[通常モード] [URL送信]
ごめんなさいのあとは

「……」
「「「…」」」


背中に鬼を背負っているマルコが腕を組み、目の前で正座している悪戯三人組を睨みつけていた。
エース、ハルタ、名前と背の順に並んでマルコからのプレッシャーをひしひしと身体で浴びている。


「イゾウ、あいつら何かしたのか?」
「ああ…ちょっとな…」


さっきまで夕食の準備をしていたサッチが甲板にやってくると、珍しい光景が広がっていて、ハテナマークを飛ばしながら苦笑いしていたイゾウの元へと近づく。
イゾウから三人がしでかしたことを聞いたサッチは、イゾウ同様苦笑いを浮かべることしかできなかった。


「もう一度聞く…。誰が壊した?」


マルコの地を這うような低い声にビクリと震える三人。


「エースが興味あるからって触ったんだよォ!」
「俺じゃねェぞ!名前が適当に触ったからこうなったんだ!」
「ち、違います!ハルタさんとエースさんが面白そうだからって…!」
「あーテメェ人のせいにする気かよー!」
「ハルタだって俺のせいにしてるじゃねェか!」
「エースさんは嘘つきです!」
「黙れ」
「「「はい…」」」


右足で甲板を力強く踏みしめ、ダン!と音をたてる。
またビクリと震える三人は静かに口を閉じた。
三人が何をしたかと言うと、


「テメェらは親父を殺したいのかい?」
「違うぞォ!」
「違ェ!」
「違います!」
「だったら何で機械を壊しやがったんだい!」


親父の健康を維持するための機械や、健康状態を見るのに大切な機械を壊したというのだ。
白ひげ本人や、ナースさん達はそこまで怒ってないものの、一番隊隊長マルコがそれを許さなかった。
エースやハルタの毎日の悪戯で限界をきていたマルコは激怒し、可愛がっている名前まで正座させている。
怒られるのに慣れてるエースやハルタだったが、今日だけはさすがに怯えている。なんたって一番隊長様だ。彼の本気は怖い。
名前はというと、初めてみたマルコの激怒ぶりに涙まで流している。
名前の涙を見るとすぐに許してくれるマルコだが、今日だけは違う。
そんな珍しいマルコにイゾウとサッチは顔を見合わせる。


「心境の変化か?」
「まさか。マルコの指をじっくり見てみろよ」
「は?……あ、自分の腕をつねってやがる」
「今日のマルコは一味違うな」


名前を怒ることなんて絶対にしたくないイゾウは「頑張れマルコ」と心の中で応援するだけで、高みの見物をしている。
サッチはまた笑って、イゾウと一緒に高みの見物。
回りでは「何分でマルコが名前を許すか」などの賭けが始まっていた。


「人のせいにする前に言うことがあるだろい」
「「「ごめんなさい」」」
「親父とナース達に謝ってこい。が、その前に当分の間そこで反省してろい」


冷たい目で言い放つだけ言い放ったマルコは三人に背中を向け、食堂へと入って行った。
名前が謝ったからすぐに許してあげると思っていた仲間達は唖然とした表情でマルコを見送る。
勿論イゾウとサッチも驚き、


「どうしたんだ?」
「やっぱり今日のマルコは一味違うな」


と呟く。
残された三人はマルコに言われた通り正座したまま。
そろそろ足が痺れてきたエースとハルタはプルプルと震えていたが、正座を解くとマルコに今度こそ殴られるので黙って耐えている。
それとは違う意味でプルプル震えている名前。
大好きなマルコに怒られたことと、自分が大変なことをしてしまったことに気がついた名前は酷い罪悪感に襲われている。
そしていつの間にか声を出しながら泣いていた。


「おい名前、泣くなよ」
「だ、だって…!親父殿死んじゃう…!俺、酷いこと…!」
「親父があれぐらいで死ぬわけねェだろァ?……だよな、エース」
「おう、死ぬわけがねェよ!……だ、だから泣くなって、な?」
「マウ、マルコ…さんに怒られた…!っひく、ううう…ッ。ごめんなさいしたのに許して…、くれ、ないっ…!」


うわああん!と盛大に泣きだした名前に、慌てるハルタとエース。
回りも「おい、誰か泣きやましてこいよ」オーラが漂っている。
しかしサッチだけは「それも躾だ」と言わんばかりに笑っており、何も言わず三人を眺めていた。


「ガキだねェ、名前もエース達も。なァイゾ……あの、イゾウさん?」
「マルコ探してくらァ」
「探すのに銃は必要なくね!?」


銃を握り、食堂へ向かう怖い顔をしたイゾウ。
それを追うサッチだったが、止める勇気はない。


「名前ちゃんがちゃんと謝ったって言うのに何考えてやがるあの野郎ッ…」
「ま、まァいいじゃねェか。これも躾だって」
「躾だろうが名前ちゃんを泣かせる奴は俺が許さねェよ。俺ァ褒めて伸ばすタイプだ」
「お前の場合は甘やかせすぎなんだよ!」
「マルコォ、命(たま)よこせや!」
「趣旨が変わってるから!」


イゾウとサッチが食堂に入ると、マルコが影を背負ってイスに座っているのが目に入った。
机に肘をつき、頭を抱えているマルコは独り言を呟いている。
こんな様子になったマルコなんて今まで見たことないから、心配したサッチが彼に近づき「マルコ?」と声をかける。


「最悪だよい…。名前を叱りつけちまった…」
「お前まで凹んでんのかよ!」


名前を怒った自分自身を責めている途中だった。


「でもあれだけはやっちゃあいけねェんだい…」
「そ、そうだな。お前は間違ってねェよ。だから元気だせって」
「サッチ…」
「それでも名前ちゃんを泣かせてるのは許されねェけどな」
「名前ッ…!」
「ちょっと黙ってろよイゾウ!」


サッチがマルコを元気づけようと声をかけ、少しだけ元気になったマルコだったが、イゾウの言葉でまたさらに凹んでしまった。
聞けよ。と言わんばかりに甲板に出る扉を親指で指し示し、「名前ちゃん、ずっと泣いてる」と止めを刺す。


「イゾウさん!お前マルコに恨みでもあんの!?」
「言ったはずだ。名前ちゃんを泣かせた罪は重い」
「重すぎるよ!」


マルコに怒られた!と声を出しながら泣き続ける名前と、名前を叱りつけたことに凹んでいるマルコを見て、「こいつら似たもの親子だよ!」とサッチがツッコミを入れた。

結局、マルコが一時間もしないうちに三人組を正座地獄から解き放ち、白ひげとナースの元に連れて行き、ちゃんと謝罪をさせる。
元々怒ってなかっただけにあっさりと許してもらい、三人はようやく笑顔を見せる。
しかし、名前とマルコの間には奇妙な空気ができあがってしまい、お互い謝りたいのにモジモジとしてしまい、何も言葉を交わすことなく沈黙が続いている。
それを見てやっぱりサッチが、


「お前ら似たもの親子だよ」


と突っ込んだのだった。

[*前へ][次へ#]

あきゅろす。
無料HPエムペ!