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記憶喪失になりました。
嘘つき
ここ一年の間に、いつの間にか、とあるクラスメイトに物凄く嫌われている。
どのくらい嫌われているのかと言えば、「あ"あ"!?」と言われたり、唾吐きつけられたり、殴られたり、蹴られたり、パシられたりするレベルで嫌われている。
なんでこうなったのかは皆目検討がつかない。
ただ、最初は普通に話してくれていたのだから、ここ一年の間に俺の何かが奴の逆鱗に触れたのだと推測される。

「今なんつった?もう一遍言ってみろ」

これが奴だ。
クラスメイトの間野純一君。AB型で水瓶座のちょいワル男子高校生だ。

「い、…嫌だって、言った、けど…?」

対して俺、真波成一。O型で水瓶座。ちょっとしたパシリ事を内心ビクビクしながらも虚勢を張って断る凡庸男子高校生。

「ちょっと来い」

これは最悪な展開になりました。
トイレ→ボコと予想される。
一対一だからやり返せばいいじゃん、情けなーい。とか思うだろ。同感だ。俺は情けない男なんだと間野君のお陰で思い知った。
俺だってな、何もぼー…と突っ立ってやられてる訳じゃない。当たり前に抵抗するし、初めの頃はやり返したりもした。でもな、俺は弱かったんだ。勝てなかったんだ。
それなのに何度も殴られてみろ、男同士だろうが、一対一だろうが、そのうち心が折れるだろ。
なのに何故俺が「嫌だ」なんて無謀な事を言ったのかと言えば、友人にそう助言されたからだ。
友人いわく、素直に言う事を聞くから益々酷くなるのだそうで、はっきりきっぱり断らないといけない。という事らしい。
俺は何度も「そんな事言ったら怒らせて殴られるだけだ」と友人の考えを否定してきた。だが、もしかして、万が一、それで殴られずに済むのなら…と、今回の無謀に出たのだが、やはり結果はトイレ→ボコだった。


さて、人気の無いトイレにやってまいりました。
これから喧嘩とは名ばかりの一方的な暴力が始まるぞ。

「何断ってんのお前」

まず一発目、ボディー。痛いです。

「やめ、ろっ!」

ガードしながら手で突っぱねてみるけど無意味。

「ムカつくんだよ」

次もボディー。痛いです。
もうこんな毎日はいい加減嫌だ。
俺に超能力とかあったら間野君なんか簡単にやっつけれるのに。なんで俺超能力使えないんだよ。都合良く目覚めろよ俺の中の眠れる力。
ああクソッ!どうにか殴られずに済む方法は無いのか!?
なんて考えてる間に頭を鷲掴まれて押される。
バタバタと後ろ歩きで数歩下がると、個室の壁にあたった。
その壁に向かって間野君は鷲掴んだ俺の頭を叩きつけた。
お前、これ、俺死んだらどうする!
いくら薄い木造の壁でもな、打ち所次第じゃ死ぬかもしれないんだぞ!
それをこの間野君は何度も繰り返しやがって。俺の頭は金槌じゃないんだぞ!わかってんのかコノヤロウ!
痛ぇーつうんだ!痛ぇーつうんだよ!
頼むからもう止めてくれ!マジで死ぬ!マジで死ぬから止めて!

そこで俺は急に閃いた。
そうだ、死んだふりしよう。

だらり…と全身の力を抜いて目を閉じる。
頭を鷲掴まれていたとはいえ、そこに人一人を支える力もなく、ずるずると体が沈んでいく。
さて、この状態を見てちょっとは反省しろよ間野君。
お前のやってる事は俺が死んでもおかしくない事なんだからな!
これに懲りてもう二度と俺に暴力振るうなよ!
そんで俺が死んだと思って焦ろ!あわあわと焦る姿を俺に見せろ!あいにく目を閉じていて見れないけどな。でも大丈夫、気配で探ってやるよ!
死んだふりをしながら全神経を間野君に集中させる。
踵を踏み潰した上履きが、タイル貼りの床に擦れて微かに音を立てる。それから瞼越しに感じていた光に影がかかる。
近くに間野君の気配。
これはたぶん覗き込まれている。

「……」

何か言えよ。もっとこう「おい!真波!死ぬな!」みたいになれよ。

「おい」

べちっ…と軽く頬を叩かれる。

「これくらいでおちてんじゃねーよ、起きろ、おら」

またべちっべちっ…と軽く頬を叩かれる。
気絶じゃねーよ。俺は死んだんだよ。いや死んでないけど死んだと思えよ。
このままじゃただ気絶して起きただけになっちゃうよ。
それじゃあ何の意味もない。
気絶くらいじゃあ間野君は反省しない。これからも俺は間野君に「あ"あ"!?」と言われたり、唾吐きつけられたり、殴られたり、蹴られたり、パシられたりされ続ける。
そんなの嫌だぁー!
何か間野君に反省させる方法はないのか?
人は殴ったり蹴ったりしてはいけない!と当たり前の事を思わせてやる方法はないのか?
死んだふりをしながらも懸命に考える。
すると、突然名案が浮かんだ。

そうだ、記憶喪失になったふりをしよう。




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