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お姫様と王子様?

「ハルタさんって何なんですかね?」
「何言ってんだァ?」


エースさんは報告書を書くため部屋にこもり、マルコさんは近くにあるという島へ偵察へむかい、イゾウさんとビスタさんは昨日嵐あったため、船に異常がないか隊員さん達と一緒に見回っている。
サッチさんは夕食の準備をしているので、私はハルタさんと一緒にお昼寝をしていた。
隣同士で横になり、他愛もない会話をしていると次第に重たくなる瞼。
一度目をこすったけど眠気に勝てそうになかったので「ハルタさん、俺寝ます」そう言って眠りにつこうとした。
目を瞑り、さあ寝るぞ。というとき、ふと眠りとは関係のないことを考えた。

マルコさんはとても優しい人で、オヤジ殿の次に頼りになる人。
エースさんは意地悪だけど優しくて、そして一緒に遊んでくれるいいお兄ちゃん。
サッチさんはー…んっと、虐めてくるし、酷いことばっかするけど、料理を教えてくれる人。
イゾウさんも頼りになる人。とっても優しいし、笑顔綺麗だし、信頼できる人。
ビスタさんは絵が上手。花を育てるのも上手だし、剣の腕前も凄い人。

じゃあハルタさんは?

そう思ったときには眠気はすっかり覚め、目を瞑ったまま悶々と考えていた。
そして自然と出た言葉があれ。
ハルタさんは私に向き直り、上半身だけ起こして鼻を摘まんだ。苦しい!


「何するんですか!」
「お前が意味わかんねェこと言ってるからだろー?」
「……すみません」
「で、俺がどうかしたかー?」


こういうことって言わないほうがいいと思うんだよね。
だから黙っているとハルタさんは眉を八の字に、口をへの字にして気に食わないと言った態度をとる。
苦笑して誤魔化したけど、両頬をつねられ、怒られた。


「気になるだろォ!」
「た、大したことじゃないんです」
「でも気になる」
「……怒りませんか?」
「おー」


私も上半身だけ起こし、一度視線を落とし、意を決して疑問に思っていたことをハルタさん自身に言ってみた。


「ハルタさんはいいお兄ちゃんだけど、なんか……」
「なんか?」
「……そ、それだけ…かな?って…」
「……」


いいお兄ちゃんなのは確か。
エースさんに比べて意地悪しないし(いや、まァ少しはしてくるけど)、だからと言ってマルコさん達みたいに頼ることがない。
修行だって時々教えてくれる程度だけど、銃と剣じゃあんまり教えてもらうことない、し?
たどたどしく喋っている間はずっと黙って聞いていたけど、喋り終わると胸の前で腕を組んで「んー…」と頭を捻った。


「ごめんなさい、ハルタさん…。気を悪くしましたよね…」
「んー?いやー…なんて言うかさー…」


苦笑い混じりに私を見る。
少しだけ寂しそうに見えたのは、私がハルタさん対して罪悪感を持っているから?


「そうだなーって思ってた。俺、マルコやエース達ほど名前に関わってなかったなーってよォ」
「そんなことないですよ!」
「そりゃあ隊員達に比べたら多いけど、マルコ達に比べたら全然だろー?」
「うっ…。で、でも俺はハルタさんが好きですよ!?」
「おー、勿論俺も名前のこと好きだぞォ!」


ポンポンと肩を叩いて笑ってくれるハルタさんに、ホッと息をつく。
よかった、怒ってないし嫌われてない…。


「よーし、じゃあ俺も名前と関わってみっかー!」
「え?」
「名前の中に俺の位置づけをしとこうってことさー」


手を使わず立ち上がり、私に手を差し出す。
私は意味も解らず出された手を握り、歩き出すハルタさんの後ろをついていく。
ついた場所はいつも修行する、そう遠くない場所だった。


「今日は名前の修行に手伝ってやるからどんどんかかってこーい!」
「わ、解りました!」


とりあえず修行を始めたものの、いつものように銃と剣を交えて一戦行い、そのあとハルタさんから指導を受ける。
もう一度言われた場所を気をつけつつ再び一戦し、ほどよく汗をかいたところでその場に座って休憩を取った。
………いつも通りだ。


「んー…なんか違うよなァ…」
「そうですね、いつもと変わりませんね…」
「じゃあ次は絵でも描くかー」


一度部屋に戻り、ビスタさんに買ってもらったスケッチブックと色鉛筆を持って甲板に寝転ぶ。
テーマを決めて私とハルタさんがそれを描き、そのあとどっちがいいか仲間達に決めてもらう。
最初は楽しかったけど、それもすぐに飽きてしまった。
せっかく二人でいるのに絵を描くことに夢中で、会話は止まるし、ハルタさんはあんまり絵に興味がないことが判明した。


「俺どっちかって言うとモデルになる側なんだよなー」
「それもすぐ飽きそうですね」
「同じポーズってのは嫌いだなー」


寝転んで空を仰ぐハルタさんの横で、散らかった絵や色鉛筆を元に戻す。
無駄だったとかって思うことはないけど、ハルタさんとこうやって遊ぶのはなんか違う…。多分エースさんとも違う。
やっぱり身体を動かして遊んだほうがいいのかな?


「ハルタさんハルタさん」
「んー?」
「鬼ごっことかしませんか?」
「別にいいけどよォ…。二人ってのは楽しくねェなァ…」
「じゃあ隠れんぼ!」
「だから二人じゃ楽しくねェって」
「うーん、じゃあどうしよう…」
「俺ってやっぱ普通だよなー…」


ボソリと呟いて背中を向けるハルタさんに、胸が痛んだ。
やっぱり私の言葉気にしてたんだ…。

そんなことない。ハルタさんはすっごく優しくて、笑顔がよく似合ってて、時々虐めてくるけど、エースさんと違ってどこか優しい。
一緒にいるだけでのんびりした気分になれる。私はそんなハルタさんが大好きだ。


「ありがとなァ、名前」


とは言っても、ハルタさんはいつものように笑ってくれなかった。
ごめんなさいハルタさん。あんなこと言わなければよかった…。
涙が出そうになったのを、空を見てなんとか出ないよう耐える。
見張り台にあるオヤジ殿のマークが風になびいて揺れているのが目に入り、「ハルタさん」と呼んだ。


「マスト!」
「マストがどうかしたかー?」
「見張り台行きたい!」


マルコさんに危ないからマストをのぼり、見張り台に行ってはいけないと何度も注意を受けた。
それはきっと私の動きが危なっかしいからだ。
だけどハルタさんと一緒に行けばきっと大丈夫!だってハルタさんは空を飛ぶ剣士なんだから!


「だから見張り台に連れてって下さい!」


マルコさんに頼んでも絶対に許してくれない。
エースさんに頼んでも途中で寝たり、見張り台で寝られたらきっと降りられない。
サッチさんだったら「面倒くせェ」って言われそう。
ビスタさんとイゾウさんもマルコさんと同じことを言うだろう。


「それに比べ、ハルタさんはちゃんと連れてってくれるし、安心できます!」
「……名前がそう言うなら…。連れてってやるぞー!」
「ありがとうございます!」


急いで起き上がり、周囲を確認してマストに手をかける。
ハルタさんに先にあがってもらい、あとから私がのぼることになった。
高いところは怖くないけど、不安定なロープや時々風が吹いて揺れるので怖かった。
だけど、そのたびにハルタさんが手を掴んで「大丈夫かー?」と声をかけてくれる。
そのおかげで落ちることもなく、不安になることもなく見張り台へと到着!


「うわー…すっごく高い…!」
「海が見渡せて気持ちいいよなァ」
「なんか私だけの海って感じがしますね!」
「だなー!でっけェ気持ちになれる!」


あまりの高さで足は震えていたけど、それ以上にそこから見る景色が凄く綺麗だった。
視界は開け、まるで鳥になった気分だ。
ハルタさんの言う通り、気が大きくなって今なら何でもできそうな気がする!
それに悩みなんてあっという間に吹き飛んでしまいそうだ。


「大丈夫かー?足震えてんぞー?」
「だ、大丈夫です。慣れないからちょっと怖いだけです」
「最初は怖いけど、慣れたら楽しいぞォ!」
「じゃあまた連れてきて下さいね。ハルタさんとじゃないと絶対にここに来れないです」
「おー、名前をここに連れてくるのは俺の役目なー」


ニィッと歯を見せ、見張り台の上で二人して笑った。
その時、障害物も何もない見張り台に強い風が吹き、身体が宙に浮いた。
と思ったら、青い空が眼前に広がり、空から離れて行くのが解った。
その時は全く理解できなかったけど、この時私は見張り台から甲板へと落ちて行っていたのだ。


「名前ッー!」


頭は解ってなかったけど、身体は解っていて、手を空へと伸ばしていた。
だけど掴むものなく、ただ重量に逆らうことなく落ちていっていたが、ハルタさんの強い声に意識がハッキリした。
恐怖で声が出なかったが、「ハルタさん!」とだけは言えたのを覚えている。
ハルタさんは見張り台を飛び出し、私を追いかけ一緒に落ちる。
さすが飛ぶ剣士。あっという間に先に落ちたはずの私に追い付き、ギュッと抱きしめてくれた。
私もハルタさんに力強く抱きつき、目を閉じて全てをハルタさんに委ねた。


「名前ー」
「……」
「名前ー、もう大丈夫だぞォ」
「…ハ、ルタさん…」


もしかして死んだかも!と思っていたが、強い衝撃はほぼなく、痛みも感じない。
ハルタさんに名前を呼ばれ、恐る恐る目を開けるとハルタさんの顔が近くにあって、それに驚いた。
見上げるように見ている体勢に疑問を思い、今の状況を確認すると、なんとお姫様抱っこをされているではないか!
今度は恥ずかしくなって声が出ないでいると、再び名前を呼ばれた。


「どうしたー?もしかしてどっか打ったかー?受け身はちゃんととったぞォ?」
「…ち、違います…。あの、この体勢にちょっと…」
「んー?立てるのかー?」
「た、立てます。立てますから下ろして…!」


と言ったものの、腰が抜けててその場に座り込んでしまった。
すぐにハルタさんが心配してくれたけど、今はちょっと顔が見れない…!
あんなナチュラルにお姫様抱っこする人…、いるんだッ…。


「んー…やっぱ名前にはまだ早かったかもなー…」
「い、いえっ。あれは少し油断してて…。次からは大丈夫です!」
「でもゴメンなー?次は俺も気をつけるからまた行こうなァ」
「はい」


………何だろう。
ハルタさんは皆と違う。いや、最初からそう言ってるけど。


「……王子様?」
「おうじィ?」


それだ!その言葉がピッタリだ!


「俺が名前の王子ってかァ?」
「え?あ、いや、その言葉が「名前の王子かー、それもいいなー!」


ニコニコと笑い、私を無理やり立たせるハルタさん。
何をされるかと思ったら、またお姫様抱っこをされた!


「ハッ、ハルタさん!?」
「お姫様抱っこするのも俺だけなー?」
「何言ってるんですか!ちょっと、下ろして下さい!」
「だって俺王子なんだろー?じゃあ気にすんなって!」


上機嫌なハルタさんに何を言っても通じず、偵察に行ったマルコさんが返ってくるまでモビー・ディックをお姫様抱っこしたまま一周したハルタさん。
恥ずかしかったけど、ハルタさんに笑顔が戻ってよかった…。


「名前ー、また明日もやろうなー」
「絶対しません!」


だけどあんな恥ずかしいこと、もうしてほしくない!




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