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保護者達の憂鬱。

「んー…眠い…」
「少し寝るか?」
「でもまだ甲板掃除残ってますし…」
「じゃあもうちょっと頑張ろうぜ」
「はーい。……エースさん、あとから一緒に寝ましょうね」
「おう!」


眠たい目をこすりながら名前はデッキブラシを握る手に再度力をこめた。
今日は昨日の天候から打って変わり、晴天を迎えることができた。
大波で汚れた甲板を、二番隊の隊員達とエースと名前で大掃除を始めたのだったが、名前は睡魔に襲われ途中で何度も転び、そのたびに額を赤く染めていった。

最近の名前はどうやら寝不足らしい。
隣で睡魔と格闘しながらゴシゴシとデッキブラシを動かす名前を見て、エースは考える。


「(なんか面白いもんでも見つけたのか?)」


夕食を食べ終わるとすぐに食堂を飛び出し、部屋にこもる。
マルコがいくら「新聞読んでやろうか?」と誘っても、エースやサッチが遊びに誘っても名前は断り続けている。
どうやらそれは自分達だけではなく、ナースのお姉さま方もだった。
夜になるとナースの目を盗んで部屋を飛び出す。
夜中になるとちゃんと帰ってくるからあまり言わないらしいが、ちょっと心配なのよねと言っているをこの間耳に挟んだ。


「うー、あー…」
「おい、こけんなよ」
「もうちょっと、もうちょっとなんです…」
「名前〜」
「あ、ハルタさんだ!」


それまで眠たそうな顔だったのに、ハルタが名前を呼ぶと途端に明るい笑顔をハルタに向けた。
最近仲のいい二人。
ちょっと前までその中には自分もいたはず。と、あまりいい気分にはならないエース。


「眠たそうな顔したぞ〜?」
「眠いです…」
「んー、俺も〜。それが終わったらちょっと昼寝しようぜー。いい天気だしなー」
「はいっ」
「ちょっと待った!」
「エースさん?」
「名前、お前は俺と昼寝するっつったじゃねェか」
「あ…。そうでした。じゃあ三人で昼寝しましょうよ!」
「だなー。エース、枕になってくれよー」
「ダメだ。俺は名前と寝る約束はしたが、お前とはしてねェ。枕になるつもりもねェ」
「んだよそれー。別にいいだろォ?」
「そうですよ。一緒に寝たほうがきっと気持ちいいですよ?」
「なんだ名前。約束を破る気か?」
「や、破りはしませんけど…。でもハルタさんと一緒に寝るぐらい…」
「そうだそうだー!仲間外れはダメだって親父も言っただろー!」
「じゃあ好きにしろよ。名前、当分俺に近づくなよ」
「え?…な、何でそんな…」
「うわ、エースだっせェ。ほっとこうぜ名前」
「でも…」
「いいからいいからー」


今まで名前にベッタリじゃなかったくせに。と心の中でハルタに悪態をつくエース。
イライラが募って、言いたくなかったことを言って名前を傷つけてしまった。
エースの態度にハルタは全く気にしていないが、名前を傷つけたことが許せないのかエースを鋭く睨んでいた。
困惑する名前の背中に手をそえ、その場から離れる。
残ったエースは顔を歪め、乱暴にデッキブラシを投げ捨てた。
隊員達はそんなエースに近づこうとせず、その日は珍しく静かな一日を過ごしたのだった。


「マルコ、名前とハルタをちゃんと教育するべきだ!」
「珍しくお前がまともなこと言うなんてな…」
「だってあいつら酷いんだぞ!」


泣きながら名前の保護者で、隊長達をまとめる一番隊長に今まで溜まっていた愚痴をこぼした。
自分がああ言ったせいもあるが、あれから名前が一度も近寄って来ない。
毎日毎日ハルタと何か楽しそうに話してるし、名前の添い寝をするのが自分の役割だったのにそれすらも奪われてしまった。
さすが過保護予備軍であり、兄バカのエース。


「マルコォ!」
「うるせェよい。名前がどうしようといいだろい」


マルコに言えばどうにかなると思っていたが、マルコは素知らぬ顔で新聞に目を落とした。
勿論疑問を抱くエース。何せ名前の一番の過保護者であり、親バカだ。


「……マルコ、名前に何か言われたのか?」
「…」


エースの言葉に明らかに不機嫌オーラを漂わした。
それと同時に背中から哀愁もにじみ出ている。


「何て言われたんだ?」
「……。ハルタと何してんだいって聞くと…」


マルコも名前とハルタの仲の良さに疑問を抱いていた。
別に仲がいいのは構わないが、それに比例して自分達にひっつく割合が明らかに減った。
それが寂しい親バカは名前だけを呼んで事情を聞いてみたというのだ。
返事は「何でもないです」の素っ気ない一言。
何でもないわけがなく、しつこく聞いていると、


「「何でもないです!当分の間近寄らないで下さい!」って言われた」
「あー……そりゃあ災難だったな」
「うるせェよい」


だからこんなにも大人しいのか。
妙に納得してしまったエース。


「ともかく、名前にあんま関わるな」
「でもよォ…」
「名前離れしろい」
「マルコに言われたくねェよ!名前バカ!」


子供のように拗ねた顔をしてマルコの部屋から飛び出したエースに、マルコは溜息を吐いて頭をかいた。
どうも最近調子が狂う。ボーっとしている時間も増えた。
きっと平和が続いているからだ。
そう思っていたが、答えは違う。名前が近くにいないからだ。
確かにサッチやエースから名前を守るのは体力を使う。
名前の発言にハラハラしたり、冷や汗をかいたりするのもしんどい。
だけどダメだ。落ちつかない。頭を撫でると嬉しそうに笑う顔も当分見ていない。


「エースの言う通りだな」


また溜息を吐いて自嘲する。
もしかして名前はハルタが好きなのではないか。
歳も近いし、そうなってもおかしくない。名前もいい子だしな。
と、悪い予感が浮かび上がる。


「………イゾウに相談するか…」


イゾウはハルタと仲がいい。名前とも仲がいい。
何か事情を知ってるかもしれないと、立ち上がって部屋へ向かう。


「マルコが俺の部屋に来るなんて珍しいな。報告書は出したぞ」
「いや、名前のことで…」
「ああ、俺もちょっとお前に聞きたいことがあったんだ」


煙管(きせる)を口に咥えたままマルコを部屋に入れる。
イゾウの部屋はちょっと異色で、ベットもハンモックもない。
イゾウの出身であるワノ国をイメージして改造された部屋。
地面に座り、「で?」と煙を吐くイゾウに、マルコは名前とハルタのことを聞いてみた。


「俺も思ってたんだよな…。どうも最近になって怪しい」
「イゾウも思ってたんだな」
「まァな」


ところで、どうでもいい話だが、イゾウの口調はよく変わる。
名前の前だと温厚で柔らかい女性のような口調。
マルコや他の仲間達だとその容姿に似付かない口調で喋る。
キレたらそれはもう恐ろしく、親父以外に彼を止める勇者などいない。


「でも名前ちゃんに嫌われたらお終いだからな。黙って見守ってるよ」
「だがなァ…。名前とハルタがって考えたら…」
「ああ、それはねェだろ」
「根拠は?」
「勘」
「あてにならねェよい…」
「もしなったとしたら殺る」


ニッコリとも笑うことなく銃を握ってどこかを睨むイゾウに、マルコは背筋が伸びた。
自分で言うのもなんだが、イゾウも結構な過保護者で親バカだ。


「名前ちゃんのことだ。また前みたいに戻るさ」
「そうだといいんだがな…」
「とりあえずそれ以上嫌われないよう気をつけることだな。俺はそんなヘマしねェけど」


ニヤリと笑うイゾウに、マルコは返す言葉が見つからなかった。


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