今のままでいいから
後頭部すれすれを往き来する指。
それは、まるで自分の髪を壊れ物かのように扱う。
「やっぱり、綺麗だね…輝二の髪」
泉の表情は背後にいるためわからない。
だが、声が普段以上に穏やかなのが聞いてとれた。
(泉の方が綺麗だ)
浮かぶ言葉は頬に熱を残して消えていくだけ。
そういえば
こんな風に他人に触れられるのを許したのは、いつのことだろう
今では触れられる事も嫌じゃなくなっていた。
心地好くて、くすぐったい。
それは相手が泉だから、かもしれないが。
「…私も、こんなに黒くて艶々した髪だったら良かったのに」
淡い金色で風に流れる、彼女の髪の方が断然美しいと思うのに。
やっぱり声に出来ない。
……恥ずかし過ぎるから。
「ありがとう、髪触らせてくれて」
指が離れていくのを感じたその時、無意識に手を掴んでいた。
「こ、輝二?」
突然の事に見開かれる緑の瞳。
手を離して、そのまま金髪に触れる。
今にも燃えてしまいそうな心身を抑制して、一言告げる。
「泉は、今のままでいい……から」
3回瞬きをしてから、
彼女はありがとう、と笑った。
(それは遠回しの誉め言葉)
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