突然ですが、白ひげ海賊団にまた新しい家族が増えました。 エースと同じぐらいの年齢で、それなりに名をあげていた青年は白ひげの心意気に惚れこみ、是非入団させてほしいとクルーと一緒に頼みこむ。 マルコやジョズ、ビスタといった隊長達はそれなりに警戒をしていたが、エースやサッチは笑顔で彼らを招き入れた。 勿論船長である白ひげも歓迎している。 「今日から家族になった、ジークロンドウッス!」 船長だった青年の名はジークロンドウ。 いつかの彼みたいに長いので、エースとサッチが「今日からお前はジロウな!」とあだ名をつけた。 ジークロンドウ自身も「今日からジロウって呼んでほしいッス!」と受け入れた。 その日は新しい家族に宴が行われ、いつも以上に騒がしい夜を過ごしていった。 「ううっ…。飲みすぎたッス…」 明け方近くになり、甲板に雑魚寝する仲間達を危ない足取りで避けつつ、食堂へと向かったジロウ。 飲みすぎたせいで頭がガンガンと痛み、歩く振動だけで酷い激痛が襲ってくる。 何度も立ち止まり、落ちつかせて食堂へ水を取りに行く。 「うぷっ…」 しかし食堂間近のところで限界を迎えた。 今ここで吐き出せば近くで寝ている仲間にかけてしまう。 だけど我慢できそうにない。もう少しで食堂につくのに。 「あれ、どうかしましたか?」 そこへ高い声を持った少年がやってきた。 慣れた様子で仲間達を飛び越え、口を抑え、俯いているジロウに駆け寄る。 「もしかして気持ち悪いんですか?」 少しでも頷くと吐きそうになるが、なんとかゆっくり頷いて見せた。 すると少年はジロウから離れ、食堂へと入っていった。 見捨てられた?と思ったが、少年はすぐに戻ってきて、一つのバケツを差し出した。 「どうぞ吐いて下さい。あとお水です」 ニコッ。と海賊とは到底思えない優しい笑顔を浮かべ、バケツを地面に置いた。 安心したジロウはバケツに手をかけ、抑えていたものを全て吐きだす。 その間にも少年は背中をさすり、何度も「大丈夫ですか」などと声をかけていた。 「お水飲めますか?」 「……うん」 「はい、どうぞ」 コップ一杯に注がれた水を受け取り、少し口に含んでバケツに一度吐きだす。 綺麗になった口。今度は喉を動かし、冷たい水を胃に運んだ。 その間にも少年がバケツを食堂へ持っていき、冷蔵庫を漁ってまたジロウの横に座る。 「よかったらチョコレート食べますか?あとタオルもどうぞ」 どうやら少年は介抱し慣れているようだった。 素直にチョコとタオルを受け取り、お礼を言うと恥ずかしそうな笑みを浮かべる。 そこで疑問を抱いた。 今さっきから少年だと思っているのだが、どうもその単語が似合わない。どちらかというと、少女だと思う。 「君は…?」 「俺は名前です。えっと、ジークロンドウさんですよね」 「あれ?女の子なんスか?」 「はい、女です」 「ああ、やっぱり。なんかおかしいと思ったんスよ」 吐いて余裕が出てきたのか、笑ってみせると名前も笑顔を見せた。 「女の子が海賊船に乗るなんて珍しいッスね」 「色々あってオヤジ殿に助けてもらったんです。それからここが俺の家なんです」 「そうなんスか…。色々あったんスね」 「でも今すっごく幸せなんです。それにジークロンドウさんとも家族になれましたしね!」 ニッコリと笑う名前に、ドキリとするジークロンドウ。 女の子と聞いてから、そうとしか見れなくなった。 汚いのにわざわざ処理をしてくれた。背中もさすってくれた。笑顔も可愛い。 「名前、さん」 「呼び捨てで構いませんよ?」 「あ、本当ッスか?じゃあ…」 「どうぞどうぞ。で、どうかしましたか?」 「名前は…、その、可愛いッス、ね」 「へ!?」 いきなりの言葉に、素の声をもらしてしまった名前。 すぐに顔がピンクに染まり、視線をジークロンドウから反らして俯く。彼女の恥ずかしいです態度である。 それと同じく、まさかあれぐらいでそこまで照れると思ってなかったジークロンドウも顔をほんのり赤く染めた。 だけど口元が緩み、ニヤニヤと笑ってしまう。 「あ、あんまり俺にそんなこと言わないで下さい…」 「え…。何でッスか?」 「そういうの恥ずかしいんです…。それに、俺強くなりたいんです!」 彼女から今までのことを詳しく教えてもらった。 だけど、女だから強くなる必要ないし、それに男以上に強くなることなんて性別上無理だろう。 そう思ったが、キラキラと目を輝かせながら言ってくる名前を見て、何も言えなくなる。 そして、そんな真っすぐな名前がさらに可愛いと思ってしまった。 男というのは単純なもので。一度好きだと思うとその気持ちが突っ走ってしまう。 「名前、俺、家族が欲しいんス」 「俺達もう家族ですよ?」 「違うッス!もっと違う…。俺らのって意味ッス」 「俺ら…?」 「ようするに。名前、俺と「あー、ダメだってジロウ君」 「あ、サッチさん。おはようございます。珍しく早いですね」 「そりゃあお前、近くで危なっかしい発言されちゃあ起きるに決まってんだろ」 「危なっかしい?」 意を決して名前に告白しようとしたジークロンドウだったが、サッチに遮られてしまった。 欠伸しながら二人の間に入り込み、名前に水を一杯持ってくるよう頼んだ。 文句を言いながらも取りに行く名前を見送り、ジークロンドウに身体を向ける。 「ジロウ君、あの子はそういう目で見ちゃダメだって」 「ダメって…。もしかしてすでにそういう人がいるんスか?」 「いるっちゃいる。いないっちゃいねェ」 「どういう意味ッスか…」 「お前、当分の間名前を観察しろ。その意味がよォく解るから」 「観察、ッスか?」 「そう、観察だ。あのとき告白しなくてよかったってマジで思うからよ」 真剣な顔と声に押され、思わず頷いたジークロンドウ。 戻ってきた名前から水を貰い、サッチは名前を連れて食堂へと向かう。 残ったジークロンドウの頭の上にはハテナマークが飛び交い、この日から名前の観察日記が始まったのだった。 一日目。 特に変わった様子はない。変わらず可愛らしい笑顔でちょこちょこと動いている。 そんな名前を見たジークロンドウは、また口元を緩めた。 「おーい、ジロー。お前今さっきから何見てんだ?」 「あ、二番隊長。名前の観察日記つけてるんス」 「ハァ?」 「四番隊長さんに言われて観察してるんス」 「なに意味わかんねェことしてんだよ。つか観察するな!止めろ!」 「え?あ、でもッスねェ…」 「大体ジロウが名前を見る必要ねェ!新人は新人らしく掃除でもしてろ!」 「ちょ、ちょっと取りあげないで下さいよ!ああああ燃やさないでほしいッス!」 「うるせェ!こんなもんお前に必要ねェんだよ!」 二日目。 エースに燃やされ、また新しくつけることになった。初日でよかったと胸をなで下ろす。 名前に変わった様子はない。今日はエースとサッチに遊ばれているみたいだ。 泣きそうな顔を見たジークロンドウは「可哀想に」と心を痛める。 助けに行こうとしたが、隣に誰かが座った。 「なージロー。お前今さっきから何してたんだァ?」 「十二番隊長。名前の観察日記つけてるんスよ」 「名前のー?それって意味あんのかァ?」 「四番隊長に言われて…。それより名前が泣きそうなんスけど、助けに行ってきますね!」 「ああ、あれじゃれ合ってるだけだから気にすんなー」 「でも本当に泣きそうッスよ?それに、女の子にあんな乱暴はよくないッス」 「んー…。お前ちょっと危険だなァ…」 「俺が、ッスか?」 「言っとくが名前は渡さねェからなァ」 「……あの、それは「あとこれお前に必要ねェし切り刻んでやる」 三日目。 ハルタに切り刻まれ、また新しくつけることにした。二日目でよかった。 名前に変わった様子は見られない。今日はマルコの胸の前に座って一緒に新聞を読んでいた。 正直にマルコが羨ましいと思ったジークロンドウ。そしてちょっと嫉妬してしまった。 邪魔をしに行こうとノートを閉じ、立ち上がった瞬間、ズガン!と銃声が聞こえ、甲板を見ると小さな穴が一つ、硝煙をあげて開いていた。 「じゅ、十六番隊長…?」 「おいテメェ。そのノート見せろ」 「こ、これは別に大したこと書いてないッスけど…?」 「テメェにとっては大したことねェんだろうが、俺にとっては重大だ」 「……名前の観察日記ですよ?」 「アアン!?名前ちゃんを呼び捨てにしようなんざ百億年早ェんだよ小童が!つーか観察日記とかふざけたもんつけてんじゃねェよ!誰に、いつ断ってつけていいって言った?名前ちゃんを色眼鏡で見るな解ったか!」 四日目。 イゾウの脅しと同時に弾丸を全身で浴びたノートは使い物にならず、また新しくつけることにした。正直、もう怖い。しかし頑張ってつける。 名前に変わった様子は見られない。今日はビスタと一緒にお絵かきをしているみたいだ。 一生懸命描(えが)き、それをビスタに見せては喜ぶ名前はとても可愛く、思わず抱きしめてあげたくなる。 昨日は怖かったが、やっぱり名前が好きだ。それに観察日記をつけて名前のいいところばかり目についてしまい、余計好きになってしまう。 そうか、四番隊長はそれを解らせるために観察日記をつけろと言ったのか。 一人で納得し、一人になった名前に今度こそ告白しようと一歩踏み出した瞬間、何かとぶつかってしまった。 「……一番、隊長…」 いつもと変わらない表情で腕を組み、目だけでジークロンドウを見るマルコと、表情は普通だが、纏っているオーラがとても怖く、思わず後ずさってしまったジークロンドウ。 「名前に好意を寄せてるってな?」 「え……何で、知ってるんスか…?」 「見れば解るよい」 「いや、なんか可愛くて…。笑顔がよく似合うし、気配り上手だし…。今まで出会ってきた女性の中で一番好きッス」 マルコは怖いが、気持ちは真剣なジークロンドウ。 しっかりとした目でマルコを見つめ、気持ちを伝えるも、マルコは一度目を伏せゆっくりと開ける。 「ッ…!」 と同時に凄まじい覇気がジークロンドウを襲った。 息をさせるつもりない覇気だったが、伊達に名をあげていた船長ではない。 「お前がそんなこと言わなくとも、全部知ってるよい」 「……」 「機嫌が悪いと不安そうに「俺何かしましたか?」って聞いてくる姿なんて見たことねェだろい。超可愛い。気分もよくなるってんだい。ビクビクする姿も可愛いが、やっぱり笑顔で名前を呼んでくれるとこが一番だな。あれだけで「エースのぐしゃぐしゃ報告書も頑張って解読しよう」って気になれる。どんだけすげェんだよい、名前は…!」 「あの、一番たいちょ「気配り上手すぎて時々疲れてるのを見ると抱きしめてあげたくなるのをこっちは必死で抑えてんだい。それなのにテメェは…テメェだけは許さねェ…。軽々しく一番好きだとか抜かしてんじゃねェよい!」 「俺マジ「それとも身体に解らせてやろうかい?ああ、そっちのほうが話し合いをするより解りやすいな。勿論ここのルールってもんも教えてやるからそのノート、名前の部分は俺によこしてメモとして使え」 「名前の部分は別に「いいから黙って千切って渡せ。身の為だよい」 最後はニコリと笑って手を差し伸ばすマルコ。 せっかくつけたのに、最後のノートなのに…。と躊躇うジークロンドウだったが、マルコに覇気に結局負け、名前の観察日記のみ渡す。 「さて、これで名前(を観察した日記)の保護はできた」 千切った紙を胸ポケットにいれ、今さっきの笑顔のまま、 「覚悟はできてんだろうな?」 死刑より辛い時間を言い渡したのだった。 [*前へ][次へ#] |