意識しないと普通の人間になれなくなった俺の身体。 上半身裸になり、イゾウの旦那に背中を向けた。 チクリと痛みが走ったかと思えば、次第に熱くなる。 「つーか痛いってレベルじゃねェ!」 「うっせェ黙れ!」 「あ、すいやせん」 オヤジの息子になると言って、俺は海賊になった。 誰にも反対されることなく、あっさり仲間になれた。 そしてその日の内にイゾウの旦那にオヤジのマークを彫って貰ってるんだが、これが痛い、泣きたい、叫びたい! 「背中に彫るのか。俺と一緒かよ」 「別にエースとお揃いにしたいわけじゃっ……ギャアアアア!もうやだ限界!」 「じゃあ死ね」 「イゾウの旦那!究極すぎです!」 痛みとイゾウの旦那のプレッシャーをとにかく堪えながら、早く彫り終わるのを祈った。 動けないことをいいことに、途中パイナップルが来て、バカにした顔で笑って俺の前を横切りやがった。あとで絶対殴る! 「ほらできたよ」 「あざっす」 当分の間は包帯を巻いて、清潔を保つこと。 と注意を受け、包帯も巻いてもらった。 怖いけど世話焼きなイゾウの旦那は結構好きだ。 「おーい、飯できたぞ。お、彫り終わったのか」 「おうよ。当分の間上半身裸だがな。見惚れんなよサッチ」 「冗談は顔だけにしてくれ」 「おい、待て本気で泣くぞ」 笑うサッチに文句を言いつつ、食堂へと皆で向かう。 っと、飯の前に手ェ洗わねェとな。 手を洗うなんてこの船で俺ぐらいだから変な目で見てくるが、これは習慣だ。 「……きたねェ」 洗ってもなんか汚れている感覚。 強く擦ってもそれはとれず、次第にイライラしてくる。 「おい、名前」 「ああ?!」 「洗いすぎ。もう汚れてねェよい」 「……いや、…気持ちわりィ」 「……初めてか…」 「は?」 「まだまだガキだって言ってんだよい」 「飯の前に腹ごしらえするか?」 「ハッ。腹ごしらえにもなんねェよい」 「上等だ。表出ろ!」 「また殺すのかい?」 「っ…」 きたない。血で汚れた自分の手がきたない。 血で汚れた刀も今は綺麗にしてあげることができない。 綺麗にしてやりたいのに、見れない。触れない。 殺したことを思い出したくない。怖い。 「俺達は海賊だ。あめェこと抜かすなよい」 「うっせェな…」 感触がまだ残っている。気持ち悪い。 理性を取り戻し、人を殺したと実感した瞬間、吐き気が俺を襲う。 忘れたいのに消えてくれない。 ああ、エースが言ってた「おちんなよ」はそう言う意味だったのか。 「なァに、何回もやってりゃあ慣れるってもんだい」 「……人を殺すのにか?」 「自分や仲間を守るために殺す」 「それはただの詭弁(きべん)だろ」 「なんとでも言え。それが海賊だよい」 パイナップルのくせに格好つけやがって…。 こんな奴と一緒に飯なんか食えるか! 一度睨んで食堂から出ようとすると、「飯食わねェのかい」と言ってくるもんだからドアを乱暴に閉めてやった。 頭を乱暴にかきながら甲板に出ると、満天の星空が俺を迎えてくれ、イライラした気分を少しだけ静めてくれる。 「今さっきはヤバかったな」 「…エース」 「最初は誰もがそうだ。慣れるといいな」 ニカッ!といつものように笑うエースに、俺はなんて反応をしていいか解らなかった。 俺は海賊だ。だからって人を殺していいのか?俺は人殺しなんかしたくなかったし、するつもりもなかった。 勿論命は大切だ。仲間となったこいつらも大切だ。 何回も言うが俺は海賊だ。海賊になった。だからと言って人を殺すことに慣れていいのか? 「あーごちゃごちゃする!」 「どうした?」 「俺考えるの嫌いだ!」 そうだ、考えるからいけねェんだ。思いだすからいけねェんだ。 自分を守るために人を殺す。 いいんだ、海賊だからそれでいいんだ。 「手の感触は…まだ残ってるが…」 「名前?」 「エース、俺人殺しちまった」 「…おお、たっくさん死んだな。すっげェ暴れっぷりだったぞ」 「感触が残ってて気持ちわりィんだ」 「刀使ってたもんな」 「あと自分の身体も使った。俺の身体もあいつらの血で汚れちまった」 「洗えば落ちるさ」 「……そうだな」 まだ慣れることはないもないし、人を殺すことは怖いが、オヤジのマークを背負ったんだ。 しっかりしなきゃあな。開き直れ、カラ元気になれ。俺はそのおかげで生き残れたんだ。 「飯食おうぜ」 「いや、いい。ここでボーっとしとく」 「そうか?じゃあ付き合うぜ」 「なんだよそれ。大食らいのくせに」 「うっせェ」 せめて酒は飲もう。とエースは酒瓶を持ってきた。 そして二人だけで静かに“生き残れた”ことに乾杯した。 [*前へ][次へ#] |