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最悪なはじまり

今日も誰に縛られることなく、自身の能力である力を使いながら海の上を飛んでいた。
暑くなく、寒くもない丁度いい気温に、瞼は次第に重たくなる。
しかし寝たら海に落ちて死んでしまう。


「やっぱ船あったほうがいいよな…」


船があるなら寝れる。
だけど船はこの間誰かに盗まれてしまった。
まぁただの小舟だし、支障はないと思っていたが、ここにきてその支障が出た。
このまま夜になっても島が見つからなかったら、ヤバい。
大好きな昼寝もできねェし、普通に眠れない。それだけは避けたい。


「本気出すか…」


仰向けになっていたのを起き上がり、背中に少し力を入れる。
「自然」と一体化する、なんとも奇妙なこの感覚にも慣れてきた。
風を起こし、空を駆ける。


「風人間さいこー…」


やっぱ風はいいな。自由だし、便利だし。
ピュウピュウの実食ってマジ正解!

しばらく空を飛んでいると、海に白い鯨を見つけた。
白い鯨なんて珍しいな。と目を凝らして見ると、鯨じゃなく海賊船だった。
そう言えば金も底がついてきたっけ。このあたりで稼いどくか…。

力を弱め、下へ落ちる。この浮遊感も好きだ。
着ていた着流しが乱れ、トランクスが見えるがまぁいいだろう。


「よっと」


ギリギリのところで足元に風を起こし、静かに降り立つ。
ふふん、なかなか格好いい登場の仕方じゃねェか。さすが俺。
乱れた着流しを直し、顔をあげると、そりゃあ怖い顔をした男達がうじゃうじゃいた。
そう見つめるな。俺ァ男に興味はない。それは向こうもだろうけど。


「えーっと、とりあえずここの船長誰?」


その言葉に男達はギャーギャーと吠える。
うっせぇなァ。だから海賊って嫌いなんだよ。海軍も嫌いだけど。
ともかく雑魚どもをさっさと倒して船長を打ち取るか。

背中に背負っていた刀を握り、鞘から刃を見せると、向こうも戦闘態勢。
おお、殺気が半端ないですね。でも俺死なないよ。だって風人間だからね。
刀を構える前に男達は俺に襲いかかってきた。これだから早漏野郎は…。


「ほっと、よっと、…残念。こっちこっち!」


軽く攻撃を避ける。
元々身軽な俺。風の力も借りてさらに身軽となり、攻撃を一度も受けることはなく、どんどん先へ進む。
進むのはいいが、そっちに船長がいるかなんて俺は知らない。
ちょっと疲れてきたから飛んで、マストの上に乗る。
刀を肩に担いで、欠伸をして見せると「テメェふざけんのもいい加減しやがれ!」「ブッ殺すぞ!」「トランクス見せんな!」などと野次がうるさい。


「で、船長さんどこ?」


ていうかこの船どこの海賊だ?
まぁ誰だろうと関係ないんだけどな。
お金欲しいし早く倒して海軍に連れていこ。
しかしこの雑魚どもをどうするか…。


「あれ?」


ふと腕に目を降ろすと、いくつかのかすり傷がついていた。
俺風人間なのに…。
だけど攻撃をかわしていて、なんとなく感じていた。
この海賊はそこらへんの海賊とは少し違う。
例え雑魚であろうと、個々の身体能力と戦闘センスが高い。気がする。

やっべェなぁ…。もしかして結構名のある海賊の船なのかな。
そうだとしたら面倒くさいことになった。
例え悪魔の実を食った俺だからって、戦闘能力がそんなに高いわけじゃない。
元々ただの一般人だったわけだしな。
持ってる刀だって使うことないから、なまくらだし。


「帰ろ」


そう思って船から離れようとしたら、強い圧迫感が下から襲ってきた。
瞬間、全身から溢れる冷や汗…。
恐る恐る下を見ると三日月の白いひげ。
……おいおい、マジかよ。


「白ひげの船だったのか…」


よし、逃げる。喧嘩売る相手間違った。


「またクソ生意気そうなガキが来たな。俺の首を狙いに単身乗り込みか?」
「おいおい、男のパンチラなんて嬉しくねェぞ!」
「すぐそこに目がいくサッチもサッチだけどな」
「エースも見ただろ!」
「ああ、俺とお揃いだった」
「マジかよ!」


マジかよ!
って、リーゼントとハモって驚いてる場合じゃねェ。
あれ隊長どもだ。火拳のエースに不死鳥マルコ…。
マジやべェじゃん!俺まだ死にたくねェよ!


「風人間か?便利そうだな。マルコ、捕まえろ」
「了解」
「おーい。お前逃げんのか?何もしてないのに尻尾巻いて逃げんのか?」


うるせェ半裸!俺はプライドなんかより自分の命が大切なんだよ!
だから姿も消して逃げようとしたら、半裸が「ダセェ!」と爆笑し、俺の身体が止まった。
命は惜しい。だけどあの笑い方…すっげェムカつく!


「上等だ。やってやんよ!」
「もう遅いけどな」
「がふっ!」


空を飛んでたはずなのに、後ろから声が聞こえ、振り向くと同時に顔を思いっきり殴られる。
久しぶりの痛さに驚きが隠せず、そのまま甲板へと落ちた。


「〜〜っ!」
「うっわ、弱すぎだろ…」
「うるせェ…!そんな目で俺を見んな…。つーか囲むな!見世物じゃねェぞ!」
「姿消すなよい」
「ぐふッ!」


姿を消そうとしたら、遅れて降りてきたパイナップルに背中を踏まれた。
苦しさを耐える俺に、周りから笑い声が溢れる。
屈辱…ッ!絶対ェ許さねェ!


「切り刻んでやる!」


力を外へと解放する。
鎌鼬みたいなものが次々と海賊達に襲い、混乱が起きた。
ざまァみやがれ!俺を笑った罰だ!


「俺の大事な船に傷をつけるんじゃねェ!」


鼓膜が破れるんじゃないかってぐらい響く大声とともに地面までも揺れた。
地面っつーか…世界?
アンバランスとなった地に、俺は急いで空へ飛び立つも、またしてもパイナップルが許してくれなかった。
今度はガッツリ捕まえられ、手錠をかけられた!
おい、俺にそんな趣味はねェぞ!って文句を言ってやろうとしたが、身体に力が入らない…。


「お前…なに、した…?」
「オヤジ、捕まえたよい」
「俺の船を傷つけやがって。適当に部屋に入れておけ。話しは落ち着いてからだ。おいお前ら、穴あいてねェか確認してこい」
「マルコマルコ!俺が連れて行く!」
「逃がすなよ、エース」
「解ってるって」
「離せ!俺にさわんな!」


まぁまぁ。と楽しそうに笑いながら、半裸男もとい火拳のエースは俺の背中を押して部屋へと入って行く。
そこは荷物ばっかの部屋で、若干臭い。ふざけんな!


「クソッ!んだよこの手錠!ぜんっぜん力はいんねェ!」
「お前海楼石ってしらねェの?」
「知らん!どうでもいいからこれ外せ!」
「外すか」


半裸はただ笑って俺に話しかけてくる。
だけどしつこく話しかける。全く持ってウゼェ。
まァ俺も冷たい男じゃねェからな。適当に答えてやる。


「悪い、寝てた」
「刻むぞクソガキ」


寝るな!俺の話しを聞け!なんなのこいつ!


「おい」
「あ!今さっきはよくもやってくれたなチキン野郎!」


扉が開いたかと思ったら、俺を散々ボコボコにした鳥人間が入ってきた!
パイナップルか鳥かどっちかにしろ!って嫌味を言ってみたが、簡単に無視。
笑われるのもイヤだけど、無視されるのもイヤだ。ほんと止めて下さい。


「お前風人間なんだろい?」
「おうともよ。誰も俺を縛ることはできねェぜ」
「でもお前現時点で捕まってんじゃん」
「半裸は黙っときなさい」
「いいからこの嵐どうにかしろい」


そう言って俺を無理やり立たせ、歩かせる。お前ら何がしたいんだよ!


「ちょっ、乱暴に扱うな!俺繊細なんだからな!」
「そうは見えねェけどな」
「だから半裸は黙ってろって!」


で、外に出てみると、今さっきの天候とは正反対。
海は荒れ、空もゴロゴロと雷まで鳴らして怒っていた。
風も気まぐれだけど、ここの海も気まぐれだよな…。


「見ての通り嵐に遭遇しちまった。どうにかしろい」
「え、強制労働?どうにかしろって何だよ」
「風人間なんだろ?」
「そうだけどよ。だからって自然界に勝てるわけねェだろ?それに俺が扱えるのは俺自身の風であって、風人間だからって全ての風を操れるわけじゃない」
「つかえねェんだな…」
「おい半裸、俺をそんな目で見るんじゃない。止めて!」
「やればできる!」
「できるか!」
「関係ない。やれよい」
「……すみませんパイナップルさん。俺の話聞いてましたか?」
「やれよい」
「もうやだここ!帰りたい!」


捕まった場所は最悪な海賊団でした。

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