

初めてもらった黒い首輪に、黒いリード。
俺は嬉しくて飛び跳ねながら色んな道を歩いた。
マルコさんは俺がウロチョロするから歩きにくそうだったけど、楽しそうに笑ってくれました。
たくさん走って、たくさん遊んで…。家に帰って一緒にも寝ました。

そんな凄く幸せな夢を見ていたのに、隣から大きな音が聞こえて目が覚めてしまいました。
きっとサッチさんって人間だ。またマルコさんに怒られるぞ。
耳を立てると「だー、クソ!また失敗かよ!」と壁越しに声が聞こえました。
そのあとも何か言ってたけど、うまく聞きとれなかったです。

マルコさんが帰ってくるまで、もうちょっと…。
俺達の体内時計は人間より正確だから、自信があります。
一度身体を伸ばし、また向きを変えて丸まります。
身体を伸ばしたときに、首輪についた金色の標識(俺が迷子にならないようにってマルコさんがつけてくれた)がチャリンと鳴りました。
次に目が覚めるときはきっとマルコさんが帰ってくるときだ!


「ただいま」
「きゃん!」


マルコさんが帰ってくるちょっと前ぐらいに、何だかソワソワします。
そろそろマルコさんが帰ってくる時間だ!
尻尾を振りながら扉の前に移動して、マットの上でジッと待ってます。
耳をしっかり立て、今か今かと帰りを待っていると、朝に比べて疲れた顔をしたマルコさんが帰って来た!

よかった、帰ってきてくれた!

嬉しさのあまり鳴くと、「鳴いたらダメだよい」と顔を険しくして怒られました。
だから鼻を鳴らしながらマルコさんに近づいて、脚をマルコさんにかけると「ダメ」とまた怒られました…。
人間ってよく解らないです…。


「いい子にしろい」
「きゅーん…」


何でダメなんですか?って言っても、マルコさんは「ダメ」としか言ってくれません。
だからマットの上に座って、静かにマルコさんがあがるのを待ちます。
嬉しいから飛び付きたいのに何で?「お帰りなさい」って言いたいのに何で鳴いたらダメなの?


「ただいま、名前」


でも、大人しくしていると褒めてくれるからいっか!
頭、頬、背中と撫でてもらって、俺もマルコさんの顔を舐めました。
「舐めるのもダメだい」って怒られたけど、もう我慢できない。帰ってきてくれて嬉しいだもん!

だけどこれだけは嫌いです。
マルコさんの身体から色んな匂いがして、その中に他の俺達の匂いがするのが嫌い。
オヤジ殿の匂いに、アイツらの匂い。草の匂いや知らない人の匂いまでします。
匂いを嗅ぐだけで、今日一日マルコさんが何をしていたかちょっとだけ解ります。
だから嫌い。俺だけを触ってほしいのに何で他の奴の匂いなんか…。


「飯はもうちょっと待ってな。今日はサッチと一緒に飯食うんだい」


ご飯!やった、ご飯だ!
サッチさんって人間はよく解らないけど、その人間が作るご飯は大好き!
今日はどんなご飯なんだろ。朝食べたご飯もおいしかったなー。
でも、二人がご飯を食べ終えるまで待つのは辛い…。俺も一緒に食べたい…。


「じゃあなマルコ。あんま名前ばっか構ってると女にモテねェぞ!」
「うるせェよい」
「名前もじゃあな。明日の飯も楽しみにしてろよ」


夜のご飯もおいしかったです!
全部食べるとマルコさんとサッチさんに褒めてもらって、サッチさんは出て行きました。
明日のご飯も楽しみだなー。

夜は好きです。マルコさんとずっと一緒にいられるから!
短いけど、一緒に外に出て、走って遊びます。
帰ってきたらマルコさんが水浴びするから、俺は静かに寝床で待っています。
いい子にしてたら頭を撫でてくれるからです。


「さあ名前、そろそろ寝るよい」


正直眠たくない。だってお昼にあんなに寝たんだもん。
だけど不思議なことにマルコさんと一緒に寝ると、眠たくなる。
きっとマルコさんの傍だと安心して眠れるからだと思います。
だからマルコさんの寝床に俺も一緒になってついて行きます。


「名前のベットはちゃんとあるだろい?」


それなのにマルコさんは俺をベットにあげてくれません…。
ゆっくり休める寝床を用意してくれたのには感謝しています。
だけど、俺はマルコさんの横で寝たい。
横になったマルコさん。バレないように近づくと、「ダメだい」と怖い声…。

やだ、俺はマルコさんと一緒に寝るんだ!
朝起きたらマルコさんがいないと不安になるんだ!


「あーもう…!」


俺の言葉が伝わったのか、起き上がったマルコさんが俺を掴んで一緒にマルコさんの寝床に横になりました。


「今日だけだよい」


そう言っていつも一緒に寝てくれるマルコさん。
ありがとうございます。と顔を舐めると、また怒られたけど、顔が笑っているのが解って俺も尻尾を振りました。

明日もきっと寂しいけど、マルコさんとの時間をこれからも大事にしていきたいな。


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