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海馬君ラブ!
2



結局、いい案も何も浮かばないまま時間だけが過ぎていく。
不安な気持ちは消えず、どうしたらいいのか一人迷うモクバに、社長室から怒号が聞こえてきた。

「うわ、兄サマ…荒れてる」
会話の内容から察するに、大した損害ではないのにもかかわらず非難轟々。「無能」「損害」など、色んな言葉が飛び交っている。
「どうしたんだろ、兄サマ」
少し気が立っているらしい。最近は意味も無く苛々をぶつけるなんて無かったのに。
「あ、ねぇ、兄サマ何かあったの?」
近くを通りかかった部下に、聞いてみる。もちろん部下は喋りづらいのだろう、察して欲しいとばかりに困った顔をした。
「いいから、言って」
「…はい…あの、お昼までは社長に変わったところは無かったのですが、一本電話に出られてから…その…」
「機嫌悪くなっちゃったの?」
「……」
「それ、どこから」
「インダストリアルイリュージョン社からです。その…引き抜くとかどう…とか」

ピーン、と頭の中で思考の糸が繋がる。
どうやら自体は最悪の方向へと行ったらしい。急展開にモクバは力なくその場へとしゃがみこむ。
「モクバ様!大丈夫ですか!?」
「…あーーー、っもう!」
どうしてこうも回りをかき回してくれるのだろうか、あの男は。
M&Wを開発した会社でなければさっさと潰してやるのに。
怖いことを心の中で考えつつ、モクバは自分の取るべき行動を一つに絞った。

今日は、耳かきデーだ!


で、今現在。

「磯野のこと、聞いたんでしょ?」

黙っていても眉間の皺が全てを物語っている。本当に嘘がつけないと言うかバカ正直と言うか。
「…磯野、止めないの?」
「何故オレが止めねばならん」
思ったとおりの回答に、やれやれと心の中で呟く。
「だって、磯野だよ?」
「そうだな、機密事項を知っているという点ならば、脳に高圧電流でも流して使い物にならんようにしてから引き渡せばいいだけの話だ」
それって死んじゃうし…なんて突っ込みをあえてせず、確信を気付かせてやる。
「そうじゃなくて!磯野なんだよ?他の誰でもなくて、磯野なんだよ兄サマ!」
「それがどうした。誰であろうと去ると言うのならば好きにするがいい。それ相応の処罰は受けてもらうがな」
やっぱり。我が兄ながらどうしてこうも捻くれているのか。ここで声を荒げて磯野が兄サマにとってどれだけ支えとなっているのか、彼の功績と共に耳に叩き込んでやりたいが、それをしたところできっと兄サマは全てを聞き流すだろう。そう、自分ではダメなのだ。

ここはズバリ、あいつにすべてを任せてしまおう。

「あーーあ、兄サマでっかい耳垢があるんだけど何かもう取る気無くなっちゃったぜぃ」
ポイッと耳かきを傍らへ投げるともぞもぞと兄の頭から己の足を引き抜き立ち上がる。
「…モクバ?」
「誰かに代わってもらおーっと」
「…っ、オイ」
こうなるだろうと踏んで、つけたままにしておいたインカムに向かって声を出す。
「磯野、至急兄サマの部屋へ」
「…モクバ!」
「あ、磯野、マッサージは出来ないから、終わったらまた来るよ。うーん、30分後、また来るね」
「…30分…、モクバ何を考えている」
ソファーの上で困惑している兄を後ろに、モクバはさっさと部屋を出て行く。ドアを開けたところでちょうど居合わせた磯野を軽く睨みつけて、「耳かき」とだけ告げ、ドアを閉めてやった。

後は野となれ山となれ、だ。




おのれぇぇ!驀進!

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