また新しい島に到着した白ひげ海賊団。 今回の買い出し組は1番隊と4番隊だったため、名前は邪魔にならないようエースとハルタの隊長二人と街へ遊びに出かけた。 年齢が近い三人なのか、最近よくつるむことが多い。 それがちょっと寂しい歳の離れた兄達。 特にマルコが寂しそうで、買い物について来ないと言った名前に、「そうかい…」と寂しく背中から哀愁が漂っていたとか。 「エースさん、次はあれが食べたいです!」 「おっ、うまそうだな!だが金がない!」 「エースは色んなもん買いすぎなんだよー。名前、俺もねェからなー」 「ハルタもかよ!」 街に飛び出した三人は、とにかく食べまくる。 名物と言われるものから、ちょっと不思議なものにまで手をつけ、そしてあっという間になくなる兄二人の財布。 名前にもお金(お小遣い制もしくはお手伝いしてもらう)はあるが、使おうとしたらエースかハルタが出してくれていた。 「じゃあ今度は俺が払いますね」 「妹から奢られたくねェっつうの。なァハルタ?」 「だなー。ってなわけで、エース、名前」 「ああ。久しぶりにやるか」 ニヤリと悪戯をする子供のように笑う兄二人と、ハテナマークを浮かべる妹一人。 ハルタに左手、エースに右手を握られ、お店の前に連れて行かれた。 美味しそう!と思うと、強い力に引っ張られ、何がなんだか解らず走り出していた。 「ど、泥棒ー…。いや、食い逃げだー!」 「俺?」 「ほら、名前。欲しがってたもんだ!」 「にっげろー!」 ぽかんと開いた口に食べ物を突っ込まれ、反射的に噛みしめると甘い味が口に広がり、思わず笑顔を浮かべる。 ハルタとエースは既に食べ終わっており、追いかけてくる男をどう撒くか作戦会議を始めていた。 「じゃあ俺と名前が一緒な」 「おー。俺一人のほうが動きやすいしなー。名前、一旦別れるぞー」 「別れるんですか?え、……もしかして…盗っちゃいました?」 「「当たり」」 「ダメですよ!返しましょうよ!」 「もう食っちまった」 「名前も食ったろ〜?どう返すんだ?」 「お金払いましょう!そしたらまだ許してくれますって」 「「やだ」」 「もー…」 「じゃあなハルタ!」 「おー!」 エースが名前を掴み、背負う。 ハルタは置物やちょっとした屋根を利用し、建物の上のほうへあがって姿を消した。 エースに背負われた名前が恐る恐る後ろを振り返ると、お店の人だけでなく、海軍まで自分達を追いかけてきた。 海軍にいい思い出(勿論他の海賊もだが)がない名前は、「エースさん!早く早く!」と肩を叩く。 エースも後ろを振り返って自分達を追いかけてくる人数に驚きながら、炎で壁を作り出し、行く手を阻(はば)んだ。 「これで当分の間は大丈夫だろ。でも一応隠れとくか」 「そうですね。あ、路地裏ありますよ!」 「よくやった!」 炎の壁で騒ぎだす人々。 その混乱の中、二人は路地裏へと入り込み、腰を落ちつかせた。 「ハルタさん大丈夫かな…」 「これぐらいで捕まるわけねェよ。心配すんなって」 「でも…。あ、」 「どうした?」 路地裏で何かを見つけた名前が背中を向けてしゃがみこむ。 エースは首を傾げながら近づいて、名前の手元を覗きこむ。 そこにいたのは黒い子猫。 みゃあみゃあと子猫らしい甘い声を出しながら、撫でる名前の手に額を擦りつけていた。 「可愛い!」 「一匹だけか?」 「はい、この子だけしかいません」 「迷子になっちまったか、捨てられたかだな…」 「……お母さんいないの?」 名前が優しく抱き上げ、喋れない子猫に質問するも、みゃあとしか鳴いてくれない。 「そっか、いないんだ…。可哀想に…」 「にしてもよく鳴く猫だな。おい名前、捨てとけよ。海軍どもに見つかるかもしんねェしな」 「ダメですよ!捨てるなんてできません!」 「ハァ?じゃあどうすんだよ。船に持って帰る気か?」 「でも…だって…。猫ちゃん一人なんだもん…。可哀想ですよ…」 ギュッ…と抱きしめる。 きっと昔の自分とこの猫を重ねてるに違いない。 でも猫を持って帰るなど絶対に許されない。だからと言って自分は名前に強く言えない。 そうだ、これを注意するのは親の役目だ。 「マルコがいいって言ったらな」 「はい!」 人に慣れているのか、名前の腕の中で寝始める子猫。 少し時間を置いて、エースと名前、そして黒い子猫は路地裏から船へと戻る。 当分の間停泊すると言っていたから、まだ荷物の積み込みはしておらず、静かだった。 しかし、その静かな港に二人の影。ハルタとマルコが立っていた。 ハルタは不機嫌そうな顔をしており、その顔を見たエースは「あー…面倒くせェ」と呟く。 「どこまで過保護なんだよ…」 「あ、マルコさんとハルタさんだ!おーい」 名前が笑顔で呼びかけると、それに気がついたマルコが走り寄ってくる。 さあ、まずはどう出る?先に怒られるか?先に名前の心配をするか? どっちにしろ面倒だ。と溜息をはくエースだったが、 「子猫!拾いました!」 「は?」 名前が手を打ったほうが早かった。 「捨ててこい」 「でも一人で可哀想です!」 「誰がその猫の面倒を見るんだい?」 「勿論俺が見ます!ちゃんと世話します!」 「猫が船で生活なんてできねェよい」 「うっ…。で、でも…捨てることなんてできないです…」 「じゃあエースに捨ててきてもらう」 「俺かよ」 「お前も一緒にいたんだろい?ちゃんと言わなかったお前が悪い」 「エースさん…」 「そんな目で見てくんなよ…。悪いのはマルコだ」 「責任も持てねェくせに拾ってくるエースと名前が悪い」 キッパリと厳しい口調で言い放つマルコに、名前とエースは元気をなくす。 名前が「マルコさん…」と甘い声(無意識のおねだり)を出すも、今回ばかりは使えなかった。 隣で見ていたハルタと、マルコと一緒に買い出しに出ていたサッチが「珍しいな」と苦笑い。 「じゃあせめて停泊してる間ぐらいは…」 「ダメだい」 「何でですか…」 「愛着が湧いちまうだろい」 「じゃあ停泊してる間に新しい飼い主を見つけるってのはどうだ?」 「エース!」 「あ、それいいですね!マルコさん、お願いします!」 今度はキラキラとした目で見つめてくる名前に、言葉がつまるマルコ。 「落ちたな」 「落ちたなー」 やっぱマルコはマルコだった。 と呟く二人。 「……早く見つけてること。約束できるかい?」 「はいっ、約束します!」 「俺も手伝うぞ。頑張ろうな!」 「はい!」 名前とエースが顔を見合わせ笑うと、名前の腕の中で子猫がみゃあと鳴いた。 二人も気づいて子猫を見ると、名前の腕の中からスルリと抜け、トコトコとマルコに近づいていく。 後ずさるマルコに、そんなの関係なしにマルコの足に額を擦りよせる子猫。 「名前、こいつ離してくれるかい…?」 「あ、はい」 言われたように子猫を抱き上げると、子猫はジタバタと暴れ、名前の手から逃れる。 やっぱり行く場所はマルコの元。 「マルコさん、猫に好かれるんですね」 「鳥だからな」 エースを振り返って笑う名前と、「だから猫苦手なんだよ」と苦笑するエース。 サッチとハルタも知っていたのか、苦笑していた。 「名前!」 「はーい」 苦手だから離れてほしい。だけど子猫相手に蹴ることなんてできるわけがない。 困ったマルコはとりあえず名前を呼んで、自分と猫を引き離せるよう頼んだが、子猫はマルコの傍に行きたい様子だった。 「エース、さっさと飼い主見つけて来い!」 「俺にあたんなよ。名前、行こうぜ」 「はい。いい飼い主さんが見つかるといいねー」 マルコから引き離した名前だったが、大人しくしない子猫。 落としそうに持つ名前の代わり、エース引きとると大人しくなる。 関心する名前の横で、ハルタとサッチが、 「エースはどんな動物にも好かれるからなー」 「同じ匂いでもすんじゃねェの?」 と笑った。 期間はモビー・ディック号が停泊している間のみ。 見つからなかったら捨てること。 名前とエースの里親探しの始まりです。 [*前へ][次へ#] |