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息子となる日

!最初のほうはグロ表現や流血描写があります!





風人間だから、斬られることも、撃たれて死ぬようなこともない。
だからこの時点で俺が勝つことは明白。(海楼石使われたら終わりだけど…)
それなのに海軍は血眼になって襲いかかってくる。突撃するだけの能無しなのか?

クソジジィには、海へ沈めろ。ってだけしか言わてねェから、殺しはしなかった。
だって殺す度胸はまだねェし…。
でも殺さないってのが逆に難しい。
斬るところを考え、狙って斬らないと死んでしまう。

そんなことを考えながら戦うって、かなり余裕じゃね?
またそれを思うことにも自嘲して、刀を構えるのを止めた。
動いているときは解らなかったが、周囲は吐き気がするほど血生臭い。
だけど体力がないから深い呼吸を繰り返し、整える。

逃げるように次の船へと移動し、また同じことを繰り返す。

どのぐらいの時間が過ぎたんだろうか。きっと大して経ってないと思う。
戦い続けるうちに時間も解らなくなって、そして人を殺すことも慣れきてしまった。
集中力ねェな。また自嘲して、初めて俺は一人の男の首を斬ってしまった。
だけどなんとも思わない。多分初めてじゃない。
でも「怖い」なんてことも思わない。もう理性を失っているんだろう。


「ま、悪魔だしな」


悪魔の実を食ったんだ。ただの人間じゃねェ。今理性は必要ない。
そう割り切ると人を殺したことなんてどうでもよくなる。
さて、次の船に行くか。

繰り返し、繰り返し。いくつかの船を潰したが、それでも消えない海軍。
いい加減疲れてきた…。もうやだ。でも自由のためにやらないと。


「あー…やばい、しっかりしろ」


きっとこの血の匂いだ。そのせいで脳みそがうまいこと働かないし、おかしなこと思ってしまう、考えてしまう。
自分の頬を殴り、息を吐く。
刀を見ると血で汚れていて、若干黒くなっていた。あんなに綺麗だったのにな…。
しかももう“斬る”ことはできず、刀で殴っている。
着流しも黒く変色してるし、乱れてる。おー、トランクスまできたねェ。


「……あ?」


刀を肩に担ぎ、ボーっと休憩していたら、身体を銃で射抜かれた。
だけど効くわけがない。何でわかんねェかなァ…。
そいつを見るとガタガタと震えながら俺に銃口を向けている。
ま、ほっといても大丈夫だろ。あの出血だともう死ぬ。
ああ、早く終わらせてゆっくり寝たいな。


「よォ名前」
「おお、エース」


次の船へ向かおうとしたら、エースがやってきた。
俺の隣に立ち、いつもと変わらない笑顔で話しかけてきたが、俺の姿を見て眉間にシワを寄せた。


「おまっ、すっげェ汚れてんぞ」
「途中から力加減が面倒になって、とにかく斬り殺した」
「………人を殺すのは初めてか?」
「ん。途中からわかんなくなった」
「しっかりしろ。堕ちんなよ」


おちる?何が?俺は風人間だぞ?おちるわけねェじゃん。


「ハハッ」
「名前!」
「大丈夫、血の匂いに酔っておかしくなってるだけだ。だからさっさと終わらせて帰ろうぜ」
「…」
「心配すんなって。お前が来てくれたおかげで理性は若干取り戻した。あと少しだし大丈夫」
「手伝うぜ」
「いや、一人でやらないとダメだって言われた」
「名前が言わなきゃいいだけの話だろ?」
「………そうだな。じゃあ手伝ってくれ。体力も限界なんだ」


刀はもう鞘に戻し、次の船へ二人で向かう。
面倒くせェな。どうしたら一気に沈んでくれんだ?
ああ、そっか。別に一人一人相手にしなくていいんだって。

竜巻。

作ってみっか。
風を作る。そして回す。もっと早く、もっともっと早く。そして大きく。


「おい名前!俺まで飛んじまう!」
「知らん!」
「ひでェ!」

仕方ねェから俺の近くまで引っ張って、着流しに掴まっておくよう言う。
きたねェ。なんて言うから睨んでやると、笑って誤魔化された。あとで覚えておけ。


「一気に潰れろ!」


竜巻はどんどん大きくなり、周りの船はどんどん壊れていく。こりゃあ爽快だな。
だけどこの技には時間に限りがある。台風の中心は真空。呼吸ができねェ。
俺はまだまだ我慢できるが、エースが苦しそうだった。
って…、なんか肩あたりが燃えてません?


「おい、エース…。頼む、それだけは止めてくれ」
「酸素おおおお!」
「ぎゃああああ!」


何 故 燃 え た し !

苦しさのあまり炎と化したエース。
その炎が竜巻に混じり、炎の竜巻を作り出した。

熱いってレベルじゃねェ!

俺は急いで竜巻をどっかに飛ばす。飛ばした場所には丁度よく海軍の船があり、見事直撃。
あっという間に残りの海軍も潰すことに成功したが、俺自身も若干焼けてしまった…。


「エー…スー…!」
「やっぱ酸素は大事だよな!」
「何爽やかな顔して言ってやがる!俺まで焼くな!」
「でもよ、俺ら二人のコンビ技なかなか格好よくなかったか?」
「……ったくもう!帰るぞ!」


沈みかける船を飛び立ち、クソジジィのところに戻ると、たくさんの海賊が迎えてくれた。
まるでヒーローになったみたいで気持ちよかったが、クソジジィは楽しそうに笑っている…。


「おいクソジジィ、全部潰してきたぞ。自由になっていいんだろ?」
「約束を破ったな」
「ハァ?俺一人で潰したっつーの!」
「最後の火柱、ありゃあエースのだろ?」
「っ…!だけどあれはエースが勝手に…!」
「それでもあれで何隻か潰した。ちげェねェよな?」


クソジジィ…!


「ふざけんな!なんと言われようが俺はこの船から出て行くぞ!」
「グラララ!いい加減諦めやがれ!」
「テメェが諦めろ!」
「……あんだけ派手に暴れたら終わりだろうな」


言い争う俺とジジィ。その間でポツリと呟くのはリーゼント。
全員がそっちを向くと、リーゼントはニィ!と笑う。


「確実に俺らの仲間扱いされただろうな。もう平和に暮らせねェぞ」
「……おい、ジジィ。お前まさか…」
「グラララ!」
「あああああああ!」


俺の人生最悪だ!お先真っ暗すぎる!
白ひげの仲間だと言えば海軍だろうが海賊だろうが襲ってくるだろう。
おまけに手配書に載ってみろ!マジで終わった!


「おう名前、これからも宜しくな!」
「エースがあんなことしなければ…。つーかお前らどんだけ俺を仲間に入れたいんだよ…」
「俺がお前を気に入ったからだ」
「……ほんとにそれだけかよ」


気に入ったから仲間にする。単純な話だ。
だからってあんなことさせてまで俺を欲しがるってどうよ。
俺のこと全然考えてねェじゃん。俺の気持ち無視もいいとこだっつうの。


「…ハハッ、どんだけ俺のこと好きなんだよ」
「おい、気持ち悪いこと言うなよ」
「うっせェリーゼント。事実だろうが」


やばい、なんかツボに入った。笑いとまんねェ!


「解った解った。ここまでしたんだ、覚悟決めて仲間なるわ。んでもって俺がオヤジに幸運の風を運んできてやる」


涙を拭いながら不敵に笑って見せると、オヤジもグララと笑った。
こうなったらもう海賊として生きるしかない。
何も考えずあんな約束をしたのも俺にも責任があるしな。
俺も女じゃないんだ。女々しいことなんか言わず、お前の息子にでもなんでもなってやる。


「オヤジの名を俺の背中にも背負わせてくれ」

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