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気付かないで。気付きたい。

大きな手を握り、絶対に離さないとユビキリをした。
その大きな手を持つ人は、白ひげ海賊団の中で女性らしいオーラを纏っているが、実は誰よりも男らしい。
最近そういう細かいところに気づき始めた。


「名前ちゃん、どうかした?」
「ううん。何でもないです」


港から街へと向かう途中、イゾウさんが柔らかな笑みを浮かべて首を傾げる。
私も笑って答えると、やっぱり笑って握る手に少しだけ力を込めた。
今日はイゾウさんと一緒に街へ行く約束をした。
マルコさんは船番(その他にも仕事があるって言ってた)で、サッチさんとエースさんは二人でどこかへ行ってしまった。
本当はマルコさんのお手伝いをするつもりだったんだけど、イゾウさんに誘われ、断る理由もないので二人で買い物に出ることになった。
イゾウさんは好き。いや、皆大好きだけど、イゾウさんはマルコさんとは違う好き。
んー…マルコさんはお父さんで、イゾウさんはお母さん。そんな感じ。
マルコさんに言えないことも、イゾウさんには言えたりする。それに色んなこと教えてくれるしね!


「人がいっぱいですね」
「そうだね。はぐれないよう気をつけて」
「はいっ」
「勿論、俺も気をつけるよ」


そう言って道の端に寄りながら大通りを歩く。
壁とイゾウさんに挟まれた状態ができた。


「さて、名前ちゃん。何食べたい?」
「えっとね、えーっと…」


この島はそれなりの観光地で、人も多ければお店も多い!
だから色んなものに目を奪われ、何を先に食べていいかも解らない。
迷ってなかなか決められない私に何も文句を言わず、ただ黙って言葉を待っているイゾウさん。


「決まらないならちょっと見て回ろうか」
「あ、はい」
「もし欲しいものがあったら言ってね?」
「解りました!」


片方の手で敬礼をすると、「ふふふ」と女性らしい笑みをこぼす。
その笑顔がとても幸せそうな顔で、私の心もほんわりした。


「イゾウさん嬉しそうですね」
「え?」
「だってずっと笑顔だもん!」
「そりゃあ名前ちゃんと二人っきりだもん。嬉しいよ」
「え!?」
「そんなに驚くこと?」
「お、俺といて楽しいですか…?」
「名前ちゃんは俺といて楽しくない?」
「楽しいです!イゾウさんとの買い物はすっごく楽しいです!」
「俺も一緒だよ」


ギュッ!と握る手に力をこめ、「じゃあ行こうか」と私の歩調に合わせて歩き出す。
イゾウさん優しいっ…!
イゾウさんの優しさに感動しながら歩いていると、なんだかいつもより歩きやすい気がした。
こんなにたくさんの人がいるのに…。
今までだったらマルコさんやエースさんと手を繋いでいても人混みに流されることがあったのになー…。
それなのに人にぶつかることも、蹴られることもなく、スムーズに進める。


「そっか…」


壁とイゾウさんに挟まれてるから、誰ともぶつかることないんだ…。
それどころか、イゾウさんが私より数歩先を歩いていて、人混みから壁を作って私の前を歩きやすくしてくれている。
些細なことだけど、私にとったらとても大きいこと!
そんなことに気遣ってくれるイゾウさんに感動しつつ、イゾウさんを見上げると視線がぶつかった。


「どうかした?」
「イゾウさん優しいです!」
「何が?」


首を傾げるイゾウさんに、私が気付いたことを言うと苦笑された。
あれ…?勘違いだったのかな?だ、だったら恥ずかしいことを言ってしまった…!


「うーん、改めて言われると恥ずかしいな…」
「恥ずかしい?」
「気付かれないほうが格好いいでしょ?」
「……俺は気づいてから幸せな気持ちになりましたよ?」


同じく首を傾げて本音を言うと、顔を反らされてしまった!
私変なこと言ったかな!?それとも、こういうことって言わないほうがいいのかな?!


「い、イゾウさん…?」
「ごめん、ちょっとこっち見ないで」


お、怒った…!怒らせてしまった…!


「あー…ちきしょー…」


片方の手で名前ちゃんから顔を隠し、聞こえないよう呟く。
女性をエスコートするのって男の役目だと思うし、名前ちゃんは余計小さいから俺が守ってあげないとって思って、細かなことにも配慮していた。
きっとサッチが見たなら「この過保護が!」って言うだろうけど、大事な妹なんだし仕方ないだろ。
だけど…。良くも悪くも、名前ちゃんのこういう素直なところって本当勘弁してもらいたい…。
真っ直ぐな言葉ほど、心に響くってもんだよ。

「恥ずかしい」なんて、いつ以来だろうか…。

高ぶる気持ちを落ちつかせ、「ごめんね」と謝りながら名前ちゃんを見ると、涙目になって俺の服を握りしめていた。
誰だ!名前ちゃんを泣かした奴は!


「ごめんなさい、イゾウさんっ…」
「は?」
「言わないほうがよかった…」


………俺か!
どうやら顔をいきなり背けたのを「怒った」と勘違いしたみたいだった。
解っていたけど名前ちゃんは繊細すぎだ。皆こんな可愛い妹を嫌うわけねェのにな。


「いや、そうじゃなくてね…」
「……」
「んー…、ちょっと恥ずかしかったって言うか、なんていうか…」
「恥ずかしい?」
「ともかく、怒ってないから泣かないで?」


親指で目じりに溜まった涙を拭って頭を撫でてあげるとゆっくり笑顔を作り、俺から離れる。
自分でも涙を拭って「はい!」と元気よく返事をする名前ちゃんを見て、俺もホッと息をついた。


「俺、イゾウさん大好きですから!」


真っ直ぐで、真っ白な言葉。
純情な名前ちゃんを、血で汚れた自分が汚してしまっていいのだろうか。
そう不安になることもあるが、名前ちゃんから手を握ってくれるのを見て、願わずにはいられない。


「名前ちゃん」
「はい?」
「俺の傍にいることを怖がらないでね?」
「イゾウさんは怖くないです!優しいですもんっ」
「うん。だけど、お願い」
「んー…よく解んないけど、大丈夫です!」
「ありがとう、名前ちゃん」


ふと、名前ちゃんといるときの自分はどんな顔をしてるんだろうって思ってしまった。




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