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海馬君ラブ!
3




「……あ、あのさ海馬くん!」
「な、なななな何だ遊戯!」

あまりの沈黙に耐えれなくなったのは遊戯のほうが先だった。いや、海馬も同じくらいいっぱいいっぱいだったに違いないが。

「ああああ、アルバムでも見てみない?」

この間城之内くんが遊びにきたときに彼が見つけ、興味津々といった風に眺めたあと、色んな話に花が咲いたことを思い出し、慌ててそう提案してみる。これで何とか時間が稼げるはずだ。

「い、いいだろう!」と、海馬。結局、せっかくの休みに突然訊ねてきた海馬と肩を並べてアルバムなんぞを見ることになった一日であった。







「で、これが高校生になりたてのボク」
「…フン、今と変わらんな。特に背が」
「そ、そんなこと無いよ!ちゃんとボクだって伸びてるんだから!」

あれからいろんな写真を見せた。生まれて間もないときの写真、小学校、中学校と色々。
もちろん、もう一人のボクと出会ってからのものもあった。

「海馬くんの家にもアルバムはあるの?」
「そんなものは無い。過去に意味など無いからな」

なんとも海馬らしい回答だ。過去より、未来。そして今を生き抜く。
少し横目で盗み見た海馬は整った顔をしており、その強い瞳の奥に強い光を感じた。


「あ、ジュースのおかわり入れてくるね!」

遊戯は二つのグラスを持つと部屋を出て行く。
静かな部屋に、アルバムを見つめたままの海馬が残された。




そこで事件は起きた。



………その瞬間を目撃したのは、コイツだけだったかもしれない。
コイツ。ベッドの上に安置されている、クマである。

このクマは幼少の頃からこの部屋におり、遊戯の成長を見守ってきている。最近少し汚れが目立つようになってきたので洗濯の時期かしら、なんて母親は思っているらしい。………ではなくて。

ともかく、このクマは一部始終を目撃していた。




『あ、ジュースのおかわり入れてくるね!』そう言って部屋を出て行った遊戯。
海馬はその背中を見送ると、さっとアルバムへと視線を戻した。

「……ククク」

不気味な笑いが部屋を包む。真剣に気持ち悪い。

海馬の目の前には、遊戯の思い出の詰まったアルバムが一つ。そのアルバムのフィルムがぺりぺりと剥される音が室内にこだました。


何故、海馬はそんなことをしているのか。
アルバムといえば、持ち主が写真を収めるもの。他人がフィルムを剥す必要性など、皆無だ。ならば何故海馬は今、遊戯のアルバムのフィルムを剥しているのか。


それは………


「フフフフフ…。これは貰っていくぞ。遊戯…」

他人がアルバムのフィルムを剥すのは、もちろん………写真を取るためである。


遊戯のアルバムから抜かれたのは、高校に入ったばかりの写真。笑顔が眩しい。
海馬はその写真を大事そうに手帳に挟むと、アルバムを閉じた。あたかも、何も無かったかのように。







「お待たせ〜、海馬くん」
「ああ」

そして何も知らない遊戯が部屋へと戻ってきたというわけだ。
もちろん、閉じられたアルバムの一枚が抜かれていることなど、気付くはずもない。

「そろそろ失礼する」
「え、そうなの!?」
「急な用事が入った」
「あ、そう……」

ネクタイをシュッと締めなおし、姿勢を正す海馬。そういえば仕事の合間を縫ってやってきたと言ってたっけ。

「どうだった?」
「……悪くない」

その言葉を聞いて遊戯はクスリと笑う。海馬は複雑そうな顔をしていたが。




かくして、遊ぶ相手もおらずすることも無し。暇をもてあますだけだった日曜が、ある意味楽しめたと思う。終わった今、ホッと溜め息しか出てこないが。

と、玄関を出る瞬間、海馬が何かを発した。が、聞き取れない。

「え、何、何って言ったの?」
「…また来る、と言ったのだ」




「えええええ!!!?」

ちょ、最後に爆弾発言残していかないでよ〜!
海馬は「ではな」とか言いながら颯爽と待たしておいた車へと乗り込む。
それは静かな音を立てながらゆっくりと海馬CPへと向けて発進された。




いったい、何だったのだろう。

怒涛のように現れ、怒涛のように去っていった男、海馬瀬人。
彼のことはイマイチ掴みきれていないが、「また来る」という言葉を嫌だと思わなかったくらいには、毒されているのかもしれない。





おのれぇぇ!

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あきゅろす。
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