[携帯モード] [URL送信]
第11話:新たなチカラ



魔法律協会での疲れもすっかり取れ、いつも通りの日常が戻ってきた。いつも通りちょくちょく依頼は来るし、リョウくんもちょくちょく遊びに来る。リョウくんはエンチューにまたさらわれた事を知らない。あたしを捜す途中でいつの間にか寝てしまったと思い込んでいる。流石はエンチュー、リョウくんに気付かれる事なく彼をさらうなんて手際が良いなあなんて感心するつもりは別にないけど、あたしはそれでほっとしている。リョウくんにこれ以上怖い思いなんてさせたくなかったから。

協会へ行く前と変わった事と言えば、以前より積極的に外へ赴き、霊を探し見付けては裁くようになった事。言っておくけど、別に霊が更に嫌いになったから裁こうってわけじゃない。
魔法律書を手に持たずに執行出来るか色々と試してみる為だ。
霊を実験台扱いする、って事に少し躊躇してしまうけど、エンチューが動いている今そんな事言ってられない。
そうして一つ確かな事を見付けた。
それは、手に持たずにというよりも、書を閉じたまま執行すると(しかし書が身体から離れていれば執行出来ない)煉をいつもの数倍持っていかれる事。それも、強力な魔法律ほど沢山。
万一手が塞がったとしても発動出来るのは便利なんだけどね……。
とりあえず、よっぽどの事がない限り書を開けずに発動するのは止めとこう。





第11話:新たなチカラ





今日は天気が良いし、久々に商店街にまで足を運ぼう。そう思ってあたしは事務所を出、商店街に行き着いた。商店街は少し遠いけど、それでも何回も行きたくなるぐらい美味しくて新鮮な食品が沢山売られている。特に魚八という魚屋はあたしのお気に入りの店だ。スーパーなんかと比べものにならないくらい新鮮で美味しくて、その上商店街ならではの顔馴染みサービスも沢山してくれる。しかも、遠慮したくなるくらいにとびっきりのサービス。
今夜は久しぶりに美味しい魚が食べれるなー……カレイの煮付けにしようかな。
そんな事を思いながら足を動かしているといつの間にか魚八に到着。そこで働いているおじさんは、あたしの顔を見るなりぱっと顔を輝かせた。

「おおっユキちゃんじゃあないか!久しぶりだなあ!」
「久しぶり、おじさん」

あたしは挨拶をした。おじさんは人の良い笑みを浮かべる。

「最近来てなかったからどうしたのかと心配してたんだよ。いやー、それにしても相変わらず可愛いなあユキちゃんは!」
「あーまたおじさんはそんなお世辞を……」
「お世辞じゃねえって!娘にしたいぐれえだよ本当に!──ってああいけね、商売忘れちまうところだった──今日は何をお買い求めで?」
「えっと……じゃあこのカレイください」
「あいよ、じゃこれサービスね」

魚八のおじさんはそう言って大きなブリを袋に入れ、同じく袋に入れられたカレイと一緒にあたしに手渡した。

「ええっ良いの?こんなおっきいブリ!」
「良いって良いって!くれるもんは貰っときな」
「あ、ありがとおじさん!」

やっぱり此処はサービス良いなあ。良過ぎて赤字になったりしないかどうかが心配だけど。
お釣を貰って帰ろうとした時、ふとある事を思い出した。

(確か此処って……ムヒョの担当地区じゃなかったっけ?)

ムヒョとの久々の再会を果たしたあの時、あたしの担当地区の隣がムヒョの担当地区だという事を初めて知ったのだ。こんな偶然あるんだなあと正直驚いたのを覚えている。そして此処の商店街はあたしの担当地区のまさに隣の地区。
買い物ついでに訪ねてみよっかな、と思ったけれどその一秒後にはそれが不可能である事もまた思い出した。

(そういえばあたし、ムヒョの事務所の場所知らないんだった……)

確かにあたしはあの時ムヒョの事務所でお世話になったが、行きは気絶していたし、帰りは魔法陣シールでだったから、あたしはムヒョの事務所への行き方を知らない。
しょうがないから今日は帰ろうかな──

「ユキさん!?」

愛称を呼ばれ、え?と思って振り返れば、誰かがこっちに向かって走って来ている。
ロージーくんだった。

「ロージーくん!」
「ユキさん、こんにちは!もう身体大丈夫なんですか?」

あ、あたしの怪我知ってるんだ。まあ当たり前と言えば当たり前かもしれないけど。

「うん、もう大丈夫だよー。ありがと」
「い、いえっ!……そ、それにしても奇遇ですねっ。あの、ユキさんは、どうして此処に……?」
「久々に商店街行こうかなって。ほら、此処の魚八って店の魚美味しいし」

そう言ってあたしは魚の入った袋をがさりと鳴らしてみせる。するとロージーくんは顔を輝かせ、「僕もなんですよ!」と言った。

「ちょうど今日も、魚八に行こうと思っていたところです!」
「あ、そうなんだ!やっぱロージーくんは見る目があるねー」
「いえユキさんこそっ!魚八は新鮮だし美味しいし、何と言ってもサービスが最高ですからね!」
「そうそう!あ、このブリそのサービスで貰ったんだけど、こんなに食べれないからあげるよ」
「ええっ!い、いいんですか!?」
「うんもちろん。あたしカレイあるし」
「あっ、ありがとうございます!」

ロージーくんの笑顔って、本当に眩しいなあ。見てるこっちが幸せになる。

「と、ところで、あの……」
「?」

ロージーくんは何故かもじもじし始めた。何だろう、と思ってあたしは小さく首を傾げる。
するとロージーくんは勢い良く、

「ええと、良かったら、今から事務所に来ませんか!?」

と言った。
予想外の彼の誘いに少しびっくりしてすぐに返事出来ないでいると、彼はかああっと顔を更に赤くして「あ、い、いえ、あの、すっすみませんっ!」と両手をぶんぶん横に振ってついでに頭もぶんぶんと横に振っていた。

「ユキさんきっとお仕事で忙しいのに……!ほんっとすみません!!」
「あ、えと、あたし別に忙しくないし、ちょうど事務所行きたいなーなんて思ってたから、むしろ大歓迎だよ?」
「え、ほんとですか!?」
「うん、ほんとほんと」

そう言えばロージーくんは再び太陽みたいに顔を輝かせ、「じゃあ、早速案内しますねッ!」と何故か物凄い張り切ってムヒョの事務所まで案内してくれた。





それから昼になった今、あたしはムヒョの事務所内でムヒョとロージーくんと一緒に昼食(ブリの照り焼き)を食べている。うん、やっぱりロージーくんの作る食事は美味しいな。
ロージーくんと商店街のお店の話で盛り上がっていると、事務所のドアがいきなり開いた。

「よっ♪ムヒョさん、ロージーくん!あっ!ユキちゃんもいる!」
「ナナちゃん!」

事務所にひょこっと顔を覗かせたのはナナちゃんだった。あたしはナナちゃんに手を振った。その途端フラッシュ。

「やったー!またまたユキちゃんの写真ゲーット!」

……ナナちゃん、写真撮るのほんとに好きなんだなー。特に不意打ち。

「これで四枚目っ♪」

あ、プラス隠し撮り。

「それにしてもユキちゃん、何か久しぶりねー」
「前初めて会った時、あんまり話せなかったしね」
「あっそうそう、怪我もう大丈夫なの?」

ナナちゃんもやっぱり知っていた。

「うん、全然大丈夫だよ。ありがとう」
「ほんと!?良かったあー!」

本当に嬉しそうに、安心したように、ナナちゃんはそう言って笑った。それが凄く嬉しかった。会うのはまだたった二回目だというのに、まるで昔からの友達のように彼女はあたしに接してくれる。あたしを凄く心配してくれる。ナナちゃん、本当に良い子だなー……。


「で」

ムヒョはいきなり口を開いた。
その「で」というたった一言たった一文字だけで、ムヒョの機嫌が悪いという事が、あたしは容易に察せた。いや、彼はその前──昼食の時から不機嫌な様子だったけれど。
とにかく何か嫌な予感がした。ロージーくんもあたしと同じ予感がするのか、はらはらとムヒョとナナちゃんを交互に見始めた。
嫌な予感──此処で何か、嵐が巻き起こりそう、な……。

「オメェは一体何の用があって事務所に来たんだ?ナナ」

ムヒョがそう言いナナちゃんを睨むと、ナナちゃんの機嫌も急降下したように感じられた。

「何よ。用が無かったら事務所に顔出しちゃいけないわけ?」
「フン。うるせェのが増えるだけだ」
「なっ……」
「ムヒョ……!」
「わかったわよ!出てきゃ良いんでしょ出てきゃ!」
「あわわ〜!」

ばあん!とナナちゃんは大きな音を立てて荒々しくドアを開けた。そのまま出て行くのかと思いきや、彼女は何を思ったのかそこでくるりと振り返り、

「言っておくけど、」

ムヒョにびしっとかっこよく指を突き付けた。さながら宣戦布告の如く。

「ユキちゃんはムヒョさんだけのものじゃないんだからねッ!!」
「ッ!!」

ムヒョがナナちゃんに向かって投げ付けたジャビンは目標に到達するよりも先にナナちゃんによってばたん!と開けた時と同じく荒々しく閉められたドアに激突し、虚しく地面に落ちた。
そして少しの静寂が訪れる。

……どうやら、ムヒョとナナちゃんとの相性は最悪らしい。

──って、聞き間違いじゃなければさっきナナちゃんの台詞にあたしの名前が出て来た気がするんだけど。もしかしてこのムヒョとナナちゃんが巻き起こした嵐には少なからずあたしも関与してるって事?あたしのせい?

「ちょ、ちょっとあたしナナちゃん追い掛けてく!」
「えっ、ユキさ」

ロージーくんの言葉を最後まで聞かずにあたしは事務所を出た。

もしもナナちゃんのよくわからない怒りの原因に少しでもあたしが入っているんだったら、ちゃんと謝らなくちゃ。





怒りモードのナナちゃんは歩く速度がアップするらしい。
ナナちゃんはあたしの10m先をすたすたと早足で歩いており、一方あたしは小走りで彼女を追い掛けているのだが、一向に距離が埋まらない。全速力で走ればもちろんナナちゃんに追い付けるのだろうが、何となく、彼女に近寄り難かった。ナナちゃんが何者も自分に近付くなオーラを放出しているような気がするからだ。

「……。あっ」

ナナちゃんは角を曲がってあたしの視界から消えてしまった。

「……ナナちゃんて怒ると恐いんだなー……ほんとに」

これから先、なるべくナナちゃんは怒らせないようにしよう。
そんな事を密かに誓っていた矢先。

「きゃああああっ!!」

悲鳴が。先程、ナナちゃんが角を曲がった方向から。

「ナナちゃん……!?」

あたしは急いで走って角を曲がった。
その途端、大量の霊燐がぶわっとあたしを襲った。今まで抑えていたものを一気に放出したかのようだ。実際そうに違いない。
そして、霊燐の向こうには、ナナちゃんを捕えている巨大な悪霊が。

『動クナヨ。順番ニ喰ッテヤル。ゲヘヘヘヘ……!』
「……!」
『美味ソウナ人間ガ二匹モ!マズオマエノ方カラ喰ッテヤル』

悪霊はあたしを指差した。

『少シデモ変ナ素振リヲ見セタラ、コッチノ女ヲ殺スカラナ……ゲヒャヒャヒャヒャヒャ!』
「いやっ……!」
「ナナちゃん……!」

あたしは唇を噛んだ。
魔法律書は懐中。取り出そうとすればナナちゃんが……!
面倒な事になった。ほんっと……あたしって、人質に弱いな。

「ユキさん!ナナちゃ……──っ!?」
「あっ……ロージーくん!」

事務所を飛び出したあたし達を走って追い掛けて来たのか、息を切らしたロージーくんが現れた。彼は目の前の出来事に目を見張る。

「こっ……これは……!」

ロージーくんはそう呟いて息を呑んだ。

『ゲヘヘヘ……。モウ一匹増エタゾ……美味ソウナ人間ガ……!』
「……悪霊……!」

悪霊は、涎を垂らしながらあたしとロージーくんを見下ろす。

『動クナヨ……。ゲヘヘヘ。今日ハ大漁」
「ナナちゃんを離せ!『魔縛りの術』!!」

ロージーくんは霊の『動クナヨ』を無視してフダを投げた。霊の脅しに屈しないロージーくん、度胸があるというか、凄い。もしかしたら聞いてなかっただけかもしれないけど……。でも、これで術が効けばこっちのもの……!ロージーくんのお手柄だ。
だが心の中で感嘆したのも束の間。フダはぽぽんっと何とも間抜けた音を発して不発した。悪霊はそれを見てにやりと顔を歪ませる。

『何ダ驚カセヤガッテ。動クナト言ッタハズダ。次動ケバコノ女ヲ殺ス』
「ナ……ナナちゃん……」

ロージーくんはフダに印を印す為の魔具、魔封じの筆を片手に呆然としていた。悪霊はそんな彼を見下ろして口を開く。

『──オマエサッキノ様子カラ見テ魔法律家ダナ?ゲヒヒ……ッ。オレハ魔法律家ヲ一匹、喰ッタ事ガアル』
「!」
「ま、魔法律家を──!?」

その場に、戦慄が走った。

『魔法律家ノ味ハ最高ダッタ!ゲヒ、ゲヒ、ゲヒャヒャヒャヒャ!!』
「うるせェナ」

聞き慣れた声が、霊の下品な笑い声を遮った。振り返れば、そこには黒い執行人の姿が。

「ムヒョ!」「ムヒョさんっ!」
「ヒッヒ。強い霊気を感じて来てみれば──やはり面倒事に巻き込まれていやがったか」

ムヒョはいつものシニカルな笑みを浮かべる。
悪霊はムヒョを凝視しながら、呟いた。

『……黒イマント……魔法律家、執行人ダナ……!?』
「フン。博識じゃねェか。只の悪霊じゃなさそうだナ」
『当タリ前ダ……!オレハ魔法律家ヲ喰ッタ事ノアル霊ダ!動クナヨ。少シデモ動イタラコノ女ヲ殺スゾ!』
「チッ……マジで面倒なやつだナ……!」

ムヒョは本当に面倒臭そうに眉間に皺を寄せた。ひょっとしたらという希望はあったが、彼の様子から察すれば、今のところ作戦はまだ思い付いていないらしい。ってだめだ、いつまでもムヒョに頼ってちゃ。あたしも頭を回転させ──ってあ。

『ゲヒヒヒヒ。サァテ、ドイツカラ喰ッテヤロウカ』

何でもっと早く気付かなかったんだろう。
自分の阿呆らしさに嘆息したくなった。全く……ここ最近毎日やっている事なのに!

「……ねえあんた」

悪霊は自分に話し掛けた人間、つまりあたしを見下ろした。

「その子を人質にするんじゃなくて、あたしを人質にしたら?」

あたしの突拍子もない申し出に、当然悪霊は困惑した。悪霊だけではない。その場にいる全員が、困惑の色を見せた。

『何ダト……?』
「ほら、見ての通りあたしは魔法律家じゃないから何にも出来ないし……だから、その子の代わりに、あたしを人質にしても大丈夫でしょ?」

ロージーくんはぽかんとしてあたしを見た。ムヒョまでもが訝しげな表情であたしを見る。

『……ソレデ?オマエニ利益ハアルノカ?』
「えっ」
『利益ガナイクセニ人間ガソンナ事スルハズナイ』

一瞬、感づかれたかと思ったが違ったようだ。あたしは少し息を吸った。

「その女の子が人質になっているのが嫌なの。それだったらあたしが人質になった方が良い……そういう考え方の人間って多いんだよ?」

悪霊はあたしの台詞にしばらく考慮して、口を開いた。

『確カニソウカモシレナイガ……マア良イダロウ。変ナ真似ハスルナヨ』
「ちょっ、そんな……ユキさん!」
「ユキちゃん何で……!」
「……ユキ、何のつもりだ……?」

あたしは直接質問に答えなかった。

「大丈夫」

それだけ言って、あたしはナナちゃんの代わりに霊に捕らわれた。

『……人質ヲ代エヨウガコノ場ニイル人間ハ一匹残ラズコノオレニ喰ワレルトイウ事ニ変ワリナイトイウノニ。愚カナ奴ダ。オマエノ様ナ人間ガ多イナンテオレニトッテ好都合コノ上ナイナ』

愚かなのはあんたの方だよ。そしてあたしが人質になったのはあたしにとって好都合この上ない。最終的に勝つのはあたし達。
あたしには、“異例の能力”──魔法律書を開かずに発動出来る能力を持っている。まさに今が使うべき場面と言えるのでは。

『ソレニシテモ霊感ノアル人間四匹、シカモ内二匹ガ魔法律家トハ……』

霊はぺらぺらと喋り続ける。そのお陰であたしは霊に気付かれる事なく呪文を唱え終わりそうだ。

「魔法律特例法第82項より──」
『皆美味ソウダ……!アア、ドイツカラ喰ッテヤロウカ本当ニ迷ッテシマウ!』
「『銀の鎧』を発令する!」

銀の光があたしを包んだ。霊は銀の鎧に包まれている人物に触れる事が出来ない。その為、悪霊はまるで火傷を負ったかのように小さく呻きあたしを取り落とした。落下する途中であたしは今度は魔法律書を取り出し、銀の鎧を解除した。結構な高さから落ちた為、着地時は足に衝撃が走ったが痛がっている暇はない。着地と同時に素早く書のページをめくる。

「魔法律第1211条『食人未遂』の罪により『縛口』の刑に処す!」
『ヴッ!?ギャアア──……ッ!?』

地獄の使者が悪霊の口を縛った。喋れなくなった悪霊は唸り、もがいている。

あたしが人質になり書を取り出さずに自分に銀の鎧を発動させる事によって、書を取り出す時間や相手に銀の鎧が作用される時間を埋める。また灯台下暗しという言葉にも賭けてみた。

「もうこれで何にも美味しいもの食べれなくなるね」

悪霊は口を縛られたまま呻いてあたしを睨んだが、それで何かなるはずがない。そのまま霊は地獄へと堕ちていった。

「──っ、と……」

くらり。足に力が入らなくなって、あたしは地面に倒れ込む。

「ユキさんっ!?大丈夫ですかっ!?」

ロージーくんの声。仰向けに倒れたまま、あたしはそちらに目を遣る。ロージーくんだけでなく、ナナちゃんやムヒョも駆け寄って来るのが見えた。

「ユキちゃん!良かったあ……!」

あたしの顔を凄く心配気な顔で覗き込んだナナちゃん。

「ナナちゃん……怪我はなかった?」
「アタシなんて!ユキちゃんのお陰で無傷よ!それよりもユキちゃん──」
「良かった……ううん、あたしも大丈夫。ちょっと魔法律使って疲れただけ──」

ムヒョと目が合った。

「……ユキ、オメェ……」
「ぎゃふんって言って」

ムヒョを遮ったあたしの言葉は彼にとって突拍子のないものだったのだろう。しばらく経ってから、やっとムヒョは「は?」と声を発した。

「だから!びっくりしたでしょ?ぎゃふんって言って!」
「……アホか、オメェ」
「あ、あほじゃないもんっ……」
「フン。まあ、オメェにしてはよく出来たと思うがナ……ヒッヒ」





──それから後は、眠気に負けて意識を手放した為覚えていない。
次に目を覚ました時、あたしはまたムヒョのベッドで寝ていた。そして何故かムヒョが不機嫌だった。

「……ねー、何でそんなにムヒョは不機嫌なのさあ」
「うるせェ。別に普通だ」

まあ確かにいつもと大して変わらなさそうに見えるかもしれないけど、何度も言うようになるが、あたしにはわかる。ムヒョは今不機嫌モードだ。

「(……ベッドまた占領した事怒ってんのかなあ?)」
「(アイツ……人が折角褒めてやってる時に寝やがって……!)」





第11話:新たなチカラ(了)

舞雪/どり〜む/ふる〜つ村。


あきゅろす。
無料HPエムペ!