「俺マジでマルコ嫌い!大嫌い!殴らせろ!」 「男に…ましてや名前に好かれても嬉しくねェよい」 「名前…。今回ばかりはお前に同意するぜ。マルコもサッチも解っちゃいねェ…」 「んだとクソガキども!そりゃあこっちの台詞だぜ、なァマルコ!」 モビー・ディックの甲板の上で、名前とエース、マルコとサッチがいがみ合っていた。 周囲にいた仲間達はそれを楽しそうに離れた位置で見学している。 口喧嘩から掴み合いの喧嘩になりそうな雰囲気の中、どっちが勝つか!の賭けごとまで始まり、甲板ではちょっとしたお祭り騒ぎ。 勿論四人は本気で腹を立てている。しかし怒りのあまり、周囲がお祭りになっているのに気がついていない。 「こうなったらレースで勝負だ!」 「おうよ!」 「これだからガキは…。殴り合いでいいだろうが!」 「サッチ、ガキの戯言に付き合ってやろうぜ。殴り合いだと俺達の圧勝だからな」 「おいおいパイナップルさん。若い力舐めてもらっちゃあ困るぜ。言っとくけど俺とエース、結構コンビネーションいいんだぜ?」 「オッサンは体力ねェから、せめてレースにしてやったんのにな…」 「小童が、舐めんなよい。何であろうが俺らが勝つ」 「何でもいいからかかってきやがれ!」 売り言葉に買い言葉…。 若者代表エースと名前が「レースで勝負だ!」と喧嘩をしかければ、おじさま代表マルコとサッチが「かかってこいや!」と承諾する。 盛り上がる外野。ヒートアップするトトカルチョ(賭けごとのこと)。 「ルールは簡単だよ。相方を背負って、ここから船首まで走って帰ってくるだけ。二週目は交代してもう一往復」 「お前らタッチはちゃんとしろよ〜。俺んとこの隊員がちゃんと見てっからなァ!」 「マルコォ!これで泣きっ面にしてやんよ!」 「そりゃあこっちの台詞だい。泣いて謝っても許さねェからな!」 「サッチ、どっちが上かいい加減ケリつけようぜ。ま、つけなくても結果は解ってんだけどな」 「おうおう、小僧がぎゃんぎゃんうるせェな。負け犬の遠吠えにゃあまだ早いぜ!」 「あ、あと能力使ってスピードあげる、空を飛ぶは禁止だから」 「能力使わなくても楽勝だっつうの!」 「それじゃあせっかく誘ってくれたコイツらが可哀想だろい」 イゾウが最後に注意をし、まずはエースが名前を背負い、サッチがマルコを背負う。 静まる周囲に緊張が走るが、やっていることは大したことではない。 「よーい、スタート!」 バンッ!とイゾウの銃声が空に響き、一気に駆けだすエースとサッチ。 まず最初に飛びだしたのはエースと名前組。しかし僅差。いつ抜かれてもおかしくない。 「よっしゃあ!エース行けぇえええ!」 「任せろ!俺らがオッサンに負けるはず―――って危ねェ!」 先を走るエースと名前の前に何人かの仲間が横切る。 勢いがあったせいで急に止まることができず、当たらないよう横に転がる。 崩れ落ちた二人の横を、サッチとマルコが「お先」と走り去った。 二人の前を横切ったのは、一番隊隊員と四番隊隊員。 「きたねェぞテメェら!」 「自分の隊員使ってまで勝ちてェのかよ!クソッ、名前、早く乗れ!」 二人の叫びなど聞こえないフリの大人げないオッサン二人。 急いで立て直し、駆けだすエース。二人はもうブチ切れ状態。さらにスピードを上げ、二人を追いかける。 「おいサッチ、もっと早く走れよい」 「これでも頑張ってんだよ!いい年したオッサンを乗せた俺の気持ちも汲み取って!」 「おいゴラオッサンども!よくもきたねェ真似してくれたな!」 「あーあー、うるせェ奴がきちまったよい」 「俺のせいか!?」 「そっちがその気なら俺らにも考えはある。名前!」 「任せろエース!ほりゃ!」 肩を並べ走る。もう少しで船首に辿り着く。 エースの合図と同時に、名前は上半身のみを風となった。 一気に軽くなる名前の体重。そのおかげでエースの負担も少なくなり、再びサッチとマルコを抜いた。 盛り上がる周囲とは裏腹に、イゾウとハルタは「あれはルール違反じゃねェ〜?」「いや、ギリでセーフ」などと審査員の目で冷静に見ていた。 「おいきたねェぞガキども!」 「どの口が言いやがる!エース、もうちょっと風になれるぞ!」 「いや、それで十分だ。おいマルコ!マルコも鳥になれよ。なっても意味ねェけどな!」 「小鳥にでもなってろパイナップル!そしたら可愛がってやんよ!」 「「ギャハハハハ!」」 二人が声を揃えて笑い、船首にタッチする。 スタート地点に戻ろうとしたとき、サッチとマルコを横切る。 しかしその瞬間、名前が生身の人間へと戻り、エースはバランスを崩し、また転んでしまった。 「おい名前!いきなり戻んなよ!」 「わ、わりィ…。でも…力が…」 「はァ?……おい、それ…」 「お前らガキとは頭の作りと、抜けてきた修羅場の数がちげェんだよ」 「そこで仲良く寝てろい」 名前の足首には海楼石で造られた手錠。 そのせいで名前は生身の人間となってしまったのだ。 これをつけられたら力を使うどころか、まともに走ることすらできない。 立てない名前を無理やり立たせ、また背中に背負うエース。 「おい、次俺が走んだよな…。ちょっと無理だぞ…」 「鍵はサッチが持ってる。アイツ…能力者じゃねェから常に持ってんだよ」 「燃やすか?」 「いや、そしたら多分ルール違反だ。が、こんな理由で負けたくはねェ」 ルール違反もなにも、どうでもいいゲームなのだが、彼らは至って真面目だった。 エースは前を走る二人にめがけ、わざとらしくクシャミをした。 「うわっちィ!」 「こりゃあ…エースの火か!」 マルコとサッチの前を小さな炎が遮る。 立ち止まる二人に追い付き、エースが素早く鍵を奪う。 「エース、早く!」 「うるせェ!今外すから待ってろ!」 「マルコ!」 「おう!」 まずはマルコとサッチの二人がスタート地点に戻り、今度は逆になって再び走り出す。 ようやく海楼石が外れた名前とエース組もスタート地点へと戻り、逆になる。 エースも名前のとき同様上半身を炎と化し、体重を軽減させた。 しかし、青い羽が前を遮り、うまく走れない。 「パイナップル!羽もちゃんと収めれねェのかよ!」 「すまねェな。綺麗すぎて見惚れちまうだろい?」 「おい名前!いいからとにかく真っすぐ走れ!どうせ何もねェんだ!」 「おう!」 「甘いぜ!」 また隠し持っていたサッチの武器、調味料(胡椒)が名前を襲う。 胡椒が名前の鼻をくすぐり、盛大にクシャミをすると、サッチとマルコの追い風となり走る手助けをしてしまった。 エースに殴られるが、名前はそれどころではない。 「おいサッチ。重てェ」 「俺も今さっき重たかったっつーの」 「せめて半分になれよい」 「なれるか!」 余裕で船首にタッチをし、残り半分。 追いかけてきた名前と生身に戻っていたエースの顔をパァン!と殴り、追い打ちをかける。大人気ないにもほどがあるオッサン達である。 しかし色々と限界にきていた、切れやすい若者二人。 船首にタッチすることなく、青筋を大量に作って二人の背中を見ていた。 「エース、俺ァもう限界だ」 「奇遇だな。俺もだ」 「殺るぞ」 「おお、殺ろうぜ」 名前が風を作り、エースが炎を乗せる。狙うはオッサン二人。 風に乗った炎のスピードは早く、二人の目の前を再び遮った。 炎のロープが自分達とマルコ、サッチのみを囲む。船を燃やすわけにはいかない。 サッチも降り、ゆっくり振りかえる。こちらも殺る気満々のオーラ。限界を迎えていたのだ。 「やっぱゲームじゃダメだ。エース、すぐ終わらせてやろうぜ!」 「俺ら自然系に勝てると思うなよ?」 「バカが。例え生身の人間だろうが俺を舐めんなターコ!」 「お前らに殺られなんて勿体ねェよい。あ、他に何か言いたいことはあるかい?」 「は?」 「お前らの遺言だよい」 その言葉に、名前はマルコ、エースはサッチへ襲いかかり、それを迎え撃つマルコとサッチ。 名前の刀がマルコの身体を斬ったかと思えば、そこにはおらず空へと逃げていた。 追いかける名前だったが、空はマルコの庭みたいなもので、そのスピードにはついていけない。 だからと言ってただやられるわけにはいかない。鍛えられたおかげでどう対処するかすぐに思いついた。 「今日で“不死”も終わらせてやる!海の藻屑となりやがれ!」 自身を中心に竜巻を起こし、近づけないようにする。 一方その下ではエースによる一方的な戦闘が繰り広げられていた。 しかしやられるだけの男なわけがないサッチ。 「くらえ!」 何かをエースに投げつける。 中に何が入っているか解らないエースは勿論火銃で撃ち落とすが、中身は海水だった。 頭から浴びてしまった海水に、一瞬焦りが生じる。その瞬間をついて、エースの首を狙いにサッチが駆けだした。 「小童が偉そうに吠えんじゃねェよい!」 「クソジジィが偉そうに説教してんじゃねェ!」 「年上に歯向かうからこうなんだよ!反省しろ!」 「うるせェ!勝負はまだまだこれからだ!」 「やめんかクソガキども!」 船長・白ひげの一喝は海も空も裂け、そして四人のいい年した男どもの鼓膜も裂く。 避難していた仲間達はようやく息をつき、タンコブを作り、大人しく正座させられている四人を遠巻きで笑って見ていた。 「…なァイゾウ。そもそも何が原因で喧嘩になったんだァ?」 「さァ?」 当分の間は静かになったモビー・ディック号であったが、数日後には再び同じことをしているのだった。 [*前へ][次へ#] |