[携帯モード] [URL送信]

海馬君ラブ!
1




今日も急なお言いつけに翻弄するメイド。

「部屋にありったけの酒を用意しろ」

 彼女らが仕える君主は不機嫌そうな、それでいてどこか楽しそうな声で内線してきた。
 本日のお客様は2名。このところよくこの邸に足を運ぶようになられた武藤様と城之内様である。彼らは瀬人様の級友であると認識していたがついこの間当の本人によって否定された。
「このオレが友を必要とするとでも…?」
 静かな口調でそう告げられたときその場にいたメイド全てが青い顔になったという。

 だが、本人を無視してこの2人はよく海馬邸へと足を運んだ。
 …といっても、毎日のように顔を出すのは一人、遊戯だけで城之内はバイトが忙しいらしく滅多に顔を出さない。それでも、今までの同年代の来客の無さから考えると多い。

 とりあえずこの海馬邸にある酒をワゴンに乗せ、グラスに氷、ワンカットされたフルーツ、片手でつまめる簡単な食事と一緒に部屋にやってきたメイドは2人の楽しそうな声に迎え入れられる。
「よっ、待ってました!」
「へぇ、沢山あるんだな」
 城之内はオヤジみたいな発言をし、遊戯は溢れんばかりに乗っている酒の種類に感嘆を漏らした。
「貴様らには勿体無いくらいの上等な酒だ。噛み締めるように味わうがいい」
 フフン、と笑う海馬は実は先程仕事から帰ってきたばかり。スーツの上だけを脱ぎ捨て白いシャツ姿。後の二人は学校帰りの制服のままだ。
「海馬、待ちくたびれたんだからさっさと用意しろよ」
「くっ、勝手に上がりこんだ分際で何を言う!」

 城之内と遊戯は学校が終わるとすぐに海馬邸にやって来た。その手にはビニール袋。ガシャガシャと音を立てて持ち込んだ中身は、ビール。海馬邸で酒盛りをしようという魂胆だ。
 未成年保護法に引っかからないように、老けた本田に頼んで買い占めてもらったビール。さっさと飲みたい気持ちが2人を急いたが、生憎海馬は不在。仕事がまだ終了していなかったらしい。
 とりあえずでかいテーブルを避けて地べたに買ってきたビールとサキイカやらピーナッツ、柿の種などのお摘みセットを共にばら撒いた。
「海馬いつ帰ってくんの?」
 びっくりしつつも嬉しそうな二人を見てつい顔が綻んでしまったメイドに城之内が訊ねる。
「瀬人様は本日は7時に帰宅と聞いております」
「しーちーじー!?」
 思いも寄らない時間を告げられびっくりする城之内。現在午後5時30分。7時まで2時間ある。
「どうしようか城之内くん。冷蔵庫に入れておいてもらおうか?」
 このままではビールが美味しくなくなってしまうと、遊戯は言うが、城之内はケラケラ笑って一本を手に取った。
「いいじゃんいいじゃん、先に始めてようぜー」
 プシュッ!といい音を立てて開けられた缶からはガッシャガッシャと勢いよく持ってきたため、泡が勢いよく吹き出し高価な絨毯にあっという間に染みを作った。
「うっわ、やっべー」
 さすがにこの肌触りは普通じゃないと感づいた城之内はあわてて拭く物を探し、かばんの中に入っていた昨日バイト先で使った汗拭き用のタオルをだすとぐいぐいそれを押し当てて水分を吸収した。

 気を取り直して、遊戯も一本を手に取ると缶を床に寝転がせてゴロゴロと回し始めた。こうすると中のビールが治まって、開けても零れないのだそう。じいちゃんの受け売りだと遊戯は笑う。
「じゃ、かんぱーい」
「乾杯!」
 こうして一足速い酒盛りは始まったのであった。



「海馬、オレワインワイン!」
「オレは甘いのがいいぜ!」
「くっ、一人ずつだ!というか貴様等も手伝え!」
 ワインのコルク一つ満足に開けられない城之内と、ビールで既に出来上がっている遊戯はあれこれと海馬に注文をつける。
 城之内には時価200万円の高級ワイン、遊戯には細長いグラスに氷をぶち込むとシャンパンを注ぎその中にフルーツをぶち込んだ。
「うっめー!」
「うまいぜ海馬!」
 何故こんな奴等ごときに高級ワインなど開けねばならん!とブツブツ文句を言う海馬の手にはこれまた高級なブランデー。
「海馬いったいオメーいくつだよー。似合いすぎ」
 地べたに片膝を立てて座り、大きな氷一つを入れたロックグラスを傾ける海馬はどう見ても同年代には思えない。
 ムッと顔を歪めた海馬はぐいと酒を煽ると一気飲みしてしまう。空になった瓶をまた後ろに放り投げ、次はワインに手を出した。
「海馬、オレ次梅!お湯割の梅入れたやつ」
「フン、貴様とてジジイくさい飲み物ではないか」
 そういいつつも用意してあげるところを見るとどうやら相当酔っ払ってきているらしい。普段を考えると海馬が城之内やらのいうことをきいているなんて天地がひっくり返ってもありえない。

 さすがは海馬邸のメイドを務めるだけある。元々用意されていた梅に、日本酒、そしてワゴンの下段にあったポットから熱湯を半分注ぎ城之内に手渡す。
「この梅を潰してから飲むのがいいんだよなぁ」
「美味しいのかい、それは」
 興味深々と言った感じで城之内の手元を覗き込む遊戯。どうやら遊戯は城之内ほど酒が強いわけではなく、海馬が帰ってきてからはフルーツ味の子供だましの酒しか煽ってなかった。
「フ、貴様には少し刺激が強いかもしれんぞ」
「馬鹿にするなよ海馬。オレも同じの!」
 対抗意識を燃やした遊戯に、これまた海馬お手製のお湯割りが振舞われる。だが、日本酒で作るそれはけっこう度数が高く、匂いをかいだだけでくらくらくる。
「う、相棒、交代だぜ!」
「あー、ずっこ」
「ちょっともう一人のボクー。もう!」
 たまらなくなった遊戯の代役として出てきたいつもの遊戯は怒りつつも楽しそうな雰囲気に目を爛々と輝かせた。

 チェンジした瞬間はまだ凛とした顔を保っていた遊戯だが、身体に浸透しているありえないほどの酒気に一瞬にして顔を赤らめた。
「うひゃぁ、すごい飲んでるね…」
 わー、顔が熱いよー、と頬を押さえる遊戯。その言葉さえもはや呂律が回っていない。
「ホラ遊戯!イッキイッキ!」
「己の不始末は己でつけろ遊戯!」
 二人に煽られ、頭の芯までのぼせ上がった遊戯は目の前の温くなった梅酒に手を伸ばすと、グイと一口。
「う…わぁ、ダメだボクには強いよぉ」
 真っ赤にした顔をさらに真っ赤にした遊戯はギブアップとばかりに笑うが、海馬が容赦なく攻め立てた。
「恨むならもう一人の自分とやらを恨むのだな!」
 言うが早いか遊戯の後ろに回ると背中から手を回し、抱きついた。
「うわ、海馬くん!?」
「のめぇ、遊戯ー!」
 遊戯よりも遥かに長い手が遊戯の持っていたグラスを奪うと、無理矢理口へとそれを押し付ける。
「ごぼごぼ!」
「いっけー遊戯!男見せてやれー!」
 必死な形相の遊戯に激励を飛ばす城之内も相当酔っ払っているようで。傍に落ちていたビールの匂いのするタオルをブンブン振り回し応援している。
「オレの酒が飲めんと言うのかー!」
「ごっふーー!」
 もはや酔っ払いと化した海馬の力は並みの比ではなく、遊戯は抗うこともできずに……沈黙した。



驀進!

1/3ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!