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まだ守られる君へ(後編)

ケガの手当ても終わり、部屋から出ることなく、マルコに言われた通り大人しく船の上で過ごしていた。
本当だったらエースとマルコと街を探索したり、買い物したり、美味しいものを食べていたのだが、今はそんな気分になれない。
今までと違った怒り方に、名前はどうしたらいいか解らない。
ちゃんと謝ったが、いつもみたいに笑って許してくれなかった。
胸が苦しく、夕食を食べることができず、ベットの上から動こうともしない。
昼間誘拐されたから疲れているんだろう。と、ナース達は名前をそっとしているのだが、名前自身は誘拐されたことより、マルコに怒られたことが怖いのだ。


「マルコさん…」


ナース達はお風呂へ向かい、今は誰もいない部屋。
ゆっくり起き上がり、マルコに買ってもらったチョッパーマン(等身大)の人形を抱きしめ、ベットから抜け出す。
夜は一人で出歩いてはいけない。と何度も言われているのを思い出し、開けた扉を一度閉める。


「……でも…」


もう一度、今度はちゃんと「一人で出歩いてごめんなさい」と謝りたい。
一人になって、何故怒られたのか、マルコに言われた言葉を思い出しながら一人で反省していた。
だから今度はちゃんと謝れる。
閉めたはずの扉をもう一度開け、廊下に誰もいないことを確認して静かに歩き出した。
キィキィと木の音が響くも、どこからか聞こえる宴会の声によってすぐに消される。


「……」


マルコの部屋の前までやってきた名前だったが、マルコが部屋にいるなんて解らない。
それに、また約束を破って部屋にやってきた自分を見たらどう思うだろうか。怒られるんじゃないか。
ノックする手は扉を叩くことなく宙を浮いている。
しかし早く謝ってこのモヤモヤした気持ちを取り除きたい。
明日になったら余計謝りにくい。それにマルコとエースと一緒に街へ遊びに行きたい!
それなのにノックするのを躊躇ってしまう。


『いつまでそうしてるつもりだい』
「っ!」


部屋にはマルコがいて、いくら経ってもノックしてこない名前に痺れを切らして声をかけてみた。
腕を組み、扉に寄りかかりながらいつもより少し冷たい声色で「名前」と名前を呼ぶと、名前は小さく震えた。
持ってきたチョッパーマンの人形を片手で握りしめ、もう片手は扉に当てる。


『夜は出たらダメだって言ったよな』
「ごめん、なさい…。あの、俺マルコさんに言うことがあって…」
『約束を破ってまで言うことなのかい?』
「あ…。でも、…言いたい…から…」
『明日じゃダメなのかい』
「明日…じゃ、ダメ、です…」


そこまで言うと、マルコは喋らなくなった。
怒っているのか、もう怒ってないのか、声色だけでは解らない。
マルコの顔は見たいが、扉を開ける勇気はまだない。
このまま謝っていいのか悩んでいる名前の扉向こうのマルコは必死に自分を抑えていた。
何をって勿論、扉を開けて名前を抱きしめて、「もう怒ってないよい」と言って頭を撫でて、部屋に連れ込んで抱きしめながら一緒に寝るのを。
しかし、今回ばかりは簡単に許してはいけない。
名前の命も、白ひげの命も守るためなのだから。
心を鬼にし、喋らない名前にイライラ(早く謝ってほしいから。謝ったらすぐに抱きしめる自信がある)しつつ、貧乏揺すりも始まった。


『用がねェなら早く帰れよい』
「……ひっ、一人で……出、て…!ごめんなさぁい…!」
『何で一人で出たらいけねェか、ちゃんと解ってんのかい?』
「俺、まだ…、弱い、っひく…から…!皆に迷惑か、け、…るし…っ。オヤジにも…!」
『仲間やオヤジだけじゃねェよい。名前も危ねェ。今日だって酷いケガしただろい。オヤジも悲しんでる』
「は、はい…!ごめんなさい…。もうしません。マルコさんと一緒に行動しますっ…!」


「よく言った!偉いぞ名前!」
とばかりに部屋の中でガッツポーズをするマルコ。
ちゃんと謝ることも、何で怒ったかということも理解できた名前にマルコは目頭が熱くなり、自分を落ちつかせてからゆっくり扉を開けた。
するとすぐに腹部に衝撃が走り、優しく名前の背中を叩いてあげる。


「ああもう泣くなよい。怒ってねェから」
「だ、だってェ…!マルコさんに嫌わ、れたら…ッ!」
「嫌ってねェよい。怒っただけだい」
「ごめんなさい…」
「だからもういいって」


そう言いながらも口元がどうしても緩んでしまう。


「ほら、もう謝ったんだから部屋に戻りな。明日は街に行こうな」
「うんっ…!」


抱きついたままマルコを見上げ、涙で汚れた顔で笑うと、マルコも名前に笑いかける。
マルコの笑顔を見てようやく安堵の息をつき、ゆっくりとマルコから離れてペコリと頭を下げる。


「おやすみなさい、マルコさん!」
「ああ、おやすみ」


元気よく手を振る名前に、片手をあげて答えると、また嬉しそうに笑って手を振った。
数歩歩いては振り返り、マルコに手を振る。それを何度か繰り返し、ようやく名前の姿が見えなくなる。


「これで当分の間は安心だな…」


当分の間自分にベッタリだろうし。と声に出すことなく、心で呟く。
部屋に戻り、明日に備えて早めの就寝。
明日から当分の間停泊するから、名前と何して遊ぼうか考えながら夢の中へと旅立った。





翌日。
早目に起きたマルコが食堂へ向かうと、イゾウと料理を作っているサッチがいた。
軽く挨拶をすませながらイゾウの横に座ってサッチに「水」と一言。


「……マルコ」
「何だよい」


イゾウも水を飲みながら顔を見ることなく話しかける。
その空気は少しだけ重たく、それを感じ取ったサッチは水を置いて二人から距離を取る。


「確かに昨日のマルコはよくやったと思う」
「そりゃどうも」
「よくやったって褒めるが、だからと言って頬を叩くのは関心しねェなァ…。名前ちゃん女の子だぞ?」
「い、いいんじゃね…?ほら、叩くのも躾の「サッチは黙ってろ」はい、すみません」
「もしケガでもしたらどうすんだ、ああ?!」


怒りで震える拳。今にもマルコに襲いかかろうとするイゾウに、サッチは声にならない悲鳴をあげてさらに距離を取った。
マルコは一度イゾウを見て、用意してもらった水を飲んでフッ…。と笑みを浮かべて余裕を見せる。


「責任は俺がとる」
「嫁にってか!?ふざけんな!」
「お前らどこまで本気なんだよ…」


過保護者二人が、末っ子にどこまで本気なのか全く解らないサッチだった。

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あきゅろす。
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