甘い生活

 ベール君の寝顔は結構柔らかい表情をしてる。それは視力の悪さが関係しないせいもあるんだろうけど、私の隣だと安心できるから、という説を是非採用したい。勿論、願望に基づいて。
 ソファで眠るベール君を眺めているのは全然飽きない。時々体を安定させようと無意識に手足を動かすのもちょっとかわいい。ぴくぴくとその眉が動き出した。

「ん……」

 ぼんやり、目が開く。ちょうど正面にいた私に焦点を合わせようとしたのか、ぐぐぐぐぐっと眉間に皺が寄る。その面相の変化はもはや神秘的でさえある。
 凶悪。その正しく二文字につきる。元の顔立ちが整っているだけに威圧感倍増。ガタイの良さでさらに倍。
 やがてその眼力が緩んだ。軽く疑問符が頭に浮かんだようなその様子がかわいい。自信なさげに呟いた。

「ビラブド?」
「そうだよ。はい、眼鏡」
「……ん」

 眼鏡つけたまま居眠りしていたけど、危ないから外した。
 つるをのばしのばしする様子がちょっとかわいい。こんなの眼鏡してる人なら誰だってする動作なのに。ラヴ・イズ・ブラインド。ああ、私ってばベール君大好きだなあ。

「……」

 眼鏡を着けようとしていたベール君の動きが止まった。あらら? 少し考え込んでいたベール君は今度は眼鏡のつるをおりおりして机の上にそっと置いた。

「ビラブド」
「うん?」
「こっちゃ、来」
「うん」

 なんだろ。言われるままに近づくと腰を引かれて膝裏から持ち上げられてストン、と綺麗にベール君のお膝の上に座らされた。あれれ?
 すぐ近くの顔を見上げる。優しい視線に晒されてうっかり流されそうになったのは内緒だ。

「ベール君、何? どしたの?」
「よぐ見えねっがら」
「……眼鏡つけたら?」
「こっだら近くじゃ邪魔だべ」

 ……つまり、もしかしなくてもベール君は単に私にひっつく口実が欲しかったの……?
 ピクピク動いた口元に気付いたのか。ベール君がちょっと悲しそうな顔をする。

「嫌?」
「……嫌じゃない、けど……」
「けんど?」
「近すぎて、恥ずかしいよ」

 肩に顔を埋めると、ベール君の声がした。

「めんげえ」

 優しく頭に添えられた手がさりげなく退路を断つ。
 ぐっと、首筋に押し当てられた、少し乾燥した、だけど柔らかいものの正体は容易に想像がついた。
 熱く、湿った吐息がうなじにかかる。
 堪まらなくなって顔を上げるとすかさず頬摺りされた。

「やわっけえなぃ」
「……ん、ふぅ」

 ちゅ、と音を立ててほっぺたに吸いつかれる。どうしよう、今すごく幸せな気分だ。
 ずっとこうしていたいなあ。そう思いながら広い胸に完全に体を預けた。
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たまには超至近距離でじっくり眺めたかったけど恥ずかしがられたのでいちゃいちゃに切り替えたお茶目なスーさん。
2011/08/17

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