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まだ守られる君へ。後日談

昨日マルコに怒られた名前は、大人しく甲板でマルコが来るのを待っていた。
早く街に降りて遊びたいが、もう二度とマルコを怒らせたくないので文句を言うこともない。
エースやハルタに遊びに行こうと誘われたが、名前は「マルコさんと一緒に行くから行きません」と丁寧に断る。
それに昨日、マルコと遊びに行く約束をしている。
それらを全部伝えると二人は面白くなさそうな顔で船を降りて行った。


「待たせたな名前」
「マルコさん!」


今回船番でも買い出し組でもないマルコだったが、仕事は残っている。
それらを全て終わらせ、名前の元へとやってくると、名前は駆け寄ってそのままマルコに抱きついた。
怒られたばかりのせいか、マルコに名前を呼ばれるだけでも嬉しそうで、勿論抱きつかれたマルコ自身も嬉しそう。
二人の周りにだけ花がいくつか咲いた。


「名前ちゃん」
「あ、イゾウさんだ!」


その後ろからイゾウも顔を出し、変わらない優しい口調で名前の名前を呼び、ニッコリ笑う。
名前も笑ってマルコから離れ、イゾウに抱きつく。
今日はとてもスキンシップが激しいようだ。


「マルコと遊びに行くんでしょ?俺も一緒に行っていい?」
「もちろんです!いいですよねマルコさん」
「ああ」


本来イゾウは船番なのだが、先日の名前誘拐事件もあり、マルコに頼まれ一緒に行動することになった。
勿論名前を誘拐し、殴った奴らを滅する為である。奴らは過保護者二人を本気で怒らせてしまったのだ。
右手にマルコ、左手にイゾウ。大好きな二人に挟まれた名前は幸せそう。
マルコとイゾウも名前の前では穏やかな笑みを浮かべているが、名前に気づかないところでは軽く殺気を飛ばしている。
周囲を警戒し、怪しい人物が視界に映ればすぐに睨みを利かせる。
過保護者二人による鉄壁防御はこれで完成。誰もこれを壊すことなどできない。勿論近づくことも。
気づいていないのは名前のみ。


「美味しそうなものばかりありますね!」
「名前ちゃん、欲しいものがあったら買ってあげるよ」
「お金なら俺もあります!」
「今日は奢ってやるよい」


「今日は」ではなく、「今日も」なのだが。
賑わう通りを歩きながら、お店に並んでいる食べ物や見たことのないものに目を奪われる名前。
しかし勝手に走りだすことはしない。興奮はしているがマルコとの約束はしっかり守っていた。
楽しそうな名前の笑顔を見て、デレデレする二人だが、やっぱり警戒だけは怠っていない。
名前のことになると無駄に覇気を発揮する、どうしようもない親バカ二人を誰が止めるのだろうか。否、止められない。
その光景を偶然見たエースとハルタは持っていた食べ物を地面に落とし、「親子か!」と口を揃えて突っ込んだのだった。


「はい、名前ちゃん。落とさないよう気をつけてね」
「ありがとうございますイゾウさん!マルコさんとだけじゃなく、イゾウさんとも一緒に来れて嬉しいですっ」


イゾウから貰った島特産の食べ物を受け取りながらニッコリと笑顔をイゾウに向ける名前。
それを持つため、手を離してしまったが、名前の言葉に心が温まる過保護者の一人。


「名前、これも欲しかったんだろい?」
「わっ!何で解ったんですか?」
「名前のことなら何でも解るよい」
「ありがとうございます、マルコさん!」


マルコからはお菓子をもらい、お菓子が大好きな名前は顔が綻んだ。
「マルコさんすごーい。優しー!」と喜んでいる名前の頭を撫でながらイゾウの顔を見て笑ってみせると、イゾウの額に一つの青筋。
主旨を忘れ、いつもの名前争奪戦が始まってしまった。とてもくだらない戦争である。


「―――おいマルコ」
「ああ…」


しかし、名前争奪戦は中断された。
建物の陰に隠れる二人の男。
笑顔が溢れる大通りには似つかないほど暗い顔で名前を見ていた。
それに気付かないはずがない親バカ、ではなく隊長二人はそちらに顔を向けることなく目だけで合図を送り合う。
あいつらが大事な末っ子を虐めたかと思うと怒りで手が震えた。
名前の顔には殴られた痣や絆創膏などが張られていて、それを見ると自然と殺気が身体から滲み出てしまう。抑えられるわけがない。


「お、マルコ達じゃねェか。何してんだ?」
「サッチさんだ」


そこへ相変わらず空気が読めない、いや…今回は読めるサッチがやってきた。
手には大量の食材を持っており、買い出しの最中だと物語る。


「丁度よかったよい」
「サッチ、ちょっとの間だけ名前ちゃん見ててくれる?」
「あ?」
「マルコさん、イゾウさん、どっか行くんですか?」
「うん、少しだけ野暮用がね」
「すぐ戻るから。サッチから離れるんじゃねェぞ?」
「解りました。行ってらっしゃい」


名前に笑顔を向け、背中を向けて走り出す頃には隊長モード。
向かってくるマルコとイゾウに気づいた、名前を誘拐した男二人は慌てて路地裏へと逃げて行くが、二人が逃がすわけがない。


「わざわざ自分達から人気のないところに来てくれるとはね…」
「自分達の運命を自分達で決めただけだろい」
「ああ、なるほど。そう言うことな」


マルコが不死鳥になり、先回りして二人の足を止める。
後ろからイゾウが銃を構え「動くな」と低い声で脅せば、二人は背中合わせになってマルコとイゾウと見合った。


「な、何だよ俺らになんか用か?」


名前が足を撃ったせいで走るだけで息があがっている。
血も滲み、立つことさえ辛そうだが、同情なんて言葉はマルコとイゾウの中にはなかった。


「うちの末っ子がお世話になったな」
「っ…!」
「全部バレッ…!?」
「女の子の顔は殴ったらダメだって教えてもらわなかったのか?まあどっちにしろ消すけど」
「名前だけじゃなく、オヤジにまで手をかけようとしたんだ。許されるわけねェよな?」


路地裏で二つの叫び声が響いたが、空に消えて大通りにいた名前の耳には届かなかった。


「マルコさんとイゾウさん、どこ行ったんだろ…」
「(名前を誘拐した奴らを見つけたんだろうな…。名前を誘拐したそいつらが悪いが、可哀想に…)」
「サッチさん、俺二人を探してきていいですか?」
「あー?いや、ジッとしてろよ。すぐに帰ってくるから」


大通りでマルコに言われた通り、サッチと大人しく二人の帰りを待っていた名前だったが、何でいきなり自分から離れて行ったか解らない。
もしかしてまた何かしたのかと不安になり、探しに行こうとサッチを見上げるが、サッチは苦笑いを浮かべてそれを阻止する。


「でも…」
「それよりお前動いて大丈夫なのか?」
「え?」
「ケガとかしてるだろ。大丈夫か?」
「えっと…。まだ痛いけど、遊びたいです。それにマルコさんとイゾウさんと三人で遊ぶのって滅多にないから…」
「そっか。じゃあ存分に甘えることだな!」
「はい!」
「でも無理はすんなよ」


ペシペシと軽く頬を叩きながら笑うサッチに名前も笑って答えると、パシン!と音を立ててサッチの手が離れた。


「何してんだい、サッチ」
「名前ちゃんに触ってんじゃねェよ」
「こわっ!マルコもイゾウもこわっ!」
「お帰りなさい、マルコさん、イゾウさん!」
「ただいま、名前ちゃん」
「ただいま」
「(こりゃあ当分の間名前に近づくのは無理だな…。エース達にも伝えとくか)」


イゾウがサッチから名前を引き離し、名前とサッチの間にマルコ割って入って「近づくな」と言うように睨みつけた。
いつにも増して過保護っぷり(というよりただの独占欲が強い二人)が酷い二人に、サッチは力なく笑うことしかできなかった。




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