風の冷たい初夏のある日
 ビラブドはあっけにとられた。曇天の下でベールヴァルドが校庭の水道で水を被っていたからだ。

「ベール君、今日の気温20度になるかならないかだよ」
「ん。大分ましだけんどあづいな」
「……そう、大変だね」

 吹いた風に肌寒さを感じ、ビラブドは体を抱き締めた。

「そのままだと風邪引いちゃうよ」
「大丈夫だ」
「ダメ!ちゃんと拭かなくちゃ」

 鞄の中を探し回り、タオルを引っ張り出す。

「はい、ちょっと屈んで」
「ん」

 ベールヴァルドの少し長い金の髪が揺れる。ポトリ、水滴がしたたってビラブドの鼻先をくすぐった。

「――脱いで」
「ん」

 しっとりと張り付いていたシャツの生地が剥がされていく。居心地の悪さを感じながら、ビラブドは湿った肌に軽くタオルを滑らせていった。
 キラキラと微かに光る胸の毛をどぎまぎしながら見つめる、ビラブドの赤みをました頬を、ベールヴァルドは物欲しげに見ていた。

「さ、後ろ向いて」
「ちょっと待っちょれ」
「うん?」

 ビラブドに首をを傾げる暇さえ与えず、ベールヴァルドはビラブドをきつく抱き竦めた。

「ちょ、ベール君!」

 裸の胸板に押し付けられてビラブドの顔に血が上る。冷えているはずのベールヴァルドの素肌がひどく熱く感じられてビラブドはいたたまれなくなった。
 このまま身を預けていたいという願望はある――勿論、ある。しかしここは校庭なのだ。いつ、そう、今この瞬間でさえ誰かがやってきてもおかしくない。

「や、だ。離してよ」
「嫌だ」

 ちゅ、と頬に何かが吸い付いて離れる。

「あぁ、めんげぇ」

 激しい欲求を無理矢理押さえつけたことがありありと聞いてとれる掠れた声に、心臓の裏側を舐められたような恐ろしいほどの甘さの震えがビラブドの体に走った。

「ベールくん……」

 しっかりと大きな手がビラブドの顔を掬い上げるように包み込んで上を向かせる。眼鏡をかけていないせいで凶悪に鋭い視線を、しかしビラブドはうっとりとして受け止め返す。
 吐息さえ触れ合うほどの近さで、ベールヴァルドは囁いた。

「――続きはあとで、な」

 カッと火がついたように耳まで真っ赤になる。今すぐして欲しかった、なんて、ビラブドに言えるはずもなく。しかもベールヴァルドはそんなビラブドの気持ちなどわかりきっているのに間違いなかった。

「ベール君のバカ!」

 ぷりぷりして去っていくビラブドの背中をベールヴァルドは上機嫌で見ていた。


 さて、ところでビラブドがやって来る少し前からすぐそばの茂みの後ろで小鳥にパンくずをやっていたギルベルトが、スンスンと一人「彼女欲しすぎるぜー」と呟いたのだが、誰にも気付かれぬまま風に乗って消えていった。
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本人たちは気づいてないけど間違いなく二人はばかっぶる。
ふびびびーん。
2010/06/28

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あきゅろす。
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