Mement mori


 Amore、と囁かれることに恐怖はなかった。例え相手が他の女だろうと。
 ただ一つ、この人が私の死んだ後にただ一人残されることが何より恐ろしい。

「ビラブド」

 愛しげに愛しげに彼は私の瞳を覗き込んだ。
 私は彼を愛している。そのことに関してはなんの後ろめたさもないのに。彼の名を呼ぶ時、私はいつも躊躇いを禁じ得ない。

「ロマーノ」

 どうして私なんかを愛したの。置いてゆかれることを何より恐れているあなたなのに。
 ――私があなたより先に逝くことなどわかりきったことなのに。

「ビラブド、ビラブド、愛してるぞ。この世の何より」

 ロマーノはいつだって“人”を愛するのだ、と彼の弟は言う。
 あなたに愛された今までの女性を憎んだりはしない。この先愛される女性達にしろ同様だ。
 一生愛されるよりも――最期を看取られるよりも、あなたを悲しませてしまうよりも、いつかはあなたが他の女性へと去ってゆくことの方が望ましいなどと思うのはさすがに傲慢なのだとわかっているのに。

「Amore」

 あなたの愛に酔いきれない私を許して。


(Memento mori――carpe diem)
汝いづれ訪れる死を思い、短き生を楽しめよ。

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ロマーノは一度付き合いだしたらどこまでも真剣なイメージ。
2009/05/09
(2010/01/02モバイル公開)

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