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海馬君ラブ!
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今、遊戯はどうしたらいいか迷っていた。いや、迷うというよりは困惑か。およそ最近ではこれほどどうしようかと、慌てふためいたことは無い。

「おい」

うわー!と頭を抱えている遊戯の背後から、この状況の元凶が話しかけてきた。
びくっ!と肩を震わせ、ゆっくりと後ろを振り向くと、男は先程見たときと寸分違わず仁王立ちのままだ。さらにいうなら腕まで組み、どことなく偉そうに見える。

ボ、ボクの部屋なんだけど…な…

「何を青くなっている。そんなことより貴様の家は客が来たというのに茶の一つも出さんつもりか」

フン、と漏らされた言葉は、普通の人が聞いたら間違いなく気分を不快にしていただろう。
ここは、遊戯の部屋なのだ。この男の部屋ではない。しかも、呼びもしていないのにいきなり現れ、ずかずかと部屋に入ってきた者の第一声がこれか。

「あ、ゴ、ゴメン!すぐに持ってくるね。そこに座ってて」

だが遊戯は嫌な顔一つせず、どちらかというと慌てた感じで部屋を出て行った。




事の起こりは、つい先程。

日曜日だというのに部屋で一日ごろごろしていた遊戯。
「あー、退屈だなぁ〜」と項垂れていた。

親は揃って出かけている。じいちゃんもどこかへ消えてしまった。
もう一人のボクは心の部屋で爆睡中だし、城之内くんはバイト。杏子は他の女子とショッピングに行くって言ってたし、本田くんはジョージが家に来てるから遊べないって言ってたっけ。

結局、年頃の男の子だというのに部屋でゲーム三昧。
でもどれもクリアしてしまったものだからあまり盛り上がれない。
そろそろ新しいゲーム欲しいな〜なんて考えていた時であった。

ピンポーン…

宅配便かな〜?なんて考え、パタパタと玄関まで走る。
だが、玄関のドアを開けた瞬間、遊戯は固まってしまったのだった。

「遅い!」

ドアを開けた瞬間怒鳴られ、その人物の容姿を確認した瞬間、遊戯は奇声を上げてしまった。

「か、かかかかか…!」
「貴様、落ち着いて喋れんのか」
「海馬くん!?」

こんな住宅街を歩いているだけでも驚きものだというのに、まさかこの家に訪問されるとは思いも寄らなかった人物。

口をパクパクさせて2歩ほど後退してしまった遊戯に、海馬はさも当然、といったようにドアをくぐり、靴を脱いでいる。

「ちょ、ちょっと待って海馬くん!」
「ム、……何だ」

行動を遮られたのが癇に障ったのか、ジロリと海馬が睨みつけてくる。
いつもならその瞳に思わず身じろぎしてしまうのだが、今はそれどころではない。この最大級の疑問をぶつけないと。

「な、何でキミがこんなところにいるのーー!?」



海馬といえば、童美野町で知らぬものは無いというほど有名人。
海馬CPを経営する社長で、顔良し、頭良し、性格悪し、と専ら噂になっている。
実は海馬は遊戯のクラスメイトなのだが、気軽く家に訪れあうような関係ではない。なのに一体こんなところに何をしに来たというのか。

あんまりにも想像できない光景に、遊戯は固まった。だが海馬はそんな遊戯を尻目に、自分で勝手にスリッパを履き完全にあがりこんでしまった。

「ちょ、ちょっと待ってよ海馬くん!」

海馬が自分の横をすり抜けた瞬間、遊戯は正気に戻ったのか、海馬の服の裾をギュッと掴んだ。
またジロリと睨まれたが、当然の権利だろう。
だが、勇気を振り絞った遊戯の行動に、海馬はサラリととんでもないことを言い放った。

「貴様が遊びに来いと言ったのだろうが」

は、はいいいいーーーー!?
い、いつ誰がそんなこと言いました!?

「ちょ、ちょっと待ってよ、ボクそんなこと言ってないよ!?」
「何!?」

海馬は眉を顰めてかなり怖い顔をしたが、言ってないものは言ってない。大体、海馬と話をすること自体が珍しいのに、家に遊びに来いだなんて…。

「海馬くんの、勘違い…じゃない?」

恐る恐る、といった感じで思ったことを口にする遊戯。だが、思ったとおり海馬は頬をぴくぴくさせながら怒鳴り散らした。

「貴様のようなボンクラならば人の言ったことを歪曲して捉えてしまうのも頷けるがオレに限ってそんなことはありえん!!確かに貴様は言ったのだ!」
「…あ、あの」
「大体このオレがわざわざ仕事の合間を縫って遊びに来てやったのだぞ!約束などしておらずとも出迎えんか!それから少しは嬉しそうな顔をしろ!!大体貴様は……」
「ちょ、ちょーっと待った!!!」

顔を真っ赤にして好き勝手なことを怒鳴り散らす海馬に慌ててストップをかける。
それにしてもなんという言い分か。あまりにも自己中心的な…。思わず謝りそうになったではないか。
約束もしていないのに出迎えるなんて、城之内や杏子ならば話は分かるが、海馬に限ってはありえない。

しつこいようだが、話すこと自体が珍しいのだ。

「そ、その、ボクが家に遊びにおいでって言った時のことを教えてくれる?」

とりあえず、これ以上は何を言っても無駄みたいなので、猛獣を宥めるような声色で海馬に話を促してみる。できるだけ刺激しないようににっこりと笑ったつもりだが、海馬にはどう映ったのか。

「…フン、その前に脳外科へ行くことを激しく勧めるぞ、遊戯よ」

いやいや、それキミの方だから。という突っ込みはあえてしない。まだまだ命は惜しいのだ。





結局、海馬が語ったのはなんと、2ヶ月も前のことだった。


2ヶ月前、遊戯は学校で帰り支度をしている時、教師にあることを頼まれた。
登校拒否…もとい、出席日数の足りない海馬へ、溜まったプリントを届けるようにとのことだ。

だが遊戯と海馬の家は決して近いというわけではない。バスに乗らなければならない。だからこそ、何故自分が指名されたのかが分からない。
遠いんだということを告げようとしたが、教師は慌てて職員室へと戻ってしまう。

結局、遊戯が海馬の家へとプリントを運ぶ羽目になってしまったのだった。




驀進!

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