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何が起ころうが変わることはない

その瞬間、繊細な俺の身体はパリンと音を立てて壊れた。


「…と、言うのは言いすぎだが、……ここはどこだ?」


重たい身体を起こし、周囲を見渡すが、どうも見覚えがない。
薬品の匂いがツンと鼻の奥を刺激し、ベットから降りようとしたら後頭部に鋭い痛みが走って動きを止める。
痛い…。何で痛いんだ?いや、マジで記憶がねェ…。


「お、名前目ェ覚めたのか!」
「あ?」


痛みが治まったのに、半裸の男が入って来て大きな声で喋る。
そのせいでまた後頭部が痛み、男を睨みつけてやる。
男の半裸とか興味ねェし。女の子だったら痛みも引いただろうし、ウェルカムだ。


「おい大丈夫か?ナースさん達呼んできたほうがいいか?」
「ナースがいるのか?天使か?」
「そんなこと言える元気は残ってんだな。じゃあ大丈夫だ!」
「ハァ?いいから女の子連れて来いよ。野郎に興味ねェ。それとも切り刻んでやろうか?」


親しげに話しかけてきやがって…。
睨むのを止めることなく、言ってやると、男はポカンとした顔で頭をかく。
なんなんだよ!


「あー…名前、殴ったのは俺じゃねェぞ?」
「殴った?この痛みはテメェのせいか!」
「だから俺じゃねェって!ってかなんか様子変だな…」
「大きい声出すな!それと、馴れ馴れしく俺に話しかけてくんなよ!」
「馴れ馴れしくって…。ちょ、お前…まさか…!」
「んだよ」
「俺の名前、解るか?」
「知るか。野郎の名前に興味ねェ」
「マルコオオオ!名前が記憶喪失になっちまった!」
「だから大声出すなっての!」


とか言いながら、俺自身も大声出してるから痛みがなかなか治まらない。
……記憶喪失、とか言ってたな、あの半裸。
え、マジでそんなこと起きるもんなのか?本の中だけの話かと思ってた…。
じゃああの半裸は俺の知り合いか何か?あんな露出狂と知り合いとかマジ終わった。ねェよ、ねェな、うん、ない。


「名前、記憶喪失になったんだって?」
「………パイナップル人間…!」
「エース、いつもと変わらねェよい」
「いやいや、マジだって!」


また半裸の男が戻ってきた。隣にパイナップル人間を引きつれて…。
衝撃的だった。パイナップルを見ると懐かしい気分になると同時に、殺意が湧いてくる。
あと、「クソ鳥が」って言いたい。何でだ?やっぱり半裸が言うように俺はこいつらと知り合いなんだろうか…。


「とりあえず確認するよい。お前はバカだよな?」
「おい、ストレートは止めろ、ストレートは」


……お?今の感じはどっかでも言ったな。


「で、テメェら誰だ?」
「俺はエース。で、こっちがマルコ。簡単に説明してやるけど、名前は白ひげ海賊団の一員で、もう何ヵ月か一緒に海賊してる。ここまで大丈夫か?」
「……は?俺海賊してんの?」
「あー…こりゃあマジで記憶喪失だな」
「ただボケてるだけだろい。記憶喪失なんてバカがやるもん……ああ、こいつバカだったな」
「すみません、エースくん。このマルコというおっさんは殴っても構いませんか?」
「マルコ、今は遊んでる場合じゃねェだろ」
「すまねェ。こいつの顔見るとどうしてもな」
「エースくん、俺は何で記憶喪失になったんだ?」
「冗談でも「くん」つけんな、気持ち悪い。それはまあ……いいじゃねェか。それより何か覚えてることねェか?」


そのとき、エースという半裸の男の横に立っていたパイナップルのおっさんが鼻で笑ったのを俺は見た。
きっとこいつが原因だと思う。俺の全細胞がこいつのせいだって言ってる。
(記憶をなくしてから)初めて喋るのに、なんかこいつとは馬が合わねェ。


「覚えてること…?」
「どっから記憶がねェんだ?」


そう言われて昔の記憶を掘り起こす。
どっから記憶がねェんだ?


『見ての通り嵐に遭遇しちまった。どうにかしろい』
『え、強制労働?どうにかしろって何だよ』
『風人間なんだろ?』
『そうだけどよ。だからって自然界に勝てるわけねェだろ?それに俺が扱えるのは俺自身の風であって、風人間だからって全ての風を操れるわけじゃない』
『つかえねェんだな…』
『おい半裸、俺をそんな目で見るんじゃない。止めて!』
『やればできる!』
『できるか!』
『関係ない。やれよい』
『……すみませんパイナップルさん。俺の話聞いてましたか?』
『やれよい』
『もうやだここ!帰りたい!』


………あっれェ?


『関係ねェよい』
『鬼畜だなこのクソ鳥!』
『ほォ…まだ言うか』
『痛い痛い!』
『気持ちいいの間違いだろい?』
『マゾじゃねェし!』
『何じゃれてんだ?』


おっかしいなァ…。


「何か思い出せたか?」
「ロクでもねェのがな」


頭をよぎった記憶はロクでもないものばかり…。
どれもおっさんとケンカしてる記憶で、そのたびにイライラする。
やっぱダメ。あのおっさんはダメだ。嫌い。無理。ハゲろ。


「でもよ、俺が海賊してるなんて信じらんねェ」


だって俺縛られるの嫌いだもん。自由に行きたいから悪魔の実食ったわけだし。
だから海賊をしてるなんて信じらんねェ。
記憶もなくなったことだし、丁度いいじゃん。ここで別れようぜ。俺は新しい人生を歩む!記憶がなくたってどうにかなんだろ。


「いやいや、何考えてんだよ!確かに強引だけどよ「エース、もう言うな」マルコ…」


エースが焦った様子で俺を引きとめようとするのを、今度はおっさんがエースを止める。
おお、いいことするじゃねェかパイナップル。


「本当のことを言ってやるよい。お前、実は俺の奴隷だったん「嘘を言うな嘘を!」


そっちのほうこそ信じられねェから!
シレッと嘘つくんじゃねェよパイナップルが!人間になって出直してきやがれ!


「エース、もっかい殴ったら記憶が戻る「わけねェだろ!てかお前が殴ったせいでこうなったのかよ!」


つんざく痛さって体感したことあるか!?むちゃくちゃ痛ェんだよ!
おっさんの胸倉を掴んでやると、「ハハハ」とバカにした声で笑う。
殴ってやろうかと思ったけど、また後頭部に痛みが走って手を離した。…くっそ、マジで覚えてろ。


「とりあえずよ、ちょっと外出てみねェか?」
「だから別にいいって、記憶がなくても」
「ゆっくりしていけよ。別に急ぐ旅じゃねェんだろ?」
「まァ…そうだけど」
「だから、な?」


爽やかな笑顔で俺を説得するエース。
こいつはいい奴だな。なんか悪い感じはしねェ。仲良くできそうだ。
エースに先に歩いてもらい、廊下を進むと潮の匂いがした。……ここ、船の中か?


「とりあえずちょっと街に出ようぜ。腹減ってるだろ?」
「……そういえば…」
「飯食いに行ったんだけどよ、こんなことになっちまったんだ」
「そうなのか?」


甲板に出るとたくさんのむさ苦しい男どもがいた。…勘弁してくれ、野郎に囲まれて生活すんなんて無理だ!


「―――あ…」
「ん?どうかしたか?」


甲板を通り過ぎ、港に降りて少し歩くと市場があった。
その一番手前に果物屋があり、そこを見るとなんかもやもやする。なんか……見たことある。


「名前?」
「この場所なんか思い出せそう」
「そりゃあそうだい。俺がお前殴って記憶飛ばした場所だからな」
「テンメェエエエ!」


お前今ハッキリ言ったよな?言いましたよね!?
マジふざけんなよ!お前どんだけ強く殴ったわけ?俺のことそんなに嫌いなの?いや、好かれたくねェがマジでムカつく!


「どんまい」
「それ俺のセリフだよクソパイナップル!」
「じゃあ、かっこわらい」
「笑って許せるほど心広くねェよ!」
「おいおい勘弁してくれよい。お前ほんとできた人間じゃねェな。もっと余裕持たねェとハゲちまうぞ?」
「エース!俺こいつ無理だ!すっげェ切り刻んでやりたいんだけど何でダメなの?何でこいつ生きてんの!?テメェだけにはハゲって言われたくねェ!この中途半端ハゲ!」
「残念、生まれつきだい」
「キィ!ああ言えばこう言う!」
「落ちつけ名前!マルコ、頼むから遊ぶなって」
「いや、なかなか新鮮で楽しいよい」
「お前いつでも名前で遊んでんだろ…。名前、マルコから離れて歩けって」


というわけで、俺、エース、パイナップルの横並びで進むことになった。
我慢だ名前。あいつがなんて言おうが我慢しよう。俺が大人になるんだ!


「ところで名前」
「何でしょうか、パイナップルさん」
「ここに見覚えないかい?」


そう言っておっさんが指さすのは一つのお店。
至って普通のお店だ。なんの店かは解んねェが、頭を捻って記憶を探る。
なんか記憶の手掛かりになる場所なのか?全く記憶にねェんだけど…。
でも真面目な声と顔で言ってたしなー…。あー…イライラしてきた。


「なんで思い出せねェんだよ…」
「ここ初めて来た場所だよい」
「……ハアアアア!?」
「さ、遊んでねェで飯でも食うか」
「…もう、泣きたい…」
「元気出せって。な?」
「エース…。お前っていい奴だな…」
「おう!俺名前が好きだぜ。だから出て行くとか言うなよ」
「くっそ、そんなストレートに好きって言うなよ!惚れそうだった!」
「それは勘弁だな」
「あ、おい名前」
「黙ってろパイナッブッ!」
「おい大丈夫か名前!」


言いきる前に頭に強い衝撃。
そのときは解らなかったが、店の看板が俺の脳天に直撃したらしい。
おかしいよね、俺風人間なのに。


「あー…俺はもうダメだ…」
「しっかりしろ名前!お前風人間だろ!マルコッ、笑い堪えてないで手伝ってくれよ!」
「ッ…わ、悪い…。いや、ほんとすげェよなァ…」
「関心してる場合じゃねェって」
「でもなエース…ッ!ちょ、ちょっと待ってろい…!」
「エース、次に目ェ覚めたらあいつを一番に殴っていいよな?」
「いいからしっかりしろ名前!」


ダチに心配され、見送られるのもいいもんだな…。
そこで意識が飛んだ。





「テメェ!今俺の顔見て鼻で笑っただろ!」
「おしい。お前のバカ面拝んで鼻で笑ったんだい」
「付け足すんじゃねェよハーゲ!」


次に目を覚ましたときには記憶が戻ってました。
いや、人生って何が起こるかわかんねェもんだな。





雲の空耳と独り言+α様より
「記憶喪失で5題」(ギャグ)

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