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子猫、拾いました。(後編)

名前が子猫を拾って、数日が過ぎた。
エースと一緒に毎日里親を探しているにも関わらず、一向に見つからない。
焦る名前だったが、飼い主が見つかるわけではない。


「何でかな…」


仕事も終わり、お昼も食べた。
エースの出かける準備ができるまで、名前は子猫と大人しく待っていた。
名前が喉を撫でるとゴロゴロと鳴らしながら気持ち良さそうに目を瞑る。と思ったらその手で遊びだした。
痛い。と言ったところで猫に人間の言葉が解るはずもなく、そのせいで名前の手は傷だらけ。


「はー…。これがマルコさんやエースさんだったら絶対こんなことしないくせに…」


この数日で、子猫とマルコはそれなりに仲が良くなった。
とは言っても、子猫が積極的にマルコに懐き、マルコが仕方なしに構っているといった様子。
エースは動物なら何でも好きみたいで、うまいこと遊んでいる。
ハルタもサッチもビスタも。仲間全員が子猫と仲がいい。


「イゾウさんは苦手みたいだけど」


イゾウは「黒猫はダメだ!俺に近づけんな!」と顔を険しくさせ、当分の間船に戻ってきていない。
子猫のためにも、イゾウのためにも早く見つけたい。
そして、自分のためにも。


「痛いよ、猫ちゃん…」


自分に懐いてくれない子猫。
それに、子猫と遊ぶエースや、子猫に微笑むマルコを見ると心がもやもやする。
子猫は相変わらず可愛い。痛くても我慢する。だけど皆には近づいてほしくない。そんなことを思ってしまう。
爪を立てる子猫にもう一度「痛い」と言っても、子猫はみゃあと鳴くだけ。
しかし耳を立て、ふいっと名前に背中を向けた。


「猫ちゃん?ダメだよ、ジッとしとかないと」


子猫は軽快な足取りで走り出し、名前から離れて行く。
追いかける名前だったが、人間が獣に足で勝てるわけがない。
子猫は角を曲がり、名前も急いで角を曲がる。
すると子猫はマルコを見つけ、足に擦り寄っていた。


「どうしたチビ。名前のとこいねェと怒られるぞい」


マルコの問いかけに、みゃあと鳴いて、ゴロゴロと喉を鳴らす。
少し離れたところで息を整えてる名前に気がつかないマルコは、子猫を抱き上げる。
今まで抱き上げたことがなかったのに。と名前は息を呑んだ。


「このまま見つからなかったら一緒に来るかい?」
「だ、だめっ…!」
「名前?」


また走りだし、マルコから子猫を奪う。
驚いた子猫は名前の手に噛みつき、力が緩んだ瞬間を狙って地面に降り立ち、マルコの後ろへと隠れる。
噛まれた場所からは血が滲んでいた。


「名前、血が「里親は見つけます!だから一緒には行きません!」


マルコが心配して手を取るも、名前は手を振りほどき、強い口調で言い放つ。
名前が一番喜ぶと思ったのに、何故かそれを否定する。


「でも一緒に連れて行きたいって言ったろい?」
「そ、…そうですけど、子猫に船旅は辛いです」
「慣れれば大したことじゃねェよい」
「あー…。その、ご飯だってないし…」
「猫は雑食だから何でも食うんじゃなかったっけ」
「……お姉ちゃん達も暴れるからイヤだって…」
「可愛がってるようにしか見えなかったが?」
「…。あ、イゾウさん嫌いだって言ってました!」
「猫ぐらい我慢しろい」


どれを言っても、ケロリとした様子で返してくるマルコに、名前は眉をしかめて肩を落とす。
何をそんなにムキになっているのか、全く解らなかったが、次第にある単語が浮かんできた。
試しに擦り寄っている子猫を抱き上げると、案の定「あ!」と少しだけイヤそうな顔をして声をあげた。


「これぐらいなんともねェよい。だから一緒に連れて行ってやろう」
「ダメです!」
「何でだよい」
「だってマルコさんがダメだって言ったじゃないですか!」
「だから、いいよって言ってんだい」
「っ…!」


反抗する言葉が見つからない名前が言葉を詰まらせるのを見て、予想が確信へと繋がる。
これは楽しそうだ。滅多に見られるもんじゃない。
ニヤリと笑って、子猫の頭を撫でるとまた眉をしかめる。


「マルコさん猫苦手って…!」
「もう慣れたよい。可愛いもんだな」


そう言って笑うと、今度は目を見開く。


「(子猫相手に嫉妬するとは…)」


それもあるが、名前と子猫の相性はあまりよくなかった。
名前はどちらかと言うと(甘えん坊の)犬気質。
特別なことがない限り、犬と猫、正反対の性格の二人(二匹)が仲良くなることはない。
それに加え、猫にマルコ(飼い主)を取られるとなると嫉妬を妬くわけで。

ちょっと悪戯心が芽生えるマルコ。
と、そこに準備ができたエースもやってきた。
二人の様子を見て首を傾げたが、マルコが耳打ちをして今の状況と、名前の心境を喋ると、エースもマルコ同様ニヤリと笑う。


「名前、飼い主も見つからねェし、もう諦めようぜ」
「やだ!」
「何でだよ。マルコもいいって言ってんだろ?」
「構わねェよい」
「ほら」
「ダメです。頑張って見つけましょうよ!」
「何でダメなんだ?」


理由を追求すると言葉に詰まる。
その様子を見てバレないように笑う二人。
このやり取りが楽しくて仕方ないのか、何度も同じことを繰り返す三人。
そうしている間にも日は刻一刻と過ぎていき、もう外に出てはいけない時間。(名前の)


「今日はもうダメだな」
「二人のせいで探せなかったじゃないですか!」
「わりィわりィ。まァでも一緒に暮らすんだしいいよな?」
「ああ。チビに船生活に慣れてもらわねェとな」
「だめだめ!猫ちゃんの飼い主は俺が見つけます!」
「つっても猫は俺とかマルコに懐いちまってるし…。もういいんじゃね?」
「やだァ!」
「そうだな、俺もチビに慣れてきたし。名前が望んだことだろい?」
「い、やだ…!……っひく、―――うわああああ!」
「「あ」」


色々と限界を迎えていた名前が、目に涙をため、一気に流れ出す。
名前の泣き声に驚いた子猫はどこかへと逃げて行った。


「あーあ、泣いちまった。マルコがイジメすぎるからだぞ」
「エースもな。名前、泣き「バカァ!マルコさんっ、エースさん、は、バカァ!」
「お、何してんだ。つーか名前の奴泣いてんじゃねェか!」
「名前ー、どうしたー?」


名前の泣き声を聞きつけ、サッチとハルタがやってくる。
二人が苦笑しながら今までのことを説明すると、二人も楽しそうに笑って名前に近づいた。


「名前、マルコも言ってんだしいいじゃねェか。ほら、飯なら俺が作ってやるしよ」
「俺も歓迎するぞー。猫と一緒に高いとこで昼寝してェ」


二人の言葉に一瞬泣きやんだが、また泣きだす。
誰かに抱きついて泣きたいのに、意地悪を言わない人が周りにいないから、服をギュッ!と握りしめ堪える。
マルコやハルタが優しく声をかけてあげるも、そのあとエースとサッチがまた意地悪なことを言うから、名前の涙が止まることはない。
泣きすぎて嗚咽が止まらない名前は、もはや何を言っているか解らない。
悪ノリしすぎた兄達。だけど嫉妬した名前が可愛くて可愛くて。


「おい、猫はいねェか…?」
「っひ…。い、い、イジョ、イゾーさん…ッ!」
「ど、どうした名前ちゃん!」


周囲を伺いながら船に戻ってきたイゾウ。
珍しく大泣きしている名前を見て、血相を変えた。

もしかしたら一番面倒な保護者・イゾウ。
明らかに四人の顔色も変った。
名前はというと、やっと泣きつける人を見つけ、急いで駆け寄り、そのまま抱きつく。
優しく声をかけながら、理由を聞こうとするが、うまく喋れない名前。
だから鋭い睨みをきかせながら四人を見る。


「どうせくだらねェことだろうが、聞いてやる。喋れ」


今ならきっと目だけで人を殺せる。
そんなオーラを放つイゾウに、黙る四人。


「サッチ、喋れ」
「俺かよ!いっつもだな!」
「喋らねェなら悲鳴を「喋ります!」


簡潔に、だけど解りやすく説明したサッチ。
全部説明し終わって、イゾウは静かに目を瞑る。
名前も次第に落ち着いてきたのか、鼻を鳴らしながら「イゾウさん?」と声をかけた。
ニッコリと微笑むイゾウ。その一方で銃を握った手が四人を打ち抜いていた。


「猫の飼い主なら俺が見つけといたよ」
「え!ほんとですか!?」
「ああ。俺は猫が、特に黒猫が苦手でね…。もしかしてダメだった?」
「ううん、嬉しいです。ありがとうございます、イゾウさん!」
「よかった、やっと笑ってくれたね」
「……」
「アイツらは俺が始末しとくから名前ちゃんは猫を探してきてくれる?」
「あ、ほんとだ。いなくなってる…」
「見つけたら俺と一緒にそこに行こう」
「でも夜は出たら行けないって…」
「俺と一緒なら構わないよ。だから行こ?」
「っはい!じゃあ探してきますね!」
「うん、気をつけてね」


嬉しさからか銃声に気がつかない名前はそのまま猫を探しに行った。
残ったイゾウは固まって身動き一つとれない四人をまた睨む。


「ぶっ殺す」


たった一言に含まれた怒りを、死という恐怖を持って思い知らされた四人だった。
そして、今度は自分達が逆になるとは誰一人思っていなかった。


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あきゅろす。
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