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記憶喪失になりました。
嘘つき4
高い高い状態のまま、軽やかな足取りで移動を開始する間野君。
「降ろせよ」とかなんとか喚いてる間に目的地に着いたみたいだ。
普通に下ろしてくれるのかと思いきや、なんとこの間野君は、俺を貯金箱でも割る様に振り落としやがった。
何すんだコノヤロウ!なんて思っている場合じゃない!
固い床に激突するのに備えて、咄嗟に体を縮こました。
が、衝撃は思ったより早く、そして柔らかい物だった。
あれ?と自分の背後を確認する。
白いシーツ。これは保健室にあるパイプベッドだ。
床に激突しなくて良かった。
ホッとしたのもつかの間。
バフン…と頭の両サイドに間野君の腕が…!
えっ!?
何?記憶喪失にまでさせたのにまだ懲りてないの?また暴力ですか!?
そんなに俺が恋人設定否定したのが気にくわなかった!?それにしてもなんでも暴力で解決しようとするのはよくないよ!

「…ま、間野君、ぼ、暴力、は、良くない、よ…」
「俺の事、思い出させてやるよ」

いい!思い出さなくていい!て言うか忘れてない!バッチリ覚えてる!
間野君がグッと顔を近づけてきて、思わず両腕で顔を覆った。
でもそんなもん簡単にほどかれて、ベッドに押さえつけられる。
どうにか振りほどこうと暴れるけど、間野君の馬鹿力のおかげで振りほどけない。
「はぁはぁ」と俺一人だけ呼吸を乱してるのが本当に情けない。

「暴れんな。思い出させてやるって言っただけだろ」
「ううう腕っ!腕つかんでんじゃんっ!」
「暴れるからだろ」
「じじゃじゃあ、暴れなかったら何する気だよっ!」
「言ってんだろ。思い出させてやるって」
「だから、何する気だよっ!」
「別に何も。俺らが今までどんな関係だったか聞かせてやるだけ」
「じゃあ座ったままでよかったじゃん!」
「ああ。けど、こっちのが分かりやすいと思ってな」

言いながらまた顔近づけて来やがった。
思わず歯をくいしばって目を強く瞑った。
頭突きでもされるかと思ったけど、顔の横に間野君の気配がきたって事はそうじゃなかったみたいだ。

「お前も知りたいだろ?お前だけが忘れちまった俺らの関係」

耳元で存外優しい声色で間野君が言う。
知りたいも何も忘れてないし。しっかり覚えてるし。
でも記憶喪失になりきってる身としては知りたいと言っといた方が良いのか?
本当に記憶を喪失したとしたら、その記憶はやっぱり思い出したいだろうし、気になるだろうな。
ここは頷いておこう。
俺が頷くと、間野君は「ふん」と鼻で笑いやがった。
こっそり笑ったつもりだろうけどな、耳元にいるからバッチリ聞こえてるぞ。お前記憶喪失馬鹿にすんなよ!?

「だったら暴れんな。なんもしねーんだからよ」

本当かよ?絶対だろうな!

「絶対?」
「おう」

俺は渋々「わかった」と承諾した。
けど全面的に信じたわけじゃないかんな。殴られる!と思ったらまた暴れてやるからな。

「俺とお前はな、こうして同じベッドで寝る関係だったんだよ。裸でな」

何言ってんだこいつ。

「お前、俺のちんこアナルに入れられんの大好きだったぞ」

途端に頭に血が上った。
バッと横を向いて間野君と視線を合わせる。同時に間野君の胸を突っぱねてみるけどびくともしない。

「嘘だ!!」

思わず叫ぶ。

「嘘じゃねーよ。入れてくれってすがりついて、自ら腰振って悦んでたぜ」
「嘘つき!!」
「嘘じゃねー。お前俺の事大好きなんだよ。ほら、思い出せよ」

間野君が体をぴったりとくっつけてくる。
離そうとしても上からのし掛かられているせいで殆ど身動きすらできない。

「嘘つき!嘘つき!嘘つき!嘘つき!!」
「ぁ"ーーー!うるっせ!」

俺の大音量の「嘘つき」攻撃に耐えかねたのか、間野君が離れていった。
でも変わらずマウントはとられた状態だ。
俺は「嘘つき」攻撃を続けた。

「うっせー!それやめろ!」
「だって嘘じゃん!」
「だからお前は記憶喪失なんだろ!忘れてんの!それともお前が嘘つきか?」

げっ!バレる!?
いやいや、その前に。「お前が嘘つきか?」って言うって事は、間野君自分が言ったこと嘘だって宣言してるようなもんじゃん!俺勝った!

「あっ!ほら、嘘なんじゃん!俺が嘘って言ったのが当たってなきゃその発言は無いよね!?」
「馬鹿か。俺はちょっと大袈裟に言っただけで、恋人なのもお前が俺を好きなのもセックスしてんのも全部事実だ!」
「じゃあ俺と間野君はホモだって事!?」
「俺は違うけど、お前はそうなんじゃねーの?」

なんで俺だけなんだよ!それで言うと間野君もホモだろ!
勝手に俺だけホモにしてんじゃねーよ!

「付き合っててセックスしてんなら間野君もホモじゃん」
「もうお前黙れ」

べしっ…と俺の口を間野君の手が塞いだ。
俺はそれだけでちょっとびびる。

「これだけは言っとくぞ。お前が記憶を無くそうが関係無い。お前はまた俺を好きになる。俺もお前と別れる気はない。いいな?」

記憶喪失の俺としては、こう言う場合なんと返すのが正解なのだろうか。
考えあぐねていると「いいな?」と再び念をおされる。しかも物凄く威圧的に。
反射的に頷いてしまった。情けないぞ俺。
俺が頷くと、口を塞いでいた手が外れ、その手で襟首を掴まれて上体を起こされた。勢いよく引っ張られたせいで、顔面を間野君の胸に強打。
いてーな!何すんだ急に!怖いからやめろ!
間野君の胸に手をあてて、恐る恐る顔を上げると、むすくれた表情の間野君と目が合った。
なんだよ!怒ってんのか!?こえーな、怒んなよ!
微妙にビクビクしていると、がしっと後頭部を掴まれて、(なんだよなんだよ)と思っている間に、ぶちゅう…とキスをぶちかまされた。
あわわわわ。これ、もうホモじゃん。
うわっ唇舐めないで。あ、なんで俺口開けちゃうの!?間野君の舌入ってきちゃうじゃん。
うわっ間野君の舌入ってきた。
どうしよ。俺、間野君と物凄く舌絡ませてる。唾液の交換しちゃってるよ。嫌だ。

…でもあんまり不快じゃないかも。元々間野君の事嫌いじゃないし、抱き締められた時も自分が気持ち悪かっただけで、その事自体は別に不快と言うわけじゃなかった…

なんてとち狂った事が頭を過った時、ガラッ…と扉が開けられた。

「……なんだ、盛りか?」

小幡先生が戻ってきた。しかも無茶苦茶バッドタイミングで。
いや、ある意味グッドタイミングだ。なんか俺、とち狂った事が頭を過ってた気がしないでもないからな。危ない危ない。

「ちっ、違います!」

叫ぶと同時に渾身の力で間野君を突き飛ばす。
すげ、俺こんな力あったの!?びっくり!

「ま、なんでもいいけど、涎拭いて病院行くぞ」

…へ?涎!?
俺は涎まみれの口元を袖口で拭って、小幡先生の所までダッシュしたのだった。



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