熾き火
熱い、目をビラブドはする。
熱く、静かに、燃える、焦げる、爆ぜる、目を。
あの目を俺は知っている。――恋に苦しむ人間の目だ。
(俺の目も今あんな風なんだぜ?)
あれほどの情熱を渦巻かせていながら、ビラブドの周りはあまりにも静かで、殆ど無音に近い。
(どうして誰も気付かないんだぜ)
じっと、ビラブドはひたむきに視線を注ぐ。相手に――気付かれないように注意深く、慎重に忍ばせて。
(どうしてアイツは気付かないんだぜ)
その視線の先にいる男は決して俺ではない。そんなことはとっくの昔に知っている。
(どうしてビラブドは)
耐えられるのだろう。今にも火を噴かんばかりの温度の気持ちをその身の内に留めておくことなど。
本当は見ていたくなどないのだ。他の男にそんな目を向けるビラブドなど。
だけど目をそらすことが出来ない。心を燻らせているビラブドの姿は何より美しく俺の目に映るから。
じわりとみつめる目の縁が熱を持つ。
一度でもいい、あの目を向けられるのなら、きっと俺は何だって出来るのに。
今強引にこちらに振り向かせても、決してビラブドの目はあんな朱を帯びてはいないのだ。
俺はぎゅっと袖の中で拳を握り締めた。
熱い、目をビラブドはする。
熱く、静かに、燃える、焦げる、爆ぜる、目を。
まるで熾き火のように――そして俺は目を離せない。墨の中で炎が揺らめくさまが美しくて。
そ、とビラブドは一度瞼で炎に蓋をする。
再び開いたビラブドの目にはいつもと同じ、静かでひんやりと心地よい強い光だけが宿っていた。
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灰になる日など、当分来ない。
2009/05/04
(2001/01/02モバイル公開)
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