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海馬君ラブ!
電撃のお菓子な契約 1


新聞配達のバイト料が入ったとき、城之内には一つだけ楽しみにしていることがあった。

「おばちゃーん、コレもちょーだーい」
手に持っているのは明太子味にコーンポタージュ味。
「お、コレも買っとくか」
本当はケチってビー玉が入ったラムネしか買わない城之内だが、どこぞのバカが持ってんのを目撃してしまってから、食べたくてしょうがなかったのだ。
たった100円や10円をケチるなんてみみっちい、と言われてしまいそうだが、城之内にとってはその10円は死活問題。
1円でも多く返して自由の身になるのを夢見る勤労学生にとってはもの凄い贅沢なのだ。

「…っと」
この駄菓子屋は上から色々な景品をぶら下げていたりするため、前がやや見えにくい。子供対象なのだから仕方ないのだろうが、駄菓子を見るのに夢中になっていた城之内は目の前の人物に気付かずにぶつかってしまった。
「わ、ワリ…前見てなかったぜ」
「貴様、どこを見て…」

ぶつかったヤツと同時に声を発し、目が合った瞬間城之内はちびりそうになった。
「か、海馬!」
「貴様…凡骨か」
ここでいつもなら、凡骨って言うなー!といつものパターンなのだが、状況が違いすぎる。ここはデュエル会場でも学校でもない。「駄菓子屋」なのだ。
「お…ま…こんなトコで何やってんだよ」
「フン、このオレが駄菓子屋にデュエルをしにくるような男に見えるのか」

…おう、思いっきりそう見えるぜ!
そう言いたいのをグッと我慢してにへらっと笑う。
あの海馬だ。駄菓子屋にお菓子を買いに来たと言うよりもそれのほうが自然に見える。

海馬の手に見えるのは、うまい棒。
この間の出来事が城之内の頭の中でフラッシュバックする。
「お前…」
口を聞こうとした瞬間、動いた海馬の後ろにあるカゴの山が見えた。
「店主、勘定だ」
「…ってお前コレ全部ー!?」
後ろのカゴは一つなんかじゃない。崩れてきそうなほど山と積まれているのだ。そしてその中にはビッグカツ、5円チョコ、10円のガムにきなこ棒やらがこんもりと。
目の前のスーツ姿の男は本当に似合わない物を持っている。

「…ってあ、そうか。会社の奴らに買ってってやんのか?」
そうだよな、一人分って思うから変なんだよな。いいとこあんじゃねぇか。なーんて思っていたら
「何を言っている。全てオレの物だ」
ってうっそーん!
ありえない。一体何年分だ。
とんでもない回答に目を見開いている城之内を尻目に、海馬はさっさとカードで支払いを済ましている。
ってこの駄菓子屋カード決済OKかよ!というツッコミを心の中で済ませて。

「何人の顔を見て百面相している」
「…あの、海馬さん。参考までに聞きますけど、これって一体何か月分…」
「3日だ」
「ヒィィィ!」
驚愕の瞳を向けるオレを、何考えてんだかわかんない目で見返してくる海馬。
誰か、これは夢だと仰って…!
「お前、いつか塩分過多で死ぬぞ」
当然湧いて出た疑問に海馬はそ知らぬ顔。
うまい棒一つだって結構な塩分量だろう。それをこれだけ摂取していれば病気になること請け合い。
だが、そこは社長様。いつだって社長様。
「フン、貴様のような一般人と一緒にするな。オレを誰だと思っている」
「うっわきたよこのセリフ。へーへー、海馬社長様ですよねー」
「…貴様」
眉間に皺を寄せた海馬を無視して店のおばちゃんがダンボールにせっせせっせと詰め込んでいるうちの一つを手に取り、海馬に見せる。
「お、コレうまいよなー。お前も好きなの?」
「やらんぞ」
「ケチ」
これだけあるのだから一つくらいいいじゃねぇかよ、と思いながらも元あった場所にぶち込む。

「…貴様も」
「ん?」
「貴様も菓子が好きなのか」
身長はそんなに変わるわけではないはずなのだが、上から目線を感じるのは海馬の海馬たる所以か。
「ああ、まぁな。バイト料が入ったときだけ買うようにしてんだけどよ」
「貧乏くさい」
「うっせ!」


支払いを済ませた海馬が店の外へ出ると、城之内も続いた。
片手にはビー玉が入っている昔ながらのラムネ、それとうまい棒。かたや海馬はもちろん手ぶら。先ほどからどこに待機していたのか磯野がやってきてせっせせっせと車へと運んでいる。
手馴れているところから見ると、一度や二度ではないらしい。


「お前さ、ここよく来んの?」
自分も月に一度とはいえ利用していて、今まで会ったことが無いのが不思議だ。
海馬は一瞬何かを考えた後、ニヤリと笑った。
「いや、ここに来るのは初めてだ。いつもは社の近くのコンビニに買いに行くのだが、本日から改装工事をしていてな。仕方無しにココまで赴いたという次第だ」
なるほど。そう言えばココって海馬CPから目と鼻の先…。
それでも車で来るってのは、社長さんだからというより、荷物のためのような気がする。
「テメーがコンビニって合わねぇな。駄菓子屋もだけどよ!」
「生憎とジャンクフードは高級菓子店には置いておらん」
「嫌味なヤローだぜ」
ふと、海馬の視線を追ってみると、磯野が運んでいる箱を見詰めている。その目は、いつもと対して変わらなさそうでいて実はワクワクしている。そういう風に城之内には見えた。

「オレ、お前のこと誤解してたぜ」
「ほお」
どう思っていた、と聞かれ
「いや、食料はオイルかと」
「………貴様っ!」
まぁそう思うのも仕方あるまい。初めて会ったときの印象が酷かったのだから。
殺されかけるわ、その後もごたごたに巻き込まれるわ。
だが、今回の一件で何だか好感が持てた。
自分が楽しみにしていることと同じことを海馬も楽しみにしているんだということが、城之内の海馬を見る目を変えさせた。

と、少し離れたところに車が一台。こちらは海馬のためのトラックではなくベンツだ。


「あ、城之内!」
「おー、モクバじゃねぇか」
降りてきた人物はモクバだった。思わぬ人物がいたことに多少興奮しているのか、走ってこちらへやってくるモクバは、七五三とからかえないほど見事にスーツを着こなしている。
城之内の前までやってきたモクバは、珍しそうに、そして物凄くびっくりした顔で城之内と兄とをみやった。
「め、珍しい組み合わせだぜぃ。城之内、何やってんだよこんなとこで」
そう聞かれても、何と答えていいのやら。
菓子を買いに来たらお前の憧れの兄サマがうまい棒を沢山持っててキャッシュカードで大人買いしてて何だよお前も以外と庶民的なんだなぁ何て思ったりしてあれ?なんかイメージしてたのと違うなぁ何て思ってたなんて言えるはずもなく。

「…というわけだ」
と、隣を見るとちゃっかり海馬が説明してたりして。
オイオイ、なんて思っていたその時。
モクバのことだから空気を読んでくれるだろうなんて思って楽に構えていたのだが、海馬の話を聞き終わると同時に見る見る間に青ざめていった。
「…兄サマ…城之内に喋っちゃったの!?」
「ああ」
ひっしと兄のスーツを握りしめ、問い詰めているモクバの顔は真剣そのもの。
「あ?何、どうしたんだよモクバ」
何をそんなに慌てることがあるだろうか。海馬は仕事のことやその他重大と思われることは何も話していないはず。
だが、モクバの城之内を見る目には何か怖いものを感じる。ここはすたこらさっさと立ち去ったほうがいいのかもしれない…!
「あー、じゃあオレはこの辺で…」
本当はここで飲み干していくつもりだったラムネを握りしめ、じりじりと兄弟から離れていく城之内。だが、モクバが指をパチンと鳴らすと、城之内の四方を黒服の男が囲ってしまった。

「ごめん城之内。手荒なことはしないから」
「充分危険な香りがすんだけど!」
モクバの合図と共に、黒服が一斉に城之内に襲い掛かる…!
憐れ、城之内はあっという間にトラックの中へと押し込まれてしまったのだった。




おのれぇぇ!驀進!

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