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裸のお付き合い

「俺も一緒に入りたいです」


末っ子の発言に、食堂は一斉に静まった。

外も暗くなり、夕食も済ませた隊長達はいつものようにお風呂へと向かった。
隊員達の中には二日に一回や、三日に一回しか入らない奴もいるが、隊長達は何故か全員毎日入っている。
その間名前は二番隊や四番隊の隊員達と談笑をし、隊長達に「おやすみなさい」を言うのを待っていた。
しかし今日は珍しく上がってくるのが遅かった隊長達。
隊員達と首を傾げていたら、エースとサッチがギャアギャアと騒ぎながら帰ってきた。


「お帰りなさい。今日は遅かったですね」


と隊長達に近づく名前だったが、エースとサッチは気づかず、「覚えてろよエース!」「さァな」とまだ騒ぎ続けている。
その後ろから疲れた様子のマルコやイゾウがやって来て、不思議そうな顔をしていた名前の頭をポンポンと叩く。


「どうしたんですか?何かあったんですか?」
「聞いてくれよ名前!エースの奴がな!」


エースやマルコなどの能力者はお風呂に入ると力が抜けてしまう。
だからいつもサッチやイゾウ、ハルタなどのオモチャとなる。
今日はサッチに湯船に沈められ、怒ったエースが炎で湯を熱湯へと変えてしまった。
だけどそれだけでなく、サッチはハルタにタワシで背中をこすられたり、石鹸でエースとハルタが遊び出したり、イゾウが怒って桶を股間に投げつけたり…。
ともかく今日はよくはしゃいでしまったのだ。


「そう…、だったんですか…」
「ゆっくり風呂にも入れねェよい」


サッチの愚痴を聞いた名前は、何だか元気のない様子でマルコの横に座る。
マルコはコップに注いだ水を飲み、疲れた様子で椅子に座った。


「ハルター!お前のせいでまだ背中痛いんですけど!」
「オッサンんを労わってやったんだろー。感謝しろよなァ!」


サッチやエース、ハルタはまだ騒いでおり、それに混じって隊員達もまた騒ぎだす。


「……」


それを見ながら名前は口をとがらせた。
宙に浮いた足をプラプラさせながら、チラリとマルコを見上げる。
視線に気づいたマルコが「どうした?」と首を傾げると、名前は「俺も、」とゆっくり喋り出した。


「俺も一緒に入りたいです」


冒頭のセリフである。
名前の言葉にマルコが「またか」と言うような顔で言葉を詰まらせた。
喋らないマルコに名前はさらに大きな声で言うと、食堂は静かになった。
視線も二人に集中している。


「俺も一緒に入って、エースさんやハルタさんと遊びたいし、マルコさんやイゾウさん、ビスタさんの背中を流してあげたい!」


そう言ってマルコに詰め寄ると、マルコは困った顔でイゾウに視線を向ける。
イゾウもビスタも、名前に背中を流してもらえるのは嬉しいが、一緒に入るのは抵抗があるみたいで、苦笑いを浮かべていた。


「マルコさん、俺も一緒に入っていいですか?」


食い気味で聞くが、「あー」や「そうだな」などの曖昧な言葉で濁すマルコ。

そりゃあ背中を流してもらえるのは嬉しい。きっと誰だって嬉しいはず。
しかし、しかしである。
最近大きくなってきた(主に胸とか)名前と一緒に入るのには抵抗がある。
何せ女がいない海での生活で、唯一の女は大事な妹だ。(ナースさん達はまた別の話である)
微妙な心境であるのには違いない。
それは隊長達だけでなく、近くにいた隊員達も「ちょっとなァ…」と困った顔でマルコと名前を見ていた。


「……俺だけ仲間外れだ…」


そんな男達の思いは一切無視をして、名前は眉をしかめ俯く。
彼女は始終誰かといるのを好み、仲間外れにされるのを嫌う。
隠し事されると泣きそうになるし、今みたいに仲間外れ(ではないのだが)にされるのが大嫌い。
しかし自分の発言にマルコやイゾウ達が困っているのも解っている。
人を困らせるもの嫌いだから、「ダメだ」と言われると大人しくそれに従うまで。
しゅんとなるその様子はまるで叱られた子犬のようで、いつもマルコやイゾウ達の心を痛める。(親バカなので)


「おー、いいんじゃね?」


そんなの関係ないのが、空気が読めるのか読めないのか、はたまたただのバカなのか、四番隊隊長のサッチさん。


「まー…タオルとか巻けばどうにかなるんじゃね?」


それに便乗するのが、天然エースくん。
若干恥ずかしそうだが、名前と遊ぶのが大好きな優しい兄。


「ほんとですか!?じゃあ一緒に「だ、ダメだよ名前ちゃん!」
「名前、名前はナース達と一緒に入ってるだろい?別に俺達と一緒に入らなくてもいいじゃねェか」


喜ぶ名前に焦って口を挟む親バカ二人。
その後ろではビスタがサッチとエースを叱っていた。


「でも!俺も一緒にマルコさん達と入って喋りたいし、背中も流してあげたいんです!」
「そりゃあ嬉しいけど、でも名前ちゃんは女の子でしょ?どうやって入るの?」
「タオル巻けば大丈夫です。それに最初のころはタンクトップを着て入ってました!」
「昔は昔だい。今の名前とは入れねェよい」
「なんでですか!ちゃんとタオル巻けば平気です!」


どうしても一緒に入りたい末っ子は、優しく諭すマルコとイゾウに必死に噛みつく。


「一緒に流しっことかしてみたいです!俺、いつもお姉ちゃん達にしてるからうまいんですよ!」


身体は成長しても、心はお子様な名前に何人かが溜息を吐いた。
ここまできてはもはや止めることはできない。
イゾウとマルコは顔を見合わせ、静かに頷いた。


「解った。じゃあ明日一緒に入ろうな」
「やったー!」
「その代わり、入るときと上がるとかは別々だからね」
「何でですか?」
「名前ちゃん、裸見られたいの?」
「あ、そ、そっか…!解りました!エースさん、サッチさん、背中流しっこしましょうね!」


嬉しそうに二人の元へ駆け寄っていく名前を見て、誰よりも重たい溜息を吐いたイゾウとマルコだった。

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あきゅろす。
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