最低でも四日はかかると言われた島にようやく到着した。 その間、俺は隊長どもにこってりしぼられたが、そのおかげでほんの少しだけ強くなった。…気がする。 とりあえず悪魔の実と同化することができた。 同化するには、悪魔の実を受け入れること。これだった。 俺はどっかで悪魔の実を拒んでいたんだろう。もう普通の人間としては暮らせないんだから。 だけどもう食べてしまった。絶対に普通に戻れない。 だったらあとは前を向いて歩くだけ。 中途半端が一番危ないってエースから言われたのもあって、心の底から悪魔の実を受け入れた。 なので今では寝ていても殴られることがない!痛くねェ! でも、マルコやビスタのオッサンからの攻撃は当たるんだけどな!あいつらマジ遠慮ねェから! 「うん、やっと島についたってのに、何で俺首輪されてんの?」 「何でって…名前逃げるだろ?」 「当たり前ェだろ!俺ここにいるつもりねェって何回言わすの!?」 島が見えたぞ!って誰かが言った瞬間、隣にいたマルコに首輪をつけられた。 だからそんな趣味ねェ!ってツッコミを入れようとしたが、そんな元気すら出てこない。またあれか! それは海楼石ってやつで、これには海がどうだこうだで、とにかく能力が使えないらしい。 そんなの初めて知ったぞ。 「なァ頼むよ。頼むから俺を捨ててくれ。俺はここにいたくない」 「でもオヤジが名前を息子って言ったわけだしな…」 「エース、四日間だけだが一緒に寝た仲だろ?」 「じゃあいっそのことこのままいろよ」 「あ、ごめん。俺の言い方が悪かった」 首輪に結ばれた紐をグルグル回すエースに、俺は頭を抱える。 このアホな子になんて説明すればいいだ?つーか俺より年上のくせにアホってどうなの?いや、いい奴なのは解るけどよ。 「名前、俺ら買い出しに行くけど一緒に行くかァ〜?」 「王子、俺首輪されてんだけど…。羞恥プレイすぎる!」 「いい見世物になるね」 「イゾウの旦那ァ!見世物ってレベルじゃねェから!」 「よく似合ってるよい」 「おいコラパイナップル、肩を震わせながら言うんじゃない。原因はテメェだ!」 「エース、ちゃんと面倒みとくんだぞ。あ、餌与えんなよ」 「リーゼントゴラァ!人をペット扱いするんじゃありません!」 「おう、任せとけ!」 「エースも返事しないの!」 なにここ!皆の息合いすぎ!俺突っ込んでばっかじゃん! 「とりあえずのんびりしようぜ!」 ニカッと笑うエースに、何を言う元気もなくした。爽やかな笑顔ですね、エース君。 もういいや、別に今じゃなくても逃げれるしな。 夜あたりになれば首輪も取ってくれんだろ。そしたらこの島まで逃げてこれる。よし、これでいこう。 「久しぶりにアイツらいねェし…。昼寝しよ」 「あ、そうだ。マルコから伝言があった」 「……俺は何も聞かないよ」 「帰ってきたらいつもみたいにしごいてやるから、俺の顔に太刀筋ぐらいいれる努力しとけよい。だってよ」 「首ぶっ飛ばしてやる…!」 あのパイナップルいちいちムカつくんだよ! ちょっと自分が強いからって舐めくさりやがって…。 上等だ。帰ってきたら後ろから斬りかかってやる! 「エース、首輪外せ。んでもってちょっと付き合え」 「お、やんのか?」 「おう!あのパイナップルに一泡吹かしてやんぜ」 「名前も単純だよなァ」 「黙れ。いくぞ!」 一度エースから離れ、抜刀する。 余裕そうに笑っているエースにもイラッとして、足元に風を起こす。不意討ちとかしるか。油断してるエースが悪い! 猛スピードで突っ込んで、腕も風となる。見えることも、避けることもできないスピードで斬りかかった。 「やっぱ名前はセンスあるよな!」 「ですよね!」 まァ火人間なので効くわけがない。 解っていたけど、初めてエースの身体に太刀筋を入れることができた。 エースも嬉しそうに笑って、テンガロンハットを深く被り直す。 やばい。 そう直感し、エースから離れる。 本当は姿も消したいんだけど、それだと鍛える意味がないと言われ、なるべく消さないようにしている。 同様に、空に逃げるのもしていない。負け犬根性が身につくぞってイゾウの旦那に言われたから。 距離を取り、エースの出方を窺う。 こんだけ離れてるから火銃か十字火だろう。いやいや、不知火とか火拳もあるし…。 あいつ技のレパートリー多すぎなんだよ! 「陽炎!」 「そっちか!」 頭の中でごちゃごちゃ考えていたら、炎が飛んできた。 慌てながらそれを避けるも、アイツは追撃を止めようとしない。 「確かにっ、俺はっ、身軽っ!だ、け、ど、も…!」 避けるだけで精一杯。 アイツ遠慮なしだな!いや、解ってたけども! 「お前も同じ苦労味わえ!」 避けながらエースに近づき、風を圧縮した玉みたいなものを作り出す。 「え、螺○玉?」ってエースに笑われたときは本気で殴ってやったのをふと思い出して、またイラッとする。 「おお、○旋玉!」 「だからちげェ!」 ヒョイとかわすと思っていたのに、炎上網で塞がれた。 舌打ちしつつ、今度は刀を持つ手に力を込め、何もないそこに勢いよく斬りおろす。 真空の飛ぶ刀が炎上網を裂き、エースを捕える! 「よっしゃあ!」 「あめェよ」 と思ったのに、いつの間にか回り込まれていたエースに背後をしっかり取られてしまった。 背中をつつかれ、俺は両手を上へあげ、勝負は終わり。 炎上網は囮かよ…。やっぱまだ勝てねェな。 「さすが隊長」 「経験の差だよ、名前君」 「うわ、ムカつく」 刀をしまい、後ろを向くと余裕そうな顔で笑っていた。 あーあ、今のは確実とったって思ったのにな…。 ぼやく俺に、エースはまた笑う。どんだけ笑うんだよ。 「でも最初に比べれば全然いいだろ」 「そうか?」 「動きもよくなってきたしな!即戦力になるってオヤジも喜んでたぜ」 「……」 そうだ…。強くなるのはいいが、強くなるたびにアイツが喜ぶんだ! クソォ…文句や不満の一つでも言ってやりたいが、今は大人しくしておこう。夜になれば出て行ける! 「ところでエース。下のほうが騒がしくないか?」 「ん?」 いつからかは解んねェが、下のほうが少しうるさい。 もしかして今の戦いで船に問題でも起きたか? 二人して首を捻り、下を覗くとたくさんの人間がうじゃうじゃと集まっていた。 どっかで見たことある服着てんな。って思っていたら、隣にいたエースが「海軍だな」と慌てることなく呟く。 「ああ、海軍だな。……って、ちょっとは驚けよ!」 「大丈夫だって。ほらもう動きだしただろ?」 ゆっくり港から離れていく船。 パンパン!と銃弾が船を襲うも、あんな鉛玉じゃあこの船を傷つけることすらできない。 さすがだねェ…。と俺も落ち着いて海軍を見ていたが、何かがこっちに向かって飛んできた。 しかも何か言ってやがる。 なになに…。う、け、と、れ? 「お前らをか!」 「とーちゃーく」 「ちょっと、名前。もっと綺麗に受け取ってよ」 「俺のリーゼントがああああ!」 飛んできたものは王子、イゾウの旦那、リーゼントサッチだった。 咄嗟に風を起こして三人を受け止めるも遅く、俺を下敷きに甲板へ倒れる。 さすが隊長。ジャンプ力も凄いッスね! 「なんて言うか!いきなり飛んできたかと思ったら、受け取れだァ!?こっちの準備も考えろよ!」 「そう言いながらも受け取ってくれるよな〜。俺、お前のそんなとこ好きだぞー」 「……お、おう」 「照れてやがる!気持ちわりィ!」 「よーしリーゼント、歯ァくいしばれ。まずは左からだ」 サッチを遠慮なく殴って、アイツがいないことに気がついた。 おやおや、これはもしかして? 「パイナップルの奴捕まったのか!そりゃあ傑作だな!」 「いるよい」 「ギャッ!」 声と同時に背中に飛び降りてきたパイナップル…! 背中は止めて!呼吸できなくなるから止めて! 「全員持ち場につけ。全力で海軍を振りきるよい」 王子の手を借りながら立ち上がり、港のほうを見ると、たくさんの海軍が追いかけてきた。 おいおい、ありゃあヤバくないか?かなりの量ですぜ? つーかここに俺がいるってバレたらヤバくない? 確実に手配書いきだよな。それだけは勘弁願いたい。 なので俺は隠れる。顔がバレないところに隠れる。 「おい名前」 「げっ、クソジジィ!」 「オヤジと呼べ」 「いっ…ってェなクソ野郎!」 バタバタと動き回る海賊達を尻目に、俺は船室に逃げようとした。 しかし船長がそれを許さなかった。 涙目になる俺を見下すように笑って、首根っこを掴む。 「おい、何しやがる!その持ち方止めろ!苦しいしトランクス見えんだろうが!」 「アイツら潰してこい」 「はァ!?ほんとに朦朧したのかよ!」 「アホンダラ」 「ってェ!」 また殴りやがった!なんなんだよもう! 「あの海軍どもを海に沈めてこいって言ってんだ」 「馬鹿かテメェ!んなことできるか!」 「全部潰したら自由にしてやる」 「え…」 ま、マジですか…。 好きなときに寝て、好きなときに遊んで、好きなときに食える。あの幸せだった日に戻れんのか!? 「よっしゃあ!任せろ、すぐに潰してきてやんよ!」 「ただしお前一人で行ってこい」 「えー…。まァ……なんとかなんだろ」 「ちょっとでも手ェ借りたら俺の息子になる。これは約束だ。守れるな?」 「おうよ!約束だけは守るぜ!」 「じゃあ行ってこい」 「おう!」 少し前の俺なら確実にやろうと思っていないだろう。 だけど今は力が溢れてくるっつーか…なんかやれる気がする。 多分過信してるのもあると思うが、それ以上に、 「なんか楽しいぞ」 どうして潰そうか。どうやって斬ろうか。どうやって海へ沈めてやろうか。 海軍に喧嘩売るなんて初めてだ。どうせ喧嘩やるなら男らしく派手にやってやろうじゃないか! そう思うと胸がドキドキと躍る。やっべェ、本気で楽しい! 「俺の本気見せてやる!」 砲弾を避けながら海軍の船まで飛び、一番前を走っていた船の甲板へと降りる。 意気揚々と宣誓してやると、剣や銃を持った海軍が俺を襲ってくる。 「切り刻んでやっから静かに沈め」 一度唇を舐め、力を解放した。 [*前へ][次へ#] |