秋風の頃


 気の早い太陽が柔らかく辺りを黄金に染める中、せっせせっせと箒で落ち葉やゴミをかき集めてビラブドは呟いた。

「最近寒いねー」
「……そが?」

 きょとん、として訪ね返すベールヴァルドの姿は、長袖カッターシャツを肘まで捲り上げた、金の腕毛もたくましいものである。
 ブレザーの袖から黒い長い厚手のカーディガンで覆われた手を覗かせてビラブドはベールヴァルドの旋毛を見下ろした。

「ベール君、今日の最高気温14℃だよ?」
「ん……まだまだぬぐいな」
「そっかー」

 頼もしいねー、と笑ってビラブドはツッコミを諦めた。

「この高校は床の拭き掃除なくて楽だね。お外の掃除は増えたけど」
「だなぃ」

 サッサッと箒を動かすビラブドを、チリトリを押さえるベールヴァルドは愛しげにガン見する。正確には目の前の揺れるスカートからチラチラと覗く白い膝小僧を。

(ええ眺めだなぃ)

 もっと際どい場所も沢山見てるが、幾ら見ていても見飽きない。

「この辺はもうおしまいだね。あっち行こっか」
「……ん」

 うっかり脚を抱き締める前に声をかけられて良かった。心底良かった。そう思いながらベールヴァルドはてこてこ歩くビラブドの後をゆっくりとついていく。
 ぴゅうっと一際冷たい風が吹いてビラブドは身を縮こめた。殆ど無意識に箒を抱き抱え、手を口元にやって、ほぅ、と温かい息を吐きつける。そのまま冷えた指先をにぎにぎと揉み込んでいると不意に横から手を取り上げられた。

「う?」

 右腕の先を視線で追いかけるとベールライヴァルドの難しい顔に突き当たる。

「ベール君?」

 きゅ、と指先を握り込んでその顔が厳しさを増す。

「……冷やっけぇ」
「ベール君のお手々はあったかいね」
「めろっこが体冷やすんでね」
「うん、心配してくれてありがとう」

 まじまじと、半分以上は冷えの引き起こした血行の悪さのせいで白い手を見つめ、ベールヴァルドは静かに唇を落とした。

「わ」

 声を上げたビラブドに目線で問いかける。

「ん?」
「ベール君、ここじゃ恥ずかしいよ」
「……ん」

 名残惜しげに手を開いたベールヴァルドにギリギリ聞こえるように声帯を震わせずに舌先だけで囁く。

「二人っきりの時にね」
「!」

 息を呑んだベールヴァルドが口を開いたそのときだった。

「こらそこイチャついてんな! 俺の分も掃除しろ!」
「君も掃除しようね、ギルベルト君」
「ちっちゃい子とゴツい男の組み合わせってこう、クルものがあると思わないかヘラクレス」
「ん……フランシス……この前サディクの変態が言ってたのと同じこと言ってる……」

 うわぁ、と呻き声にベールヴァルドが首を傾けてそちらを見ると、ビラブドが頬を押さえて俯いていた。

「恥ずかしい……」
「……すまねぇなぃ」
(……めんげぇ……!)

 反省するどころか逆にほわわん気分で謝るベールヴァルドは、勿論ビラブドが態度に出すほどには恥じらっていないことはわかっている。しかし「かわいい女の子」の演出を見るのもなかなか楽しいものである。
 ――但し、程度の差こそあれビラブドが人前で過度にイチャつくのが好きでないのは事実なので、調子に乗りすぎないようには気を付けているが。

「とっとと掃除しろー!」
「はぁい」

 二人きり、そう、二人きりならば誰憚ることなくイチャつくことができる。ベールヴァルドは無表情の下で人知れず奮起した。
 さぁ時よ早く過ぎよと祈りながらベールヴァルドは身を屈め、またビラブドを、その可愛らしい膝小僧を見詰める作業に戻るのだった。

****************

掃除班がカオスですが気にしない気にしない。
後半スーさんをアホにし過ぎた感がないでもない。

 ――前にもいったような気がするネットで見かけたうろ覚えの文章曰く、「スウェーデン人の恋人達はいついかなる時も恋人同士である。教室や廊下や公園でも彼らは指を絡めあったりキスをしたりする」
 ――萌え。
2009/11/26
(2010/01/02モバイル公開)

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あきゅろす。
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