泡沫にもなれない人魚姫(ソカロ)
ああ、
あなたもやっぱり愚かな人間の一人だったのね。
「私に勝てるはずないのに」
真に神に選ばれた、ノアたる私に。
「私たちに勝てるわけないのに」
伯爵様に導かれる私たちノアとアクマたちに。
男は、私の目の前に磔になっている。
私が杭を打ち込んだ。何度も、何度も。男の足下にはアクマの残骸がたくさん転がっていて、私も男の仲間を打ち抜いた時よりは手こずったけれど、ねぇ、あなたも所詮私の敵ではなかったのよ。
『───どうされたいかは、聞いてやらん。始めるとするか、ノアの小娘』
最後まで、そんなことを嘯いて。愚かな人間、本当に。
「ご苦労サマでス、フィーネ♪」
「伯爵様……」
いつの間にか私の背後に現れた伯爵様は、チャーミングな曲線を描くお腹を揺らして笑った。
「最初の一人を除けバ、フィーネが元帥殺し達成の一番乗りデスよ♪」
「……他が手を抜いているだけでしょう。皆、遊びが過ぎるんですわ」
男の屍を背にして伯爵様に向き直り、膝を折る。胸に手を当て礼をして、ねえ、どうしても聞きたかったことを聞いてみようと思うの。
「伯爵様」
「何ですカ?」
「ノアの私も、貴方に向かって今は亡き愛しい人の名を叫べば彼をアクマにしてしまうのでしょうか?」
(ソカロ、)
ただ一度だけあなたの名を呼ぶことを許されるのなら、この声はもういらない。
(愛してほしいとは言わないから)
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