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第1話:MLS七不思議



夕刻の食堂は、夕食をとるMLSの寮生達でがやがやと騒がしい。
MLS──Magic Law School、魔法律学校。長野県安曇野の山中に位置する。国語や算数といった普通教育はもちろん、魔法律の知識も学ぶ魔法律家養成の専門機関だ。

そして最近……MLS内では急速に、ある“噂”が広まっていた──。





第1話:MLS七不思議





「ななふしぎ?」
「そう」

あたしが聞き返した言葉に、親友の我孫子優──ビコはこくりと頷いた。
今は寮の夕食の時間。あたしと違って既に夕食を終えたビコ。その彼女と向かい合わせに座っているあたしは、パンを片手に彼女の話を聴く体勢に入った。

「ユキも聞いた事はあるんじゃない?『MLS七不思議』」
「何で七つなの?」
「…………ま、そこは置いといて」

あたしの問い掛けに、ビコはちょっと呆れたようにスルーした。

……そんなに変な質問だった?

「ほら、こないだ今井先輩が悪霊捕まえたじゃん。あれも七不思議の一つだったんだけど」
「あ、聞いた事ある。六代目校長の胸像に憑いてた悪霊の事でしょ?」

その話は結構有名だ。知らない方が少ないのではないだろうか。

「うん。先輩がその悪霊捕まえる前までは『疾風の六代目校長』っていう七不思議の一つだったんだけど。『魔法律図書館の二階ギャラリーにある六代目校長の胸像だけが金曜の深夜二時、MLSの校庭を上半身だけで全力疾走している』っていう、ね」
「へー」

あたしはパンをひとかじりした。

「それで、七不思議って事は七つの不思議があるって事だよね?他のは?」
「『魔階段の怪談』。この広いMLS校舎の何処かに、壁に向かって続いている謎の階段があるんだって。そこの踊り場にある大鏡の前に立つと、そこにはいないはずの誰かの影がよぎる。それで、その影がこっちに向かって手を──」
「ひゃー、怖い!」
「……ユキ、信じてないでしょ」
「えっ、あっ、信じてるよもちろん!」

慌てて手をぶんぶん振れば、じと目で返された。

「で?で?他は?」

ビコの痛い視線を避けるように、あたしは話を急かす。

「……『モグリのボビー』」
「あ、それなら聞いた事ある。喋る鎧だとか」
「うん、あと『手招きの四番トイレ』」
「それも聞いた事あるなー」
「残りは『七番通路の影歩き』と『顔なし先生』」
「……あれ?それで終わり?」
「まあ、……一応」

『一応』という言葉が気になったけど、取りあえず置いておく。もしかしたら、あたしが今それよりも気になっている疑問の答えに繋がるかもしれないし。

「『疾風の六代目校長』、『魔階段の怪談』、『モグリのボビー』、『手招きの四番トイレ』、『七番通路の影歩き』、『顔なし先生』……」

あたしは両手を使い、指を折って数える。右手の人差し指、中指、薬指、小指、計四本が立ったままの状態で残った。
つまり、全部で六つの七不思議。

「……七不思議ならあと一つあるはずじゃ?だって七つの不思議でしょ?」

ビコは意味ありげに帽子のつばをちょいといじった。そしておもむろに口を開く。


「七不思議の七番目を知った人は、生きて帰れないんだよ……」


──この場だけ、肌寒い空気が走る。
周りは賑やかなはずなのに、あたしはしんとした、閉ざされた空間にいる心持ちがした。

「……ビコが言うと怖さ倍増だよ」
「それどういう意味」
「褒めてんの」

あたしは笑って、パンを全部口の中に納めた。

もうあの空気は漂っていなかったが、ビコは何故かそわそわしていた。

「んん?どしたの、まだ何かあるの?」

彼女は、しばらくしてから口を開く。

「……七不思議にはこういう噂もあるんだよ」
「?」

また怖い噂でも?と思ったが、全く違っていた。

「MLS七不思議のどれかを解決出来れば──特別ルールで成績に上乗せしてカウントされるんだって。内容次第では、飛び級も有り得るって」
「……ふーん……」

あたしはそっちの“オマケ”には全く興味を持たなかった。成績はともかく、飛び級は絶対嫌だ──ビコ達と離れたくない。

「……それで、ユキ、あのさ……」
「『一緒に七不思議を調べよう』?」

あたしがそう言うとビコは驚いたような顔をした。

「な、何でわかったの……?」
「そりゃ、長い時間一緒にいるんだもん。だいたい見当付くよ」

ビコが単なる暇潰しで、こういった信憑性の低い“噂”を持ち出すなんてあまり考えられないしね。

あたしはコップの中のお茶をぐいっと飲んだ。

やっぱりいつ飲んでも苦いや、このお茶。

顔をしかめながらあたしはとん、とコップを置いた。そしてお茶の苦味に堪えつつ、にっと笑う。

「あたしもすっごい七不思議に興味持っちゃった。あたしの場合、謎を解きたいとか悪霊を捕まえたいとかいうよりも体験してみたいって気持ちなんだけどね……七不思議を」

元々あたしは好奇心が旺盛な方だ。

面白そうじゃん、『MLS七不思議』。どういった理由でビコが七不思議を調査したいのか知らないけど──。
でも、あたしならきっと、ビコに一緒に調査しようって言われなくても自分から誘っていただろうな。

あたしは席を立った。

「そうと決まれば寮に帰ってちょいっと計画立てよっか!──ごちそうさま!」





第1話:MLS七不思議(了)

七色の魔声/どり〜む/ふる〜つ村。


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