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短編
厄介な関係2‐1



「あっ、怜先輩っ、い、いッ!」
「ほら、いけよ」
「んぁ!!」

まるで獣のような体勢で、風間怜は“恋人”の体を穿ちながら、自分の汗がぽたり、と相手の背中に落ちて行く様を見守った。

(あー…なんだろな……)

この虚しさは。

体は確かに熱くなっているというのに、心がどっかに置いてけぼりになっているような心地…

「い、く……っ!」

そう言ったかと思うと、恋人は身を震わせてあっけなく怜の手の中に白濁を吐きだした――




(かわいい…)

「……怜先輩?どうしたんですか…?」

情事の後、怜の部屋のベッドの上で話をするでもなく、自分に体を寄せてまどろむ一級下の恋人の顔を見ていれば、恋人が視線に気付いたのか、恥ずかしそうにはにかみながら怜を見つめ返す。

「や?かわいーなーって思っただけ」

微笑して怜が言えば、学園の抱きたいランキングにも入っているかわいらしい恋人はかぁっと頬を赤く染めた。

「そ、そんなこと、っ」
「ふ、」

(やっぱ、かわいい……)

「怜先輩も…その、……」
「ん?」
「かっこいい、です…っ」

生徒会長でもある怜にとってあまりに言われ慣れている言葉は、すんなりと耳に入ってくる。
それでも、耳まで赤く染めて顔を伏せる恋人に笑みが零れた。
そうしながらも、しかし、怜はどこか冷静に恋人を観察している自分に気付く。

(……かわいいって思うのに……愛しいとも思うのに……)

いつも、自分はこの恋人をどこか冷めた目で見ている……そんな気がしてならない。

「先輩…好きです…」

愛の言葉を口にして、恋人がすり、と怜に甘えるように体を寄せてきた。

「ん…」

「オレも、」とそう言おうと思うのに、怜はなかなかその一言を口に出せず、ただうっすらと笑みを浮かべることしかできない。

――RRR

ちょうど、その時、タイミングがいいのか悪いのか、ベッドのヘッドボードに置いていた怜の携帯が鳴った。

「わり」

自分に身を寄せる恋人の体から離れ、怜は携帯をとった。
電話を掛けてきた相手――その名前を確認して怜はそっと苦笑する。
そして躊躇うことなく怜は通話ボタンを押した。

「もしもし、」
『あ、怜ちゃん…?』

電話の相手は、幼馴染で、風紀委員長でもある吾妻麻人だった。

「何、もう夜中の0時過ぎてんだけど」
『あっは、じーさんじゃないんだからー、早寝早起きってがらじゃないじゃーん』
「常識の問題だろ」
『え、怜ちゃんに常識あったの?』
「少なくとも麻人よりは」

いつもの軽口が電話口から聴こえてくる、が、その声に違和感を覚えた怜は、無意識に眉を寄せた。
――麻人の声が若干弱弱しい。

「麻人?お前――」
「怜先輩…?」

怜が口を開いたと同時に、すぐ後ろから恋人の声が怜を呼んだ。
そちらを振り返れば、先ほどまで顔を赤く染めていた恋人が、どこか不安そうに顔を曇らせて怜の様子を窺っている。
怜は、微かに苦笑を零した。
本来なら――
恋人のいる前で、友人と電話で話すことくらいたいしたことではないはずだ。
だけど……相手は麻人である。
学園内でお似合いだともて囃され、二人を応援するものも多いほど、仲の良さが知れ渡っている二人である。恋人が不安に思うのも当然だった。

『あっれ、怜ってばもしかして誰かと一緒?』

携帯からは、麻人が軽い口調で言ってくる。この部屋のどことなく気まずい空気などお構いなしに――

「ん、」

軽く答えると、電話の向こうで麻人はからからと笑った。

『お邪魔だったー?』
「ま、な」
『じゃあお邪魔ついでにお願いあんだけど』
「なんだそれ」

恋人が怜を見守る中、怜は恋人から目を逸らしながら、小さく息を吐いた。

『オレ、今諸事情で動けんのだよ。』
「あーそ。」
『そんでね、りんご、持ってきて?』
「は?」
『食堂行けばくれるっしょ、りんごの一つや二つ』
「や、そーゆー問題じゃねーし」
『じゃあ、待ってるから。10分以内、絶対だかんね』

それだけ言いきって、麻人は一方的に通話を切る。

「…………」

ツー、ツー、という音を聴きながら、怜は再び息を吐きだした。
携帯をかろうじて身に付けていたズボンのポケットにしまいながら、椅子にかけてあったシャツを羽織る。
無言のまま身支度を始める怜を、恋人が顔を曇らせたまま見つめているのを感じながら、怜は机の引き出しからカードキーの入った財布を取り出した。

「……行くんですか…」

恋人が、泣きそうな声で言ってベッドから怜を見上げる。

「わり、ちょっと用事」
「……吾妻先輩の所へ…?」
「ん」

軽く頷けば、恋人はくしゃりと顔を歪めた。

「――行かないでください……」

独り言のように、叶わぬとわかっているその一言を、恋人は震える声でそっと口にする。

「……ゆっくりしてていいから」

怜は苦笑を浮かべ、ただそれだけ言って扉に向かう。

(オレ、さいてーだな)

そして、恋人を一人、ベッドに残し、怜は自分の部屋を出た――



続く
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(101109~101125拍手お礼文)


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